今月の月刊ケアマネジャー(6月号) “予防”と“準備”の視点から考える ケアマネジャーのためのリスクマネジメント入門

2025/05/23

『月刊ケアマネジャー』2025年6月号から、特集(“予防”と“準備”の視点から考えるケアマネジャーのためのリスクマネジメント入門)の内容を一部ご紹介いたします。

 

「リスクマネジメント」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか? ケアマネジャーの現場には、利用者の安全や健康に直結するものや組織全体にかかわるものなど、多種多様なリスクが存在しています。本特集では、危機管理の手法として、リスクマネジメントの基礎知識から実践のポイントまで、専門家がわかりやすく解説します。


リスクマネジメントにおけるケアマネジャーの役割

ここでは、介護現場におけるリスクと、そのなかで果たすべきケアマネジャーの役割を整理します。ケアマネジャーになぜリスクマネジメントが求められるのか、考えてみましょう。

 

自立支援を行ううえでのリスクのとらえ方

 もし、「介護におけるリスクを定義してください」といわれたら、皆さんはどのように答えますか。「危険な行為」「不確実なこと」「事故につながる要因」「トラブル」「損害」など、いろいろと出てきそうです。どれもリスクであることには間違いはなさそうですが、次のようなリスク対策を講じたとして、「適切にリスクがマネジメントされている」といえるでしょうか?
 たとえば、「下肢筋力がかなり低下していて時々ふらつきがあり、自力で歩こうと思えば歩けるけれど、転倒の可能性が高い利用者に、一人でトイレに行こうとすると危険だから、できるだけベッドから立ち上がらないようにおむつを履いてもらう」という対策です。トイレに行こうとする際の転倒事故は防げるかもしれませんが、自立支援にはならず、利用者の要介護度が上がる可能性は高まります。下肢筋力はさらに低下し、以前よりも転倒リスクは高まりますし、意欲の低下や生きがいの喪失など、ほかのリスクが出現するかもしれません。このように、「危険なこと(=リスク)をできるだけ小さくすることが大切」と考えると、自立支援と逆行してしまう可能性があるのです。では、リスクをどのようにとらえればよいのでしょうか。
 図表1にあるように、リスクとは、ある目的を成し遂げようとするときに、それを阻む要因のことをいいます。先ほどの例で考えると、「一人で歩いてトイレに行って排泄する」という目的に対して、「立ち上がり時のふらつき」が阻害要因になり得ます。ですからリスクをマネジメントするためには、立ち上がる際に手すりにつかまれるようにすることなどが必要となります。ほかにも、便座に座ろうとするときに不安定になりやすければ、そのときだけ一部介助を行うのもリスクマネジメントになります。つまり、介護現場におけるリスクマネジメントとは、利用者が自ら送ろうとする暮らしの阻害要因を、ケアマネジメントによってできるだけ少なくして、利用者が望んでいる暮らしを実現することといえるのです。

 

 

 では次に、リスクをどこまで小さくすればよいかを考えます。リスクはどんなに小さくしようとしても、ゼロにはならない特性があります。この点をふまえ、リスクマネジメントでは「リスク出現による影響を許容範囲まで最小化させる」という考え方をとります。許容範囲は、法令で決まっているものや、契約で決めるもの、重要事項説明書などで利用者がリスクを受け入れることに同意して定まるものなどがあります。

 

リスクマネジメントとケアマネジャー

 利用者が自立しているほど、利用者自身でリスクをマネジメントする割合が高くなります。一方、もし利用者が生活のすべてを他者に委ねた場合は、支援者側が利用者に代わってリスクをマネジメントする割合が高くなるため、ケアマネジャーには、利用者がどこまでのリスクを許容し、受け入れ、生活するのかを十分に理解したうえで、ケアプランを作成することが求められます。
 また、利用者が自らのリスクを認識できなかったり、リスクにどう対処してよいかわからなかったりする場合があります。この場合は、支援者としての専門性が問われます。専門職として、利用者の生活課題(ニーズ)を導き出したうえで、ニーズを解決するなかで発生し得るリスクを検討し、ニーズやリスクに対して適切なサービスを調整するのがケアマネジャーの役割なのです。
 利用者の状況変化があったとき、新たなリスクが現れる場合があります。その場合は、再アセスメントを行いケアプランを見直すことも、利用者本位のリスクマネジメントには欠かせないのです。

 

リスクマップを作成して対応の優先順位を評価する

 介護にリスクはつきものですから、たくさんのリスクを洗い出すと、何を優先して取り組めばよいかわからなくなることがあります。そこで、対応を優先すべきリスクを評価するために「リスクマップ」を使います。リスクマップとは、リスクを評価するためのツールです。リスクマップの作成例を図表2に示しました。リスクマップに位置づけられるリスクについては、出現の可能性や影響度は利用者によって異なるため、あくまで一例として参照してください。
 図表2の数字は、原則としての対応の優先順位を示しています。基本的にリスクの影響度を優先して考えるのは、どんなに発生の可能性が低いリスクであっても、出現した場合、大きなリスクになるような事象は、一般的に許容されにくいという考え方がベースにあるためです。

 

 

 リスクマップは、ケアマネジャーだけが使うのではなく、サービス事業者とともに共有するのがおすすめです。現場で発生するさまざまな事象をもとに更新し続けて共有できると、対応すべき最新のリスク情報について、関係者間で共通認識をもつことができるようになるでしょう。


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執筆:
浅野 睦
株式会社フォーサイツコンサルティング 代表取締役社長
一般社団法人リスクマネジメント協会 理事
編集協力:
諏訪部弘之
医療法人社団湘風会 フィオーレ久里浜居宅介護支援室 室長
井上敦士
社会福祉法人上村鵠生会 居宅介護支援センター 鵠生園
小松瑞恵
SOMPOケア ラヴィーレ小田原

 

特集

Introduction
リスクマネジメントにおけるケアマネジャーの役割
Chapter1
リスクマネジメントの基本を理解しよう
Chapter2
リスクマネジメントの実践に役立つノウハウ
Chapter3
ケースから学ぶ リスクマネジメント実践のポイント


『月刊ケアマネジャー』2025年6月号

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