道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第18回 オルタナ流コンサル――①導入時の進め方と視点

2025/10/30

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。


 前回は、一般的なコンサルテーションの意味をふまえ、企業コンサルと福祉におけるコンサルの役割の違いなどについてお話ししました。今回は、さらに掘り下げて、コンサルタントを導入するときの視点など具体的な進め方についてお話しします。


私のコンサルはこんな感じです

 「オルタナ」と名乗っていますが、私のコンサルは派手な手法ではありません。目に見える劇的な改革よりも、会話のトーンが変わり、表情が和らぎ、現場の空気が少しずつ整っていく。その静かな変化を創ることこそ、私の仕事だと思っています。

 

 前回、「コンサルタントは正解を教える人ではなく、『考え方』を共に育てる伴走者である」と書きました。では、その“伴走”とは具体的にどんなものなのか。私が実際に現場に入るときの進め方や視点についてご紹介したいと思います。


まずは相手の状況を知るところから

 最初に行うのは、事業所の“空気を知る”ことです。会議室で資料を広げる前に、まずは雑談から始めます。職員がどんな表情で働いているのか、どんな話題で笑い、どんなときに黙り込むのか。若い職員とベテラン職員の間に流れる緊張感や遠慮の空気……。そうした何気ない場面に、組織の「温度」や「力の向き」が表れます。

 

 その空気から、「支援が属人的になっていないか」「事業所全体の熱量や雰囲気はどうか」といった点が見えてきます。そこから少しずつ会話を重ね、相手の考え方や現場のリアリティを確かめていきます。その際、とくに意識しているのが次のような視点です。

 

 「なぜコンサルを依頼しようと思ったのか」
 「事業所が大切にしている価値観は何か」
 これらは主に、依頼者である経営層との対話の中で見えてくる部分です。それらを総合的に整理していくと、「一番困っているのは誰なのか」「支援員は標準的な支援を実践できるレベルにあるか」「何を“成功”と位置づけているのか」といった事業所の輪郭が浮かび上がります。

 

 数字や制度の話よりも、まず“人の気配”をつかむことが出発点です。

 

 ここを丁寧に見ておかないと、どんなに正しい提案でも現場には馴染みません。コンサルティングの第一歩は、課題を探すことではなく、相手を知ることなのだと思っています。


導入のハードルを下げたい

 外部の人が現場に入ると、少なからず緊張が走ります。「何か気まずい」とかではないとは思いますが、……なんとなく、伝わりますよね?

 

 初めて足を踏み入れた瞬間に感じる、あの独特の“アウェイ感”。実は、私自身も一番緊張する場面です。毎回感じるあの緊張……たまりません。何年か後に振り返れば、「あのとき、すごく怖い顔して迎えてくれたよね~」と笑い話になることもあります。

 

 現場の皆さんから「何を言われるんだろう」「評価されるのでは……」と警戒されることもよくあります。

 

 だからこそ、この段階で大切なのは、話すことや教えることよりも、まず“聞くこと”なのだと思っています。相手の言葉に耳を傾け、その背景や思いをできるだけ受け止める。それが、信頼関係を創る最初の一歩になります。利用者支援と同じです。

 

 初回訪問の前には、無記名アンケートをお願いすることもあります。例えば、Googleフォームのような簡単な形式で、
 「事業所の自慢を教えてください」
 「最近うまくいったことはありますか?」
 「思いがけない成功体験を教えてください」
といったポジティブな質問を投げかけます。

 

 課題を尋ねる前に“うまくいっていること”を聞くことを、実はとても大切にしています。私の経験では、褒められる機会が少ない現場ほど、こうしたやりとりをきっかけに表情が明るくなり、会話が柔らかくなります。照れくさいほどのベタな方法ですが、相手が安心して話し始めるための大切なきっかけになります。

 

 また、支援の成功体験が少ない事業所や、どこかあきらめムードが漂っている現場では、他の事業所の成功事例や変化のプロセスを紹介したりしています。それは、「自分たちにもできるかもしれない」と思ってもらうことが、対話を前に進める第一歩になるのだと考えているからです。

 

 「失敗するかもしれない」「何をやっても同じ」というネガティブなビジョンを抱えた方々に、少しずつ新しいビジョンを差し込んでいくこと。私の仕事の大切な役割のひとつは、この“ビジョンメイク”にあると思っています。

 

 目の前の課題をどう解くかではなく、「どうありたいか」を一緒に描くこと。その小さなビジョンの共有が、やがて現場の空気を少しずつ変えていきます。そして何より、「どんなことを話しても大丈夫」「失敗も共有していい」と感じてもらうこと。その“安心感の設計”こそ、導入期の最も大切な仕事だと思っています。

 

 安心があるからこそ、次の一歩を一緒に踏み出せるのです。


事業所のアセスメント――3層の“構造”をもう一度見直す

 つかみはOK。さて、腕まくりをして「さぁ、コンサル始めましょうか?」といきたいところですが、そう簡単にはいかないものです。

 

 次に行うのが、事業所のアセスメントです。アセスメントとは、単に現状を把握することではなく、「どの層に課題があるのか」を見極める作業です。

 

 前回の連載でも触れましたが、課題には大きく三つの層があると思っています。
 ①支援技術や知識の課題(個々の支援スキルの問題)
 ②支援マネジメントの課題(チームの動かし方や共有の仕組み)
 ③組織マネジメントの課題(体制や方針、ガバナンスなど構造的な要素)

 

 この三層は切り離されているようでいて、実際は密接につながっています。たとえば「支援が安定しない」という表面上の問題も、実はチーム内の情報共有(支援マネジメント)や、法人の意思決定ルール(組織マネジメント)に根があることが少なくありません。

 

ブレーンストーミングを活用する

 私は、こうした構造を見立てるとき、コアメンバーと一緒に模造紙を広げてブレーンストーミングを行うことがあります。

 

 付箋に課題を書き出して並べていくと、それぞれの関係性や優先順位が自然に見えてきます。また、参加者から不満や不安の声が多く上がる場合には、十分に時間を確保して、ブレーンストーミングの中でそれらの感情も一緒に構造化するように心がけています。

 

 「何に困っているのか」「どこにモヤモヤがあるのか」を整理していくと、感情的な問題も次第に共有可能な“課題”として見える形に変わっていくと思っています。

 

 不満を「声」として扱うのではなく、何らかの「構造」として扱うことで、現場の納得感や安心感につながります。「課題を整理する」ことは、問題を細かく切り分けて責任の所在を追及することではありません。むしろ、バラバラに見えていた出来事をつなぎ直し、全体の構造を“みんなで見える化”する作業です。

 

 どう解決するかを考えるのは、その次のステップです。現場の誰もが「何がどこでつながっているのか」を共有できたとき、初めてチームとしての改善が動き出します。

 

 変化は、共有の先に生まれるのだと思います。

 

 あれれ、気づけばもう時間ですね。
 本当は今日、私のコンサルの中身をご紹介するはずだったんですが……。でも、それだけ導入のかかわりが大切ということなんです。

 

 次こそ、私のコンサルの“実際の進め方”をお話ししたいと思います。さて、ちゃんと話せるかな……?