対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第16回 「軸」の変化で気づきを促すコーチング
2025/10/30
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
前回(第15回)は、視点の切り口の大きさである「チャンク」を変える質問スキル(チャンクダウン、チャンクアップ、スライドアウト)について解説しました。今回は、もう一つの視点を変えるスキルである「軸」を変える質問と、実際の対話例を見ていきます。
視点を変えるスキル②「軸」
「軸」とは、中心や基準となる直線のことで、その人にとっての判断軸です。人はこの軸を複合的に活用しながら物事を見たり考えたりしますが、次第に視点のパターンができあがり、判断軸が固定化していく傾向があります。
たとえば、「今ここ」に軸をおく人は、目標に対してすぐにできることから始めるのに対し、「いつかどこかで」に軸をおく人は、目標はそのうちにかなえばよいと呑気に過ごしているかもしれません。
コーチングでは、主に以下の4つの軸を意識した質問で、相手の視点を変え、新たな気づきや行動促進に働きかけます(図表)。
▼図表 4つの軸の質問例
| 視点の変え方 | 視点の変え方 | |
|---|---|---|
| 1.時間軸 | 「過去」「現在」「未来」の三つの時間軸の視点を活用する | 「1年後から今を見たとき、今すぐ始めたほうがよいことは何ですか?」 |
| 2.空間軸 | どこから今の状況を眺めるかという視点で質問する | 「今この状況を天井から見たとき、あなた自身はどのようにみえるでしょうか?」 |
| 3.人物軸 | 話に登場する関係者の立場になって見渡すことを促す | 「あなたが相手の立場なら、あなたが伝えた発言をどのように受け止めるでしょう?」 |
| 4.状況軸 | 直面している状況を変える「if質問」を行う | 「もし達成までの目標期間が今の半分に短縮されたら、あなたはまず何をしますか?」 |
このように、「チャンクを変える質問」や「軸を変える質問」を駆使することで、視点を変え、新たな気づきを引き出すことにつなげていきます。
事例から学ぶ:新しい気づきを引き出す対話例
ここで、管理者である上司Aと、目標達成に悩む部下Bの対話例をみていきましょう。
【NG:視点が変わらない対話例】
上司A:先日面接で確認したあなた自身の目標はその後どう?
部下B:あまり進んでいなくて。目標が高過ぎるのかもしれません
上司A:高すぎるとは思えないけど、うまくいってないの?
部下B:頑張ってはいるのです。でもどこから手をつければよいかわからなくて
上司A:目標は『でも』って言わないことだったよね。意識して臨めば多少は成果も出るでしょう?
部下B:そうなのですが、でもダメなんです
上司A:確かにまだ『でも』って言ってしまうね。とにかくあなた自身が頑張るしかないから、しっかり取り組んでね。Bさんなら大丈夫
部下B:はい……、わかりました
上司Aは、目標達成に向けて四面楚歌になっている部下Bに対して、ただプレッシャーを与えるだけの対話になってしまい、新しい気づきを引き出すことができていません。
【OK:新しい気づきを引き出す対話例】
上司A:先日面接で確認したあなた自身の目標はその後どう?
部下B:あまり進んでいなくて。目標が高過ぎるのかもしれません。
上司A:あまり進んでないということをもう少し詳しく話してくれるかな?スキル①- 1 チャンクダウン
部下B:目標は『でも』って言わないことですが、どうしても無意識に言ってしまうようです。周りからも以前とあまり変わっていないと言われます。視点の変化
上司A:そうですか。そもそもBさんがこの目標にしたのはなぜですか?スキル①- 2 チャンクアップ
部下B:周りの人たちとの関係がギスギスしてしまって。同僚のCさんに理由を聞いたら『でも』って何回も言うからだと教えてくれました。視点の変化
上司A:同僚のCさんはBさんが大事だから本当のことを伝えてくれたようですね。よい関係ですね。ところで、『でも』って言われた相手は、どんな気持ちになっていたのでしょう?」スキル②- 3 人物軸を変える質問
部下B:それは、全否定されたようで気分が悪いでしょうね。自分はそんなつもりはまったくないのですよ。でも、モチベーションも下がって、自分とはかかわりたくないと思うかも…。視点の変化による新たな気づき
上司A:Bさん、この目標達成のために、もし誰か一人に強力な支援をお願いできるとしたら、誰に何をお願いしますか?スキル②- 4 状況軸を変える質問
部下B:それは考えなかったですね。断られるかもしれませんが、Cさんに、自分が『でも』って言ったときはその場ですぐに指摘してもらえたらありがたいですね。視点の変化による新たな気づき
上司A:とってもよいアイデアですね。実際にお願いしてみますか?
部下B:ダメもとで一度相談してみます新たな行動
上司Aは、「チャンクアップ」「チャンクダウン」「人物軸を変える質問」「状況軸を変える質問」で部下Bの視点を変えることに成功しています。また、新たな気づきや行動を引き出すところまで到達しています。コーチングスキルを適切に活用できると、今までにない生産性の高いかかわりが可能になります。
まとめ
以下の3つの点を意識して、気づきを促すコーチングの実践に役立てましょう。
・相手の視点を変える質問で相手から新しい気づきを引き出しましょう
・発言の「チャンク」に着目し、上下左右の質問(チャンクダウン、チャンクアップ、スライドアウト)で視点を動かしましょう
・「軸」(時間軸、空間軸、人物軸、状況軸)を変える質問で、想像を超えた新たな視点を見出しましょう
