「ナラティブの世界」へようこそ ―人生の物語をとらえ直す旅に出よう― 第1回

2026/09/28

 本連載は『月刊ケアマネジャー』での連載(2025年4月号~2026年3月号掲載)を再編集し、再掲載するものです。
 本連載には、「ナラティブ・アプローチ」のエッセンスがふんだんに詰まっています。全24回の束の間の物語の旅になりますが、「ナラティブ・アプローチ」に触れるこの旅をぜひ一緒に楽しんでもらえたなら嬉しいです。


あなたの物語には価値がある 上

 本連載を通じて「ナラティブ・アプローチ」を一緒に学んでみたい。そう考えたことには理由がある。私自身、3月で大学を退職し※、新しい道へと進む。今、私の片方の目は、30年間紡いできた「教育者、研究者としての物語」を振り返っている。しかしもう片方の目は、これから始まる「新しい物語」を見つめている。こうした人生の過渡期には「ナラティブという不思議な世界」への旅に私は惹かれてしまう。 
 せっかくの旅なので、旅は道連れ、読者の皆さんを、この不思議な旅へと誘いたいと考えたからだ。 

※編集部注:2025年3月のこと


過去、現在、未来への旅 

 ナラティブ号(バス)を貸し切ったので、これから一緒に乗り込もう。この旅は、過去へと向かい、そこから現在、そして未来へと続いていく。
 しばらく走ってみると、窓に、懐かしい景色が映りはじめる。楽しかった時代の街角を通り過ぎる頃、あなたの目は輝く。今はもう会えない人々が登場し、あなたに話しかけてくる。暗いトンネルに入ることだってある。そこであなたは、かつての悲しみの意味をも
う一度、思い起こすかもしれない。
 こうした過去への旅は、あなたにとって価値ある時間だ。拾い集めた思い出をポケットに入れたら、バスは現在地点を通り抜けて、やがて未来へと向かう。長い道中、みんなで代わる代わる運転し、助手席に座り、互いが見出した物語を分かち合えたら素晴らしい。


人生の物語に価値を見出す

「 この旅の目指すものは何ですか?」と誰かが問うなら、答えは準備してある。
 それは「あなたの人生の物語に価値を見出すこと」だ。
 それを聞いた乗客が思わず問いかける。
 「私の人生って物語だったの?」「それは価値があったの?」。
 もちろん答えは「YES」。
 誰もが「人生の物語」をもっている。しかしそれを心の奥底にしまい込んだまま、誰にも話すこともなく生き続けている人がほとんどなのかもしれない。そうであればその人の本当の輝きや強さは、誰にも気づいてもらえない。
 だからこそ、私たちは、互いに、自分の「人生の物語」と「向き合い」「振り返り」「意味づけ」「語り」「聴く」必要がある。このことが「ナラティブ」という意味になる。
 自分の物語に向き合うだけではなく、このバスの旅にはさまざまな人が乗り込んでいるのだから、ぜひ、隣に座っている人の物語にも耳を傾けてみてほしい。
もちろん、あなた自身にも語ってほしい。そうすることで両者の間に「共感」が生まれ、さらに物語を語りたくなり、聴きたくなるだろう。そこから自身と他者のもっている、思いもよらないほどの「人生の生き様」「苦闘」「強さ」を発見することができるだろう。
 そのようなやりとりを通じて、自分の人生の物語に価値を見出すことができるはずだ。


著者紹介

川村隆彦

「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援にかかわる専門職を強めるテーマで、約30年全国で講演・研修を行ってきた。人生の困難さに対処する方法をYouTubeやInstagramで発信中。