対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第12回 自分のタイプを知ろう!<後編>タイプ別コーチング活用術
2025/09/04
ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。
この記事の監修者
眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。
前回(第11回「自分のタイプを知ろう!<前編>コーチング流タイプ分け」)は、「タイプ分けチェックテスト」によって4つのタイプに分類する方法を学びました。今回は、4つのタイプの特徴に応じたコーチングを紹介します。
常に自分が判断したい 「コントローラー」タイプへのコーチング
◎コーチング流対話の具体例とポイント
情報提供(例)「結論から言うと、ご利用者のAさんは緊急ショートでB施設に入所しました」「C居宅介護支援事業所は、前月の新規ケースを10件以上も受け入れ、包括からの信頼も厚いようです」
▷「コントローラー」タイプは、結論から話されることを好みます。また、競争心を刺激されると、意欲が高まる傾向にあります。
提案(例)「次回の地域ケア会議で推薦する事例として、Dケアマネの独居支援事例、Eケアマネの認知症ケア事例、Fケアマネの終末期ケア事例の3つでは、どれが適切でしょうか」
▷「コントローラー」タイプは、目下の者からの指示や誘導、お節介な言動を嫌う性質があります。そのため、提案するようなスタイルで、できる限り複数の選択肢を用意するとよいでしょう。
質問(例)「それは重要な情報ですね。もっと詳しく聞かせてください」
▷「コントローラー」タイプは、主体性をもった行動を好みます。そのため相手が主導となって質問攻めにすることは避け、シンプルに教えてもらうスタイルが適しています。
要望(例)「会議中は、視線を上げて聞いてください」
▷「コントローラー」タイプには、理屈を長々と説明する方法は適していません。ストレートに要件や要望を伝えましょう。
報告を受ける際(例)「この情報は重要なので、もう少し経過について教えてくれませんか」
▷「コントローラー」には高い行動力があります。主体性をもって発言することが得意なので、本人が主体的に報告できるように調整しましょう。
目標提示(例)「頼みましたよ」(と一言添える)
▷「コントローラー」タイプは経過よりも結果を重視するタイプです。最後まで本人に任せるスタイルをとると、責任をもって応えてくれます。
仕事を任せる際(例)「あなたに一任しますので、状況だけ適宜レポートしてください」
▷「コントローラー」タイプはリーダーシップに秀でているため、適時の報告のみしてもらうようにし、一度任せたら信頼して待つスタイルをとりましょう。
承認(例)「あなたが管理する事務所はいつも環境整備が行き届いていますね」
▷「コントローラー」タイプには下手なおだては禁物です。本人よりも周囲の人や環境を讃える客観的な指摘が効果的でしょう。
周りに影響を与えたい「プロモーター」タイプへのコーチング
◎コーチング流対話の具体例とポイント
情報提供(例)「明日の臨時会議では法人から大事な発表があるようだよ。会議室がトップや幹部たちでいっぱいになると迫力があるよね」
▷「プロモーター」タイプには、その場の光景が想像できるような視覚的な表現をすると、モチベーションの向上につながります。
提案(例)「次にこのようなはたらきかけをしたら、もっとすごいことが起こるよ! 」
▷「プロモーター」タイプは、批判的な言葉を投げると一気にモチベーションが低下するおそれがあります。そのため、「こうしたらよいのでは?」といったような改善案を提示するとよいでしょう。
質問(例)「それから? それから?」「もっと聞かせて」
▷「プロモーター」タイプは、問いかけへの対応力が高い傾向にあります。この特徴を活かして、自由にどんどん話してもらいましょう。
要望(例)「あなたしかお願いできる人がいません」「こんなことができるのは君だけ」「経験豊富なあなたを見込んでお願いしたいのです」
▷「プロモーター」タイプには、こちらが信頼していることを伝えて、細かいことは言わずにざっくりとお願いするのが有効です。
報告を受ける際(例)「ほう! 」「なるほど! 」「それで?」
▷「プロモーター」タイプには、たとえ話の理屈が通っていなくても、できるだけ自由に話を引き出すことが肝心です。
目標提示(例)「達成したらとんでもないレベルになるよね」「あなたなら必ずできます! 」
▷「プロモーター」タイプは、魅力的な夢やビジョンの話によい反応を示す傾向があります。そのため希望のある未来を想像させる声かけをするとよいでしょう。
仕事を任せる際(例)「その調子! 」「とってもいい! 」「すごい! 」「期待しているよ」
▷「プロモーター」タイプには随時承認する言葉をかけましょう。そうすることで最後まで高いモチベーションを維持することができます。
承認(例)「センスがよいですね」「すごいです! 」「さすが! 」「みんな Gさんを見習いましょう」
