精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第10回:手探りから始まった支援のかたち──小さな当事者会のスタート
2025/06/18

みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
前回は、CoCoTELIの立ち上げから当時を振り返っての反省についてまとめました。第10回となる今回は、学生団体としてスタートしたCoCoTELIの活動や変遷について書いていけたらと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
動き出したCoCoTELI。活動のなかで見えてきたこと
第9回で書いたように、学生団体として立ち上がったCoCoTELIの活動がスタートしました。
当時の僕には、「精神疾患の親をもつ子どもに寄り添いたい、救いたい!」という思い(今思えば、おこがましい)だけが先行していて、具体的に何をすればいいのかはまったくわかっていませんでした。そんななかで、勉強会に参加したり、専門家の先生方に話を聞きに行ったり、家族会に顔を出してみたりと、手探りの状態で動き始めました。
また、CoCoTELI設立のタイミングで公開した、自身の経験を記載した note が多くの人に読まれ、社会的に注目が集まりつつあった「ヤングケアラー」という文脈で声をかけていただく機会も生まれました。メディアやイベントで自分の経験を話す機会も増えた記憶があります。今振り返ると、そのなかには反省すべき点や考えさせられることも多いです。
そうした活動のなかで見えてきたのは、「精神疾患の親をもつ子ども・若者」という存在が、社会の中で“見えにくい存在”になっているという事実です。特に、25歳以下の子どもや若者を対象とした、あるいはその世代が安心して参加できるような場が、まだまだ圧倒的に少ないという現状が浮き彫りになってきました。
このような課題を目の当たりにして、「ならばCoCoTELIで、25歳以下の精神疾患の親をもつ子ども・若者のための居場所をつくろう!」と考えるようになりました。今振り返ると安直かつ反省も大きいですが、そんな想いから始まったのが、いわゆる「当事者会」のような取り組みです。
当事者会の取り組み
もちろん、自分1人でやるのは危険だということは当時の僕にもわかっていたため、さまざまな場で出会ったソーシャルワーカーや心理士の方々に相談し、協力をお願いしながら、少しずつ形にしていきました。
はじめは、メディア掲載がきっかけで中学生から大学生の精神疾患の親をもつ子ども・若者が5人程度集まり、会を開催。
そこで出会った子ども・若者たちからは、
・初めて家族のことを人に話した
・1人じゃないと知って心が少し楽になった
・友人に話したことはあったけど、気まずい雰囲気になっちゃったからこうやって気にせず話せることが嬉しい
・こういう会を探したけど自分たちの年齢層のものがなかったから、また開催してほしい
といった声をもらい、その声に背中を押され、定期的な開催へとつながっていきました。
そんな会を開催していくなかで、オンラインツールを用いたオンラインの居場所づくりを始め、少しずつ精神疾患の親をもつ子ども・若者との出会いが広がっていきました。
また、SNSなどを通じて活動を発信していくなかで、外部の支援者の方から「自分がかかわっている子どもをつなげたい」というご連絡をいただくこともありました。そのたびに、「学生団体であり、専門職が常駐していないため、責任ある対応が難しい」ということをお伝えせざるを得なかったのも、当時のリアルな葛藤です。
葛藤を抱えながらも、学生団体として子ども・若者と少しずつ出会っていくなかで、彼ら・彼女らから寄せられるさまざまなニーズを実感するようになりました。
しかし、それに対して学生団体という立場では、どうしても責任をもって応えていくことが難しく、次第にもどかしさを感じはじめます。
「自分たちがやらなくても、他に選択肢があるのならそれでいい」という前提で活動を続けていましたが、現実には、精神疾患の親をもつ子ども・若者を対象とした支援は、社会構造のさまざまな影響を受け、極めて希薄な状況にあることを改めて痛感していました。
そうした現実に直面するなかで、学生団体としての活動には限界があることを強く意識するようになっていったのです。
改めて振り返って
今回は、学生団体としてスタートしたCoCoTELIの活動や変遷について書いてきました。今思うととても安直な考えから始まった活動であったなという反省も大きくあります。当時からたくさんの方々に支えていただきながら進んできたため、今回の執筆は改めて感謝の気持ちを感じるきっかけにもなりました。
次回は、学生団体としての活動を通して感じた限界と、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援に本気で向き合っていくために踏み出したNPO法人化について書いていきたいと思います。