道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第6回 標準的支援のはなし (その2)
2025/05/08

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)
一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。
さて、前回(第5回)は強度行動障害支援の標準的支援の話をしていたのですが、ついつい話が大きくなってしまいました……。
前回の理屈❹でもお示ししたように、強度行動障害支援における標準的支援とは、
強度行動障害を有する者への支援にあたっても、知的障害や自閉スペクトラム症の特性など個人因子と、どのような環境のもとで強度行動障害が引き起こされているのか環境因子もあわせて分析していくことが重要となる。こうした個々の障害特性をアセスメントし、強度行動障害を引き起こしている環境要因を調整していくことが強度行動障害を有する者への支援において標準的な支援である
「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書」(令和5年3月30日)より
とまとめられています。
普段、現場で強度行動障害の状態にある方を支援しており、“強行研修”(強度行動障害支援者養成研修)を受講した経験がある人ならば、少しピンとくるのかもしれません。ですが、普通の人は“強行研修”って何?と思うでしょうし、この文章の意味を具体的にイメージするのは難しいかもしれません。
今回は、この謎めく「標準的支援」について、深掘りしてみたいと思います。
氷山モデルとは?
「氷山モデル」は、表に見えている行動だけで判断せず、その下に隠れている原因や背景を理解するという考え方をわかりやすく視覚化したものです。氷山は水面に出ている部分しか見えませんが、実際には水面下に大きな部分が隠れているといわれます。これを行動の理解にたとえたものが「氷山モデル」です。
強度行動障害でたとえるのであれば、水面上に浮かぶ氷山は、自傷行為、他害行為、物を壊す行為、大声などの課題となる行動です。一方で水面下には、その行動の要因となる部分が隠れています。それが「個人因子と環境因子」です。
つまり、個人因子である知的障害や自閉スペクトラム症などの障害特性と対象の方の周囲の人やものなどの環境因子がミスマッチを起こしていることで、水面上に見える氷山でたとえられる自傷行為、他害行為が生じていると考えられるので、逆に障害特性にマッチした環境因子を提案することで課題となる行動が減少していくのではないかという考えをわかりやすくモデル化したものが「氷山モデル」なのです。
【研修の演習で使用される氷山モデルシート】

出典:特定非営利活動法人全国地域生活支援ネットワーク監/牛谷正人、肥後祥治、福島龍三郎編『強度行動障害のある人の「暮らし」を支えるー強度行動障害支援者養成研修[基礎研修・実践研修]テキスト』中央法規出版,2020年,p.314
強度行動障害支援における標準的支援では、氷山モデルを使って障害特性と環境のミスマッチを分析するこのプロセスこそが、「特性のアセスメント」と呼んでいる部分であり、すべての強度行動障害支援の根幹を成すものであると私は考えています。
機能的アセスメントとは何か?
一方で「障害特性を知ることの大切さ」については、「強度行動障害を有する者の地域支援体制に関する検討会報告書」(令和5年3月30日)において、
強度行動障害を有する者への支援において、行動の意味(機能)を理解せずに介入することで、抑圧的な対応となってしまうおそれがあり、問題となっている行動がどのような意味(機能)をもって起きているのかを調べる機能的アセスメントを進めることが重要である。
という一文が登場しています。特性アセスメントが基本中の基本である、と述べたそばから、いきなり違う言葉が登場しましたね。実は、強度行動障害支援においては、ここで登場した機能的アセスメントは、特性アセスメントと並んで重要なキーワードとなります。
最後に少しだけ機能的アセスメントについて解説して、今回のテーマを終えたいと思います。
「機能的アセスメント」とは、ある問題行動や困難な行動が「なぜ」「どのように」起きているのかを分析し、その行動の「目的や意味(機能)」を理解するためのアセスメント手法です。
まず、「すべての行動には、理由がある」ということが出発点になります。簡単にいえば、その行動の意味を理解するために行動の意味を探っていくことが、「機能的アセスメント」ということになります。
例えば、誰かに注目してほしくて大声を出すという行動は、「注目や関心を得る」という意味になります。ほしいものを手に入れる手段として泣き叫ぶという行動は、「物や活動を欲する」という意味になります。嫌な活動からの逃避の手段としての他者への攻撃は、「嫌なこと・状況を避ける」という意味になります。また、感覚的に気持ちのいい行動は、自己刺激そのものが行動の意味となります。これらの「意味」を、「行動の機能」と呼んでいます。
このように行動にはすべて「機能」があります。その行動は問題があるからといって、行動の意味を見極めずに「止める」ことは支援ではありません。そのような観点から、そもそも「なぜこの行動をしているのか?」を常に考える視点が非常に重要であり、機能的アセスメントは強度行動障害支援においては、重要なアセスメントと位置づけられているのです。
さて、第6回では、標準的支援において重要な特性アセスメントと機能的アセスメントを私なりに丁寧に説明してみました。みなさん、おわかりいただけましたか?
少々、アカデミックな話になってしまいました。「らしくないですね・・・・・・」とどこかから陰口が聞こえてきそうです。
次回は、今回ふれた「アセスメントをどのように活かしていくのか?」というあたりを掘り下げてみたいと思います。