言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第5回

2025/11/28

ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。


Q. なかなか2語文を話さないのはどうして?

 

A. 2語文を話すには、理解したり、表現したりできることばの数や種類が足りていない可能性があります。

 

 ことばの表現の発達は、最初は「ママ」「まんま」などの単語から始まり、1歳後半くらいになると半数近くの子どもが「ワンワン、あった」「パパ、きた」のような2語文を話し始めます。発達凸凹キッズは、ことばの発達がゆるやかなことが多く、最初のことばがなかなかでないという子もいれば、ことばを話し始めてから2語文に移行するまでに通常よりも時間がかかる子もいます。
 今回は、2語文を話すまでに、どのようなステップが必要なのか、どのようなかかわりがあるとよいのかを解説していきます。


2語文を話すために必要なステップ

 2語文は、意味のある2つのことばを組み合わせることで成立します。そのため、2語文を表現するためには、理解したり、表現したりできることばの「数」が、一定数蓄積されることが必要です。個人差はありますが、一般的には、表現できることばの数が50〜100語を超えてくると、2語文を話し始めることが多いと言われます。
 また、理解したり、表現したりできることばの「種類」が、広がっていくことも重要です。2語文のなかには、「あおちゃん、パン」(意味:あおちゃんのパン、あおちゃんはパンを食べたい)のように、名詞+名詞で作られるものもありますが、この場合は表現できることが限られてしまいます。動詞や形容詞など、獲得することばの種類が広がっていくことで、「パン、食べる」「パン、ちょうだい」「おおきい、パン」のように表現できることが広がっていきます。


発達凸凹キッズは、なぜことばの種類や数が増えにくいのか

 文字が読めるようになるまでは、「音(ことば)を聞く」ことが、ことばを獲得する主な方法です。多くの発達凸凹キッズは、「目に見えるものは理解しやすいが(視覚優位)、目に見えないものは理解しにくい」という情報処理の特徴をもつため、音のように目に見えないものを扱う初期の言語発達では、どうしても遅れをとりやすいと考えられます。
 また、ことばは「人を通して学ぶ」という特徴があり、まわりの人に関心をもち、人のことばをキャッチしたり真似をしたりするなかで発達が進んでいきます。発達凸凹キッズは、人へ意識の高まりがゆるやかなことが多いため、その分ことばを育むための経験が少なくなりがちです。
 さらに、発達凸凹キッズは、興味があることはぐんぐん吸収するいっぽうで、そうでないことは驚くほど無関心なことがあります。たとえば、数字や色の名前、恐竜の名前など、自分の興味のあるジャンルのことばをたくさん話していても、単語での表現にとどまっていて、なかなか2語文に発展しない場合などです。興味や関心の差により、ことばの「種類」が広がっていないことが、2語文に発展しない要因の1つではないかと思われます。

 


ことばの種類や数を増やしていくためには

  第2回 で解説したとおり、大人が子どもに話しかけるときには、「フレーズの長さ」や「ことばかけのタイミング」を意識してかかわることが、とても大切です。特に、興味・関心の有無がはっきりしているタイプの子どもは、興味のないことについて声をかけても理解することがむずかしい場合が多いので、子どもが興味をもっているものについて、タイミングを合わせてことばをかけると効果的です。
 また、「手を洗おう」「靴をぬぐよ」など、生活のルーティンに関することばかけには、多くの動詞が含まれています。発達凸凹キッズは、流れを覚えていることに関しては、大人がわざわざ声をかけなくても行動できることが多いので、ことばをかけなかったり、かけることばが少なかったりしているかもしれません。ですが、意外と「ことばの意味はわかっていない」ということもあるので、生活の場はことばの種類を増やしていく大チャンスととらえて、たくさん声をかけてみてください。
 具体的には、「洗う」「食べる」「飲む」「着る」「脱ぐ」「はく」「入れる」「上る(階段など)」「下りる」「走る」「歩く」などの基本動詞を意識して、動作の度に横から声をかけてあげてください。行動とことばの意味がつながってくると、保育園や幼稚園など別の場所でも、親以外の人から同じようなことばをかけられても、ことばを聞いて動けることが増えていきます。

 

 

 お子さんのことばの数や種類を確認してみると、お子さんに合う効果的なかかわりが見えてくるかもしれません。


著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)

言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。

 

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