道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第17回 福祉におけるコンサルテーションとは何か?

2025/10/16

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。


  前回は、現場で支援がうまくいかない理由を、組織・チーム・支援や技術という3つの層から立体的に見つめ直してみました。

 今回はいよいよ連載の核となる「コンサルテーション」について一緒に考えていきたいと思います。
 


「コンサル」という言葉の距離感

 皆さんは「コンサルタント」という言葉を聞くと、どんなイメージを持たれるでしょうか。

 

 私はつい、眼鏡をかけてツーブロックの横分けのかっこいいビジネスパーソンを思い浮かべてしまいます。電車の中でもノートパソコンを開き、静かにデータを分析している……。そんな姿です(ちなみに僕もツーブロックですが、電車ではもっぱらYoutubeです)。

 

 たしかに、企業の世界では、「コンサル」といえば組織や事業を分析して改善策を提示する存在です。

 

 一方で、福祉の世界にも「コンサルテーション」と呼ばれる営みがあります。そうです。僕がやっているお仕事です。

 

 ただし、それは企業のように「利益」や「効率」を追うものではありません。むしろ、支援者やチーム、そして組織全体が「よりよく支援できるようになること」を目指す、ゆっくりとした対話のプロセスだと思います。

 

 今回は、一般的なコンサルテーションの姿を整理しながら、そこから福祉分野におけるコンサルテーションのあり方を考えてみたいと思います。


一般的なコンサルテーションとは

 コンサルテーション(Consultation)とは、本来「共に考える」という意味を持つ言葉です。ラテン語の「consultare」(「助言する」「協議する」)に由来すると言われています。分解すると、 con(共に)+sedere(座る)=共に座る、という意味になるそうです。

 

 つまり、専門知識を使って相手を“指導する”のではなく、相手と対話を重ねながら課題を整理し、よりよい方向を一緒に見つけていくプロセスのことを指します。この考え方は、企業だけでなく、医療や教育、心理、行政など、さまざまな分野で使われています。

 

 どの領域でも共通しているのは、「問題を誰かに解決してもらう」のではなく、「どう理解し、どう動くかを一緒に考える」という姿勢です。


企業におけるコンサルテーションの実際

 私は一般企業のコンサルタントの経験はないので、企業におけるコンサルテーションにそこまで詳しいわけではありません。

 

 ですが、いろいろな本や記事を読んだり、実際に企業の方とかかわったりするなかで、なんとなく見えてきたイメージがあります。それは、企業のコンサルタントは「仕組みや考え方を整理する専門家」だということです。

 

 たとえば、戦略コンサルティングという分野では、経営者と一緒に市場や社会の動きを分析して、会社がどのような方向に進むべきかを考えています。いわば、企業という船の“航路”を一緒に描くような仕事です。「今、どんな波が来ていて、どんな未来を目指すのか」。そんな大きな地図を広げながら、経営者と対話していく姿を思い浮かべます。

 

 また、業務改善コンサルティングという分野では、現場の仕事の流れを丁寧に見直して、「どこにムダがあるのか」「どこで人が苦労しているのか」を整理していきます。報告書の二重作業をなくしたり、情報共有の仕組みを整えたりと、一見地味ですが、現場の“やりづらさ”を解きほぐしていくような支援です。

 

 福祉の現場でいえば、「業務の見える化を行って、支援にかける時間を確保する」ような取り組みに近いのかもしれません。

 

 さらに、人事や組織のコンサルティングという分野もあります。これは、評価制度や研修の仕組みを整えるだけでなく、「どうすれば人がやる気を持って働けるか」「どうすればチームが信頼し合えるか」といった、組織の“空気”や“文化”を変えていくような支援です。

 

 データや制度だけではなく、人と人との関係に目を向ける点で、どこか福祉との共通点も感じます。

 

 私はこのあたりを知れば知るほど、「企業のコンサルタントも、結局は“人の変化”を支援しているんだな」と思うようになりました。形は違っても、誰かと一緒に考え、少しずつ改善していく。その点では、福祉のコンサルテーションと共通点も多いととらえています。


福祉におけるコンサルテーションとは

 とはいえ、福祉の現場でいうコンサルテーションは、少し意味が違ってきます。なぜなら、ここでの目的は、「支援を行う人を支援すること」――つまり、直接的に利用者を支援するのではなく、その支援を担う職員やチームに寄り添いながら、一緒に支援を見直していく取り組みだからです。

 

 たとえば、ある強度行動障害の状態にある利用者の支援に困っている職員がいたとします。
私は「こうすれば行動が改善されますよ」と具体的な答えを渡すよりも、「なぜその行動が起きているのか」「どのような環境がその人に合っているのか」を一緒に考える時間を大切にしています。

 

 その時間のなかで職員が新しい気づきを得て、自分の支援を少しずつ変えていく。この“気づきを起点とした変化”こそが、福祉のコンサルテーションの核心だと思っています。


企業コンサルと福祉コンサルの違い

 企業コンサルと福祉コンサルの違いを一言でいえば、「変化の対象」と「成果の測り方」だと思います。

 

 企業コンサルは、組織の仕組みや数字を変えて成果を出すことを目的とします。経営層と協働し、課題を明確にして解決策を提案し、結果をデータで検証します。

 

 一方で、福祉のコンサルテーションは、支援のなかにある“人と人との関係”を変えていくことを目的にしています。対象は制度でも構造でもなく、そこにかかわる「支援者の理解と関係性」そのものです。

 

 福祉の仕事は、効率ではなく「効果」で評価される仕事だと私は思います。つまり、「どれだけ早く」「どれだけ多く」よりも、「その支援がどれだけ本人に影響を与えたか」「関係のなかでどれだけ効果的な変化が起きたか」が大切です。だからこそ、コンサルテーションにもスピードより“深さ”が求められます。

 

 外から知識や技術、仕組みを持ち込んで一気に変えるのではなく、現場の人たちが納得しながら、少しずつ実感を伴って変化していく。そのプロセスそのものが成果であり、そこに福祉の専門性があると思うのです。

 

 また、福祉のコンサルテーションには長期的なプロセスが必要です。関係が変わり、支援が少しずつ変わっていく。その変化が徐々に広がりを見せて、いい支援が醸成されていく。その過程そのものが成果なのです。

 

 言い換えれば、企業コンサルは「構造を変える支援」、福祉コンサルは「関係を変える支援」。どちらも変化を扱いますが、その方向と温度が少しだけ違うのかもしれません。


変化を起こすのではなく、変化が起こる環境をつくる

 私が考えるコンサルテーションの役割は、変化を“起こす”ことではなく、変化が“起こる環境をつくる”ことです。

 

 支援者が安心して自分の支援を振り返り、他の職員と話し合い、失敗から学べる空気をつくる。そこから自然に行動が変わり、チームが成長していく。そんな“文化としての学び”を支えるのが、コンサルテーションの本当の意味だと思っています。


共に考えるということ

 福祉分野において「コンサルテーション」という言葉は、まだ明確に定義づけられた概念ではありません。

 

 だからこそ、私はこう思うのです。

 

 福祉におけるコンサルテーションは、支援の「正しさ」を教えることではなく、支援の「考え方」を共に育てること。支援者が変わり、チームが変わり、結果として利用者の生活が安定していく。その連鎖の中に、未来への希望と、福祉の専門性を育てる力を生み出せるのではないでしょうか。

 

 次回は、「コンサルタントを導入するときにどのような視点が大切なのか」そして、「現場にとって本当に意味のあるかかわりとは何か」、そんなことを一緒に考えていきたいと思います。