対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第15回 「チャンク」の変化で気づきを促すコーチング

2025/10/16

 ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。

 

この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。

 

 対人支援の現場において問題に直面したとき、デキるケアマネは、問題そのものではなく、「問題解決」に焦点を当てる必要があります。そこで第13回・第14回にわたり、「問題」ではなく「問題解決」にフォーカスできるように気づきを促すコーチングを解説しました。今回は、視点を変えるスキル「チャンク」について紹介します。


視点を変えるスキル①「チャンク」

 コーチングにおいて、物事を捉える切り口の大きさをチャンク(Chunk)と表現します。直訳すると「かたまり」のことで、話題の抽象度合いを指しています。

 

ビッグチャンク(Big Chunk):抽象度が高く全体的なイメージ

ミドルチャンク(Middle Chunk):ビッグチャンクとスモールチャンクの中間

スモールチャンク(Small Chunk):具体的な細かい情報

 

 コーチングの場では、対話中に相手の言葉のチャンクにアンテナを立てて捉えることが重要です。たとえば、「仕事がつらい」という訴えは具体性が低く抽象度が高いためビッグチャンクに該当します。「利用者との会話が苦手」と聞かれれば、先の訴えより具体性が増しているためミドルチャンクとなります。「初対面の利用者が苦手」とさらに具体化された表現となればそれはスモールチャンクと捉えられます(図 例1)。

 

▼図 チャンクダウンとチャンクアップ

 

 ほとんどの人は一つのチャンクにとらわれて考えが凝り固まっていることが多いため、チャンクを変える質問をすることで、視点を変え、行動に結びつける足がかりをつくります。


1. 具体性を追求する「チャンクダウン」

 相手のビッグチャンク(抽象的な話題)に対して、より具体的な内容にほぐしていくのが「チャンクダウン」です。

 

 たとえば、相手が「仕事が楽しい」というビッグチャンクを発した場合、「仕事が楽しいって、具体的にはどんなことなのですか?」などと問いかけます。その結果、「職場の人と話すのが楽しい」(ミドルチャンク)や「隣に好きな人がいる」(スモールチャンク)といった具体的な内容を引き出します(図 例2)。

 

具体的な問いかけ:「それは具体的にはどういうことですか?」と掘り下げる質問がチャンクダウンにあたります。情報をさらに掘り下げるためには、5W1Hを活用しましょう。

行動化の促進:チャンクダウンした後には、「何から始めたらよいと思いますか?」や「今すぐできる行動はどんなことがあげられますか?」と問いかけることで、気づきに伴う行動化が進みます。


2. 原点に立ち戻る「チャンクアップ」

 チャンクダウンとは逆のスキルが「チャンクアップ」です。いくつかの小さなものを大きなかたまりにまとめあげることで、具体的な内容の集まりから抽象的な概念を抽出するスキルです。

 

 たとえば、相手のスモールチャンクである「新プロジェクトの資料作成がうまくいかない」に対して、「資料の中で最も重要な内容にもかかわらず、うまく表現できていないことは何ですか?」と問いかけ、「チーム全体の方針共有化と業務連携の方法」というミドルチャンクを引き出します。さらに、「この資料作成によって最終的に何を目指していますか?」と質問することで、「プロジェクト全体の成功」というビッグチャンクにまとめていきます(図 例3)

 

有効な場面:特に、相手が枝葉末節の話に終始している場面で、「そもそもあなたは何を目指していたのでしょうか?」とチャンクを引き上げる質問をすることは、効果的なチャンクアップです。本来の目標を相手に思い出させるときなどに有効に活用できます。


3. 発想の転換を引き出す「スライドアウト」

 具体的な行動に移行するには、視点が変わる気づきが必要です。チャンクダウンやチャンクアップで物事を頭のてっぺんから足元まで見渡すだけでは、まだ気づきに至らない人もいます。

 

 そこで、物事の左右を見渡す機会を作るのが「スライドアウト」です。これは、「チャンクダウン」「チャンクアップ」と合わせて活用することで、視点が点から線、線から面に拡大していくことを体感できます。

 

方法:「ほかには何か(アイデアは)ありますか?」と問いかけます。最低でも3回から5回くり返し、必要に応じて10回、20回と同じ質問を重ねます。

注意点:事務的に質問するだけでは成果は上がりません。視点を変えることを目的に、相手の発する一つひとつの答えに、最大級の関心を寄せることによって成り立つスキルです。