言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第2回

2025/09/26

ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。


Q. 1歳半をすぎてもことばが出ません。どうかかわればいい?

 

A.「ことばの理解」と「人に伝えたい気持ち」をのばすかかわりを意識しましょう。

 

  前回 は、「1歳半をすぎてもことばが出ないのはどうして?」というお悩みに、「ことばのピラミッド」と「水鉄砲」の考え方を用いてお答えしました。今回は、ことばの発達に心配がある子どもに、まわりの大人はどのようにかかわればよいのか、かかわりのヒントをお伝えしていきます。


「ことばのシャワー」の誤解

 ことばの発達について相談すると、「ことばのシャワーをかけてあげてください」と助言されることがあります。大人が子どもに語りかけることで、子どものことばが育ちやすいという点は間違いではないですが、人によっては「とにかくたくさんことばをかければよい」と誤解してしまうことがあります。
 ことばの量を増やすことばかりを意識してしまうと、子どもが大人のことばを受け止めきれず聞き流してしまったり、大人が一方的に話す状況が生まれ、子どもが話すチャンスが減ってしまったりすることもあります。


ことばの量よりも「長さ」を意識する

 話せることばを増やすためには、まずは「理解できることば」を増やしていく必要があります。水鉄砲のたとえでいうと、水を飛ばすためには、タンクに水がたまっている必要があるということです。ことばの発達は、「理解が先、発語が後」と決まっているからです。
 理解できることばを増やしていくためには、ことばかけの量ではなく、「ことばの長さ」を意識しましょう。小さい子どもは、一度に聞いて覚えられることばの長さが限られています。子どもが覚えられる以上の長さで話しかけても、なかなか理解にはつながりません。たとえば、1歳前半の子どもに「今日は保育園から帰ったら、お風呂に入ろうね。それからごはんを食べて、たくさん遊んでねんねしようね」などと話しかけることがあると思いますが、いっぺんに話しかけても、「お風呂」「ねんね」など、部分的なことばしか理解できていない可能性があります。
 子どもが一度に聞いてわかることばの長さの目安としては、「子どもがいま話していることばの長さ+1語程度」です。つまり、まだことばが出ていない子どもの場合は「0語+1語=1語文まで」、「わんわん」「にゃんにゃん」など1語文で話す子どもの場合は「1語+1語=2語文まで」が、その子が聞き取りやすい長さの目安になります。その長さを意識して話しかけると、子どもにことばが届き、理解できることばも増えやすくなるでしょう。

 
1語加えて返す

ことばかけは「タイミング」も大事

 長さと同じくらい大事なのは、「話しかけるタイミング」です。小さな子どもは、見ることと聞くことを同時に行うのはむずかしいという特徴があります。お散歩の途中で、子どもが消防車を夢中で眺めているタイミングで、別の場所にいる犬を指しながら「わんわんがいるよ」「茶色いね」「かわいいよ」などと声をかけても、犬のほうをチラッと見るのが精一杯です。
 そこで、子どもが何かに注目している(集中して見ている)ときは、その注目の対象に合わせてタイミングよくことばをかけていきましょう。子どもが消防車を見ているときには、「消防車だ!」「赤いね」「ウ〜カンカンカンって鳴っているね」などと声をかけると、見たものや体験と聞こえてきたことばが一致して、ことばの理解につながりやすくなります。


まずは大人が子どものまねをする

 理解できることばをたくさんもっていても、「人に伝えたい気持ち」が育っていなければ、「話す」という行為にはつながりにくくなります。好きなおもちゃで遊びはじめると、自分とモノの世界に没頭して、人に意識が向かなくなるタイプの子どもは、ことばの表出がゆっくりになることが多い印象があります。
 「人に伝えたい気持ち」を育てるためには、人に関心をもつことが前提となります。人への関心を高める方法として、「子どもの行動を大人がまねする」というのが効果的です。たとえば、子どもが拍手をするように両手を叩いていれば、大人も目の前で同じように拍手をします。そのときに、子どもが顔をあげたり目を合わせたりしてくれれば、自分の世界の外側の「人」に意識が向いたということであり、大成功です。
 すでに、指差しや「あー、あー」などの声で人への訴えかけが始まっている子の場合は、試しに子どもの音をまねして遊んでみましょう。子どもが「ああ〜!」「うう」と声を出していれば、すかさず大人も「ああ〜!」「うう」と呼応していきます。ここで目が合ったり大人の反応を喜んだりする様子が見られたら、「自分の出した声が人に影響を与えている」という気づきが芽生え始めているので、ことばが出る日が近づいているといえるでしょう。

 

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 一般的なかかわり方をくりかえすだけでは、ことばの理解や人に伝えたい気持ちが伸びにくいタイプの子どもがいます。今回ご紹介したのは一例ですが、ことばの発達が心配なときには、「かかわりの工夫が必要なタイプかもしれない」ととらえて、子どもに合った方法を探していくとよいでしょう。
 第3回からは、ことばの発達段階に沿って、よくあるお悩みに答えていきます。


著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)

言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。

 

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