▷「プロモーター」タイプには大げさなお世辞やほめ言葉が効果的です。多くの人の前でほめられると、意欲が湧き高いパフォーマンス能力を発揮することができます。
人間関係が何より大事「サポーター」タイプへのコーチング
◎コーチング流対話の具体例とポイント
情報提供(例)「今日はいい天気ですね」(で始める)
▷「サポーター」タイプは、ゆっくりとコミュニケーションを始めたい傾向があります。いきなり用件を話さず、業務に関係のないコミュニケーションから会話を始めましょう。
提案(例)「これなら、みんな納得できるはずです」
▷「サポーター」タイプは、周囲との調和を望む傾向にあるため、決定事項においては他のメンバーと合意がとれる内容だと伝えます。
質問(例)「体調はどうですか? 実は先日の給付管理について伺いたいのですが……」
▷「サポーター」タイプはコミュニケーションを大切にする特徴があります。そのため体調を気遣う言葉をかけてから本題に入るとよいでしょう。
要望(例)「次回の飲み会のことでお願いしたいことがあるのですが、途中で何かあれば相談してください」
▷「サポーター」タイプは断れない性格のために周囲から色々要望されがちな傾向にあります。ただし仕事を丸投げされたり、決断を迫られるとパニックになることがあるので、気遣いや協力の姿勢を見せましょう。
報告を受ける際(例)「大変でしたね」「よくやったね」
▷「サポーター」タイプには「尽力したこと」と「貢献したこと」を認めるとよいでしょう。頻繁に声をかけ、丹念に業務の工程ついて話を聴くとモチベーションが上がります。
目標提示(例)「目標について、何か気になる点はありませんか? 遠慮なく自分の意見を言ってください」
▷「サポーター」タイプには逐一合意を取りながら、丁寧に伝えるよう心がけます。目標に対して不安を感じてると目標を達成することに集中することができなくなります。
仕事を任せる際(例)「その後の進捗状況はどうですか?」「困ったことがあればいつでも力になりますよ」
▷「サポーター」タイプには頻繁に声をかけ、関心を寄せていることを示すと安心感につながります。
承認(例)「いつも助かっていますよ」
▷「サポーター」タイプは、チームへの貢献を認められることをとても喜びます。感謝の言葉を多くかけることを意識するとよいでしょう。
冷静沈着慎重派「アナライザー」タイプへのコーチング
◎コーチング流対話の具体例とポイント
情報提供(例)「介護保険制度の説明後、利用可能なサービスの特徴をお伝えします」
▷「アナライザー」タイプは、物事を予定通りに遂行することを好みます。そのため、冒頭で予定を話しておくと、本人が安心して対話することができます。
提案(例)「あなたは視線を一度も合わせなかったので、私は不安になります。お互いの関係を向上させるために、目を合わせて対話してはどうでしょう?」
▷「アナライザー」タイプは、客観的な視点で物事を考えることが得意です。そのため正当でもっともな根拠を示し、ロジカルに説明することを心がけましょう。
質問(例)「新規受入件数について対前年度同月比の推移を教えてくれますか」
▷「アナライザー」タイプには、範囲を狭めた具体的な事実を尋ねます。完全主義の傾向があるため、的確な回答をしてくれます。
要望(例)「今回の支援困難事例の新規相談は、倫理規範からいって受け入れる責任があります。担当可能か来週までに考えてください」
▷「アナライザー」タイプは慎重に物事を進めることを好みます。そのため、業務を遂行するにあたって正当な根拠と予測されるリスクを明らかにし、手順を示して依頼するとよいでしょう。
報告を受ける際(例)「明日の午前中に時間を空けるので、あなたの考えをじっくり聴かせてくれますか」
▷「アナライザー」タイプは、話をゆっくり、そしてじっくり聴かれることを好みます。そのため、忙しい時に話を急かすことは避けましょう。
目標提示(例)「この半年で蓄積したデータ分析から導き出した最も的確な目標です」
▷「アナライザー」タイプには、客観的な視点で粘り強く問題を解決する能力があります。そのため、客観性のある情報を示し、目標の正当性や妥当性を伝えるとよいでしょう。
仕事を任せる際(例)「全体目標は介護報酬前年度120%アップで、あなたに担当してほしいのは紹介経路の新規開拓です。戦略や手順案をまとめてくれますか」
▷「アナライザータイプ」にタスクの丸投げは厳禁です。タスクの全体像や目指す目標を明確に提示したうえで、お願いすべき業務を任せるとよいでしょう。
承認(例)「先ほどのインテーク面接では、意図的に傾聴と感情の反射を活用していましたね」
▷「アナライザー」タイプは、業務上での専門性を具体的に指摘して伝えましょう。完全主義な傾向のある「アナライザー」タイプにとって、業務の専門性を褒められることはその後の意欲向上につながります。
対話がうまくいかないときは
自分のタイプや相手のタイプを知り、それぞれが好むコミュニケーション方法を把握すると、コミュニケーションが円滑に進みます。それでも、「対話がうまくいかない」と感じたときはチャンスだととらえましょう。対話が上手くいかない相手こそ、自分の知らない世界を見せてくれる、あなたを成長へと導いてくれる存在になり得ます。
