現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第10回連載 一人暮らし・24時間支給 ~権利としての自立と、体制確保の現実~

2026/07/29

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。


 

 今回のテーマは、障害のある方の一人暮らしを支える24時間支給決定です。

 

  障害者総合支援法 第1条の2は、障害のある方の「どこで誰と生活するかについての選択の機会」を確保することを基本理念として掲げています。
 その理念に照らせば、どれほど重度の障害があったとしても、本人が望むのであれば、地域での一人暮らしは実現されるべきものと考えられます。

 

 実際に、地域医療や障害福祉サービスの充実により、かつては施設や病院での生活を余儀なくされていた重度障害のある方にとっても、「地域で一人で暮らす」という選択肢が現実のものとなっています。

 

 もっとも、24時間支給となると、単純計算で1日24時間×31日で月に744時間という膨大な支給量となります。
 さらに、入浴や移乗などで2人介護が必要となる場合には、その分の時間数も加算されるため、当然ながら、それを裏打ちする介護給付費も高額となります。

 

 障害福祉サービスは利用者の権利保障のための制度であり、財政面のみを理由として必要な支援を否定することはできません。
 しかし、市区町村の財源も無限ではなく、支給決定にあたって慎重な検討が求められることも事実です。

 


支給決定の視点から見た「24時間支給」

 そもそも、24時間切れ間ないサービスが必要な状況とはどのようなものでしょうか。


 典型的には、重度の肢体不自由があり人工呼吸器を装着している方や、体位交換、喀痰吸引等の医療的ケアを継続的に必要とする方が想定されます。
 このような方の場合、常時介護を必要とする場面だけでなく、緊急時に直ちに対応できる体制そのものが必要となります。

 

 重度訪問介護では、身体介護や家事援助だけでなく、「日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り」も支援内容として位置付けられています。
 そのため、実際に介護行為を行っていない時間についても、必要性が認められれば支給決定の対象となり得ます。

 

 したがって、24時間支給決定を検討する際には、単に介護に要する時間の積み上げだけで必要時間数を算出するのではなく、本人の障害特性や生活実態を踏まえながら、地域生活を維持するために必要な支援全体を評価していく視点が求められます。

 


24時間支給決定後の体制づくりと支援者サイドの責任

 24時間支給決定における本質的な課題は、支給決定そのものよりも、その後の生活を支える体制づくりにあると考えられます。

 

 24時間支援体制では、「常に誰かが本人を支援できる状態」を維持し続けなければなりません。

 

 例えば、交代予定のヘルパーが体調不良や交通機関の遅延等によってサービスに入れなくなることは十分に起こり得ます。
 しかし、そのような場合であっても、現在支援に入っているヘルパーが「時間だから」といって、直ちに退出することは基本的には許されません。
 仮に支援の空白が生じ、その結果として本人の生命や身体に重大な影響が発生した場合には、当該ヘルパーだけでなく事業所としての法的な責任が問われる可能性もあります。
 そのため、単一の事務所だけで対応するのではなく、複数事業所による強固なバックアップ体制を築くことが理想だと考えられます。

 

 さらに、この体制づくりは平常時の運用にとどまらず、有事の事態まで見据える必要があります。

 

 近年は大規模地震だけでなく、集中豪雨や河川の氾濫等による水害も頻発しています。

 自宅が浸水想定区域に含まれている場合、自治体から避難勧告が発せられた際に、どこへ誰と避難するのか、また、避難の際の移動手段はどのように確保するのか。


 こうした点についても、平常時から本人、親族、相談支援専門員、介護事業所、訪問看護ステーション、福祉用具事業者等の多くの関係者間で知恵を出し合って災害時避難計画を策定しておく必要があります。


相談支援専門員の役割

 切れ間ない支援が求められる24時間支給においては、常にサービス提供体制をモニタリングする中心的な役割が必要になります。
 この重大な役割を担うのが、体制全体を俯瞰しながら関係機関との調整を担う相談支援専門員です。

 

 しかしながら、私の印象では、24時間支給の体制づくりを担える相談支援専門員は決して多くはありません。
 市区町村としても、24時間支給に対応できる相談支援専門員の育成を図っていく必要があるのではないでしょうか?


 個人的には、24時間支給決定を前提としたサービス等利用計画の作成や体制構築については、新たに加算を設ける等、報酬算定上の措置があってもよいのではないかと考えています。

 


本人意思の尊重と意思決定支援

 もう一つ、24時間支給を考える上で重要な論点があります。

 

 それは、本人意思の尊重意思決定支援です。

 

 一人暮らしとは、単に家族と別に生活することではありません。自らの意思で生活を組み立て、日々の選択と決定を積み重ねながら暮らしていくことです。
 「何時に起きて、何を食べて、どこへ出かけるか?」といった日常的な選択だけでなく、「どの介護事業所と契約するのか、どこに転居するのか、あるいはどのような活動をしていくのか。」といった生活の根幹に大きな影響を及ぼす重要な選択も含まれます。

 

 こうした選択の積み重ねが、その人の生活そのものを織りなしていきます。
 24時間支給は、自己決定に基づく自立生活を支えるという意義を有しているのです。

 

 しかしながら、障害特性等により意思形成や意思表明に支援を必要とする方もいます。
 そのような場合には、本人意思の尊重が十分になされているのかという視点から、意思決定支援のあり方を検討していく必要があります。


 状況によっては成年後見制度等の活用を視野に入れることも重要になるでしょう。
 現行の成年後見制度には様々な課題があると言われていますが、昨今は制度見直しに向けた議論も進められており、今後はより利用しやすい制度へと改善されていくことが期待されます。

 


「地域の支援力」を問う24時間支給

 24時間支給決定は、単に744時間のサービス量を認めることではありません。
 本人が望む地域生活を実現するために、どのような支援体制を構築し、それをどう継続していくのかが大きな命題となります。
 そこでは支給決定担当者だけでなく、相談支援専門員、介護事業所、医療関係機関、そして地域社会全体の支援力が問われます。

 

 障害者総合支援法が掲げる「どこで誰と生活するかについての選択の機会」を実質的に保障するためにも、24時間支給の意義について改めて考えていきたいところです。

 

 次回は、「どこで」という部分にスポットを当てながら、地域生活の場の選択に伴う諸課題について考えてみたいと思います。