独立・開業で広がる!ソーシャルワーカーの新しい働き方ガイド Vol.5 【独立・開業を選んだ人②】松谷 恵子さん(まつたに社会福祉士事務所)の場合

2025/10/03

福祉職(社会福祉士・介護福祉士・ケアマネジャー等)必見!

 この連載は、介護や福祉の仕事に熱い想いをもち、これから資格取得を目指している方、あるいはすでに資格をもっていて、さらなるスキルアップを考えている方に向けてお届けします。
 今回は、福祉現場の職員からソーシャルワーカーとして独立・開業の道を選んだ松谷さんへのQ&Aから、独立・開業に必要な心構えや視点をお伝えします。


松谷さんのプロフィール

まつたに社会福祉士事務所所長/認定社会福祉士(児童・家庭分野)・介護支援専門員。
高齢者の通所介護・グループホームの勤務を経て、2011年10月まつたに社会福祉士事務所開設。福祉全般の相談業務、第三者委員やオンブズマン、成年後見人等の受任、スクールソーシャルワーカー、スーパーバイザー、非常勤講師・研修講師等を行う。


Q1 「独立・開業」の原動力となったものは?

 一般企業に就職後、出産を機に専業主婦になりました。介護保険創設時、「ヘルパー求む!」という求人を見て福祉の世界へ転身。通所介護やグループホームなどに勤務しました。無資格で入った福祉の世界で、専門性を身につけたいと考え、働きながら社会福祉士資格を取得しました。
 初めての福祉現場で、血縁・地縁・社縁に助けられることもあれば、縁があるがゆえにしがらみに苦しむこともある現実に直面し「その人らしい生活とは?」を考えるきっかけになりました。
 また、施設の役割上、利用者の家族には支援できないという経験を通じ、利用者を含めた家族全体への支援の必要性を痛感しました。家族まるごとの権利擁護活動を実現するため、独立・開業という道を選びました。
 また、施設勤務時代は仕事が生活の大部分を占め、心身のバランスが危うい状態で、ワークライフバランスが大きな課題でした。施設を辞めて2年半、家族に相談しながらオーバーワークにならない方法を考えていきました。そんななか、職能団体の活動で多くの社会福祉士と出会い、魅力的な独立型社会福祉士の先輩方がワークライフバランスを保ちながら権利擁護活動をされていると知り、独立・開業する決心をしました。


Q2 「独立・開業」までのプロセスは?

 独立・開業するにあたって、状況に合わせて素早く対応し、組織のしがらみのない公平な立場で活動するために、個人事務所を選択しました。
 素早い対応力と公平な立場を活かし、元々のフィールドとしていた高齢分野だけでなく障がい分野、児童分野などさまざまな分野でも活動することにしました。また、事務所のある地域だけでなく県内全域や隣県でも活動を展開するようにしました。

 

Q3 独立・開業して良かったことは?

 いろいろな分野やさまざまな地域での活動、オンブズマンなどの市民活動に加え、行政や各種施設へのアドバイザーとして、既存の組織をより良くしていく活動にも面白さを感じるようになりました。
 今では、日々の実践が積み重なって既存の組織が変わり、良いしくみが生まれていく過程、それが社会を動かすソーシャルアクションにつながることに、醍醐味とやりがいを感じています。


Q4 独立・開業して大変だったことは?

 さまざまな立場で活動しているため、「自分の利益のために動いているのでは?」と疑われたり、特定の方向に誘導していると誤解されたりする可能性を感じました。
 また、個人事務所なので、もし自分が体調を崩してしまったら、事業が止まってしまう不安も感じました。この点については、自分が倒れても事業が継続できるしくみをまだつくることができていません。
 さらに、クライエントからの苦情があった際の対応システムが未整備なのも懸念事項です。苦情の受付から改善まですべて1人で行うため、どうしても客観的な対応が難しいと感じています。


Q5 どんな人におすすめしたい?

①現在の職場でワークライフバランスに課題を感じている人
仕事が生活の中心になりすぎたなら、独立・開業によって働き方を大きく変えられる可能性があります。
②「その人らしい支援」を追求したい人
組織のルールやしがらみにとらわれず、本当に必要な支援を、柔軟かつ多角的な視点から提供したいという情熱がある方です。
③人とのつながりやネットワークを大切にできる人
独立・開業は孤独な道に思えるかもしれませんが、活動を通じて信頼できる仲間や専門家とのネットワークを築くことで、互いに支え合い、高め合える環境をつくることができます。
④困難な状況において、自ら課題を見つけて解決策を考え、行動に移せる人
独立・開業にはリスクも伴いますが、それを乗り越える「開拓性」や、時には既存のしくみを変えていく力が必要になります。新しい挑戦に臆せず、変化を楽しめる方であれば、その醍醐味を存分に味わえるはずです。


Q6 独立・開業する際に押さえておいてほしいことは?

 まず、ネットワークづくりです。職能団体や異業種交流会などに積極的に参加し、さまざまな分野の仲間とつながることが大切です。困ったときの相談先だけでなく新たな仕事の機会につながることもあります。
 次に、自己管理の徹底です。個人事務所の場合、自分が倒れると事業も止まってしまいます。健康管理に加え業務量の調整も重要です。仕事とプライベートのメリハリをつける意識を常にもちましょう。
 そして、独立・開業する趣旨を明確にすることです。私の場合は家族まるごと支援ができる権利擁護活動と業務量の調整という軸がありました。明確な軸があることで、ブレずに進むことができますし、活動の方向性が定まります。
 また、初期の資金計画と継続的な収益確保のしくみづくりも欠かせません。当面の生活費や事業に必要な資金を確保しておくこと、継続的な依頼や契約につながるようなしくみを構築していく視点が必要です。
 最後に、家族の理解と協力は独立・開業を成功させるうえでとても大切です。家族が自身の活動のパートナーであるという意識をもち、協力体制を築いておくことを強くお勧めします。
 これらの点を事前にしっかりと考慮し、準備を進めることで、独立・開業後のリスクを減らし、より充実した活動ができるはずです。