道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第7回 標準的支援の骨格――特性アセスメントをどう活かすか
2025/05/28

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)
一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。
前回の連載では、標準的支援について、私なりの解釈を交えて解説しました。今回は、標準的支援の骨格である「特性アセスメントをどのように活かすか」がテーマです。
もちろん、支援は個別に提供されるものであり、アセスメントが画一的に支援に反映されるわけではありません。この点は非常に重要ですので、最初にお伝えしてから本題に入りたいと思います。
アセスメントをどう活かすのかが大切
この連載でもくり返しお伝えしてきたように、支援は「社会モデル」に基づいて考えるべきです。つまり支援とは、対象者の「できないこと」や「苦手なこと」を克服させるのではなく、そうした特性があっても、社会の側が配慮することで、その人らしい生活を維持・実現できるようにすることなのです。
このような観点から考えると、標準的支援によって得られたアセスメントの結果を支援者がどのように分析し、「できないこと」や「苦手なこと」に配慮した環境をいかに構築していくかが、支援の重要なポイントになりそうです。
自閉スペクトラム症の特性とは?
自閉スペクトラム症の特性は、一般に「社会性」「コミュニケーション」「想像力」「感覚」の4つの観点で整理されています。それぞれにおいて、定型発達の人との違いが明確に現れやすく、支援の工夫が求められます。
以下に簡単にまとめておきます。
1.社会性の特性:他者とのかかわり方に独自の傾向があり、相手の気持ちを読み取ったり、状況に応じて行動したりすることが難しいことがあります。人との距離感や集団でのやり取りがわかりにくいこともあります。
2.コミュニケーションの特性:話し言葉の理解や使い方に特性があり、一方的な話し方をしたり、言葉を文字どおりに受け取ってしまったりすることがあります。表情やジェスチャーといった非言語的なやりとりが苦手な方もいます。
3.想像力の特性:物事の見通しを立てることや、さまざまな変化に柔軟に対応することが難しく、予測できない出来事に強い不安を感じやすい傾向があります。決まった手順やルールへのこだわりが強くなることもあります。
4.感覚の特性:音、光、におい、触感などに対して過敏または鈍感な反応を示すことがあり、日常の刺激に対して強い不快感や興奮を覚える場合があります。
こうした特性に対して、どのような配慮ができるでしょうか。
特性に対する配慮とは、どのようなことなのか?
たとえば、コミュニケーションにおいて、言葉でのやりとりが難しい場合には、絵カードや写真などの視覚的な手段が有効な場合があります。これは、コミュニケーションの違いに対する具体的な配慮の一例です。
また、想像力の特性に関連して、「今日の予定は?」と聞かれて即座に思い浮かべられるのは、私たちがスケジュールを頭の中で視覚的にイメージできるからです。
しかし、自閉スペクトラム症の人は、この「見える化」の作業が難しいことがあるので、スケジュールを実際に提示して可視化することが必要なわけです。これも想像力の違いへの配慮の一例です。
「構造化」とはどのようなことなのか?
こうした支援方法の一つとして「構造化」という考え方があります。「構造化」とは、環境や情報を整理し、わかりやすく提示することで、本人の理解と自立を促す支援方法のひとつです。
構造化の主な目的は、
• 環境の見通しを持ちやすくする
• 情報の整理と理解を支援する
• 不安や混乱を軽減する
ことにあります。
構造化はわたしたちの暮らしの延長線上に
コンサルなどでさまざまな事業所を訪問していると、しばしば「ルールで縛ることになるのでは」「変化に対応できなくなるのでは」「型にはめてしまわないか」といった疑問を耳にしますが、構造化はこうした懸念とは本質的に異なるものと私は思っています。
構造化は、本人の自由や柔軟性を奪うものではなく、むしろ予測可能な環境を整えることで安心感を生み出し、自発的な行動や意欲を引き出すための支援です。また、構造化は一律の対応ではなく、本人の成長や理解度に応じて変化・発展させていくものでもあります。
みなさんもお気づきかもしれませんが、私たちが暮らす世界そのものも、すでにさまざまな形で構造化されています。たとえば、カレンダー、時計、時刻表、案内板、職場のマニュアル、学校の時間割。さらには、駐車場所を示す白線や地下鉄乗り場を案内する矢印まで、日常生活を円滑に送るための「見通しの手がかり」はあらゆる場所に用意されています。
私たちはそれらを無意識に使いこなしており、構造化された環境の中で、安心に満ちた生活を送れています。そう考えると、構造化は決して自閉スペクトラム症の方への特別なツールなどではなく、誰にとっても必要な「わかりやすさの工夫」だといえるのではないでしょうか。
合理的配慮=構造化=ユニバーサルデザイン!
さらにいえば、最近、主要な空港に設置されているカームダウン(クールダウン)・エリアでは、感覚過敏などに配慮した落ち着ける空間が提供されています( https://www.narita-airport.jp/ja/service/ud/cool-down/ )。
また、ファミリーレストランでは、店員とやり取りをせずとも、タブレット等で案内・注文・会計まで完結できるシステムが整備されているお店も増えています。
ひと昔前であれば、こうした工夫は「特別な人のための配慮」として、限定的にとらえられていたかもしれません。しかし今では、それらは誰にとっても使いやすく、ストレスの少ない仕組みとして、社会の中で広く支持されています。こうした「わかりやすく、安心できる設計」は、もはや一部の人のための特別な配慮というわけではなく、私たちの暮らしを支える当たり前の基盤となりつつあります。
つまり、「わかりやすく安心できる設計」は、すでに社会のさまざまな場面に浸透し、「ユニバーサルデザイン」として定着しつつあるのです。
ですから、構造化という支援の考え方は、もはや自閉スペクトラム症の方の支援の枠にとどまらず、すべての人にとって有益な視点であるといえます。こうした視点は今後、社会の多様性や変化に対応する中で、これまで以上に広く社会に浸透していくのではないでしょうか。
このように考えると、「特性に配慮した支援=構造化」は特別なことではなく、むしろ、私たちがふだん無意識に当たり前のように使っている“わかりやすさ”や“便利さ”が、障害のある方にはまだ届いていないだけなのではないか・・・・・・。
そう感じるのは、私だけでしょうか?