精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第27回:「次男になりたい」を観て考えたこと②
2026/02/25
みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。今回は、前回に引き続き、最近話題になったテレビ番組「探偵!ナイトスクープ」を観て感じたこと/考えたことを、書いていきたいと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
「親叩き」の危うさと、その先で失われるもの
放送直後から、SNSでは「親がひどすぎる」「虐待だ」といった、親御さんへの厳しい非難が殺到しました。その気持ちは、感情的には理解できます。僕自身、放送を見て複雑な感情を抱いたのは事実です。
しかし、この「親叩き」には強い危機感を覚えます。実際に、ネットでどれだけ親を攻撃しても、長男さんの生活状況が良くなるということはあまり想像できません。また、親御さんに非難が集中することで、家庭内の空気が悪化したり、実生活でさまざまな影響を受ける家族からのベクトルが長男さんに向く可能性もあります。
大前提として、そもそも長男さん本人は、「親御さんが責められること」を望んでいるのでしょうか?
ネット上でどれだけ正義感に満ちた言葉で親を非難しても、子どもが置かれている現実の生活は何も変わりません。それどころか、世間からの激しいバッシングは、かえってご家族を、そして子ども自身を追い詰め、SOSを出すハードルを高め、孤立させる結果になりかねません。
「保護」という正義は、誰のためのものか?
「親叩き」と並行して、「すぐに保護すべきだ」「児童相談所に通告しよう」という声も数多く上がりました。これもまた、子どもを心配するがゆえの正義感からくるものであると思います。しかし、私たちは一度立ち止まって考える必要があるのではないか? と思います。その「保護」は、本当に本人が望んでいることなのでしょうか? そして、それは果たして適切な介入なのでしょうか?
もちろん、緊急性が高く、ただちに安全を確保する必要があるケースでは、「保護」が最優先されるべきです。しかし、今回のケースのように、問題が複雑に絡み合っている、子どもの権利は守られていないけれど緊急性が高い訳ではない、本人の望みがわからない場合、画一的な「保護」という介入が、かえって子どもや家族を追い詰め、孤立を深める可能性も否定できません。私たちは、「保護」という言葉がもつ強い響きに思考を停止させることなく、一人ひとりの子どもの声に耳を傾け、彼らが本当に望む支援の形を模索し続ける必要があるのではないかと思います。
また、シンプルにSNS上で話題になることによる多くの人からの通告は、限られたリソースで運営する児童相談所の労力を無駄に割くことになります。
そもそも視聴者である私たちが、放送やSNS上での限られた情報から、適切な介入を判断するということ自体が難しいはずです。
ジェンダーの視点
今回の議論では、ジェンダーの視点も欠かせないと思います。Xで藤井セイラさんが指摘されていたように、このケースが「長男」であったからこそ、そのケア労働が「異常」なこととして可視化された側面は大きいと思います。
性別役割分業意識がまだまだ強い社会の中で、これが「長女」であったなら、「女の子だから」「お姉ちゃんだから」という言葉のもとに、より一層透明化され、当たり前のこととして見過ごされてきたかもしれません 。
実際に僕たちが支援の現場で出会うケースのなかにも、兄と妹の兄妹であっても、「女の子だから」という理由で妹だけがケア役割を集中して担っている、という状況は決して珍しくありません。ヤングケアラー問題とジェンダー問題は切っても切り離せない問題であり、この視点をもつことは欠かせないと思います。
それは、「男性は強くあるべき」という規範から、男性が相談しづらい社会である点などの男性の生きづらさについても同様です。
今回も探偵!ナイトスクープを観て感じたことについて書いていますが、該当放送により少しでも社会がより良い方向に動くきっかけになってほしいと思うと同時に、あのご家族の生活が、未来が、少しでもより良いものになることを願っています。
次回も引き続き、探偵!ナイトスクープを観て考えたことについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていけたらと思います。
関連書籍
中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。
