現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第9回連載 介護保険との適用関係~65歳介護保険移行後の支給決定は?~
2026/07/15
著者
小川 幹夫(おがわ みきお)
自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。
前回 は障害福祉サービスと介護保険制度との適用関係について、基本的な考え方を整理しつつ、障害福祉サービス利用者が介護保険適用年齢を迎えるにあたって考慮すべき点について述べました。
後半となる今回は、介護保険適用年齢となった高齢者が、新たに障害福祉サービスを利用するケースについて、具体的な支給決定にまで踏み込んで考えていきましょう。
高齢者が新たに障害者となった場合の対応
介護保険サービス利用者が、病状の進行や機能低下により新たに障害者となる場合もあります。
この場合にも、原則として
介護保険優先
が適用されますが、制度上の資格の有無がそのまま支援水準を決定するわけではない点に留意する必要があります。
障害者手帳を取得することで、介護保険では不足する支援を障害福祉サービスで補完できる場合があります。
一方で、手帳の申請が行われていない場合、同じ生活状況であっても自費対応を余儀なくされることがあります。
このような状況は、制度理解や情報収集の不足によって生じることも少なくありません。
そのため、市区町村職員や相談支援専門員、ケアマネジャーなどの関係者には、利用者の状態変化を早期に把握し、必要に応じて障害福祉制度の利用の可能性について適切な情報提供を行うことが求められます。
障害福祉サービスの「上乗せ」相談時における実務フロー
介護保険受給者が障害福祉サービスの上乗せについて相談してくる場面として、よくあるのは、ケアマネジャーが窓口に相談に来るというパターンです。
相談内容は、「現在の要介護度では十分な支援量を確保できず、自費対応も経済的に難しい。しかし、身体障害者手帳を取得しているため、障害福祉サービスを併給できないか」というものです。
このような場合、最初に求められるのは、上乗せが可能かどうかを見通しとして判断することです。
① 介護度の区分変更の勧め
相談の時点で要介護5以外であれば、まずは介護保険の枠内で対応できないかを検討するため、区分変更の申請を勧めるべきでしょう。
現在の要介護度で支援量が不足している場合、基本的には現在の心身の状況が介護度に十分に反映されていない可能性があるためです。
したがって、直ちに障害福祉サービスの上乗せを検討するのではなく、まずは介護保険制度の中で適切な評価を受けることが先行すべき対応となります。
② ケアプランの提出
区分変更を申請したものの要介護度が変わらなかった場合や、すでに要介護5である場合には、現在のケアプランを確認し、利用者の生活状況や支援内容についてヒアリングを行いながら判断していくことになります。
この際、介護保険申請時の医師意見書や介護認定調査票を取得することで、申請者の心身の状況や生活上の課題をより具体的に把握することができます。
③ 上乗せが可能かどうかの事前判断
この段階では、障害支援区分が取得されていないことも多く、利用者の状況については、主として介護保険の支給状況やケアプランの内容、そして医師意見書や介護認定調査票等の資料から把握していくことになります。
こうした情報を踏まえ、利用者の心身の状況、生活環境、介護者の状況などを総合的に勘案し、生活を維持するためにどの程度の支援が必要であるかを検討します。
そのうえで、現時点の介護保険サービスの利用状況を考慮してもなお支援が不足すると判断される場合には、障害福祉サービスによる上乗せが必要であるとの見通しを立て、申請手続へ進むことになります。
非常に難しい判断になると思われますので、支給決定担当者の個別判断によることなく、係内あるいは課内でしっかりと議論すべき局面です。
④ 申請書の提出 → 障害支援区分認定
上記の過程で上乗せが必要と見込まれる場合には、障害福祉サービスの申請を受理し、障害支援区分の認定を行うことになります。ここからは、通常の支給決定プロセスに沿って手続を進めていくことになります。
⑤ 支給量算定
支給量の算定については、市区町村によって、介護保険との併給時の支給量に関する基準が別途定められていることがあります。そのような規定がある場合には、まずは当該基準に基づいて判断することになります。
規定がない場合の基本的な考え方については、以下に概略を述べます。
上乗せの算定方法
ここでは、障害支援区分が認定された後に、介護保険の利用状況を踏まえて支給量算定を行う手順について、実務上の一つの考え方として、私見を述べさせていただきます。
① 支給決定基準に定めがある場合
支給決定基準において、介護保険との併給(上乗せ)の場合の支給量算定方法が明示されている場合には、まずはその定めによることが基本となります。
自治体独自の運用が明文化されている場合には、それが最も直接的な判断根拠となるからです。
② 支給決定基準に定めがない場合
支給決定基準に具体的な算定方法の定めがない場合には、次のような手順で整理することが一つの実務的な考え方となります。
まず、介護保険の利用状況をいったん考慮せず、通常の支給決定プロセスに沿って、障害支援区分や心身の状況、生活環境等を踏まえて支給量の勘案を行います。
ここで算出されるものが、いわば「必要支給量」です。
次に、その必要支給量から、現に介護保険において利用している支給単位数を換算した「介護保険利用量」を差し引くことで、障害福祉サービスとしての「上乗せ支給量」を導き出します。
この際、要介護5の利用者が典型的ですが、算出された上乗せ支給量が支給決定基準上の標準支給量を超える場合には、非定型の支給決定の手続が必要となるでしょう。

一方で、明文上の定めがあるわけではありませんが、必要支給量が標準支給量を超えている場合であっても、実際の上乗せ支給量が標準支給量の範囲内に収まっているのであれば、非定型の支給決定には該当しないと整理することも、一定の合理性があると考えられます。
ここで特に問題となるのが、介護保険の利用状況をどのように評価するかという点です。
例えば、介護保険上の訪問リハビリや訪問入浴等のサービスを相対的に多く利用している結果として、訪問介護に割り当てられる単位数が少なくなっているような場合には、その利用状況を形式的に前提とするのではなく、標準的なサービス構成に引き直したうえで算定を行うことが求められます。
【具体例:訪問入浴のケース】
ある市区町村の地域生活支援事業の訪問入浴(介護保険利用者は対象とならないことが通例)が“原則として週1回”と定められているところ、介護み保険サービスとして“週2回”の訪問入浴を利用している高齢者からの上乗せ申請があった場合を考えてましょう。
このケースで、上乗せ支給量の算定にあたり、地域生活支援事業より多くなる週1回分の単位数は上述の「介護保険利用量」に含まれるものとして「必要支給量」から差し引かれます。
このように取り扱うことで、地域生活支援事業の訪問入浴を利用されている方との実質的な公平性を図ることが可能となります。
以上、障害福祉サービスと介護保険との適用関係について、2回にわたり整理してきました。
実際の支給決定においては、介護保険の優先の原則に固執することなく、個々の利用者の生活状況や家族の状況、地域の資源状況など、多様な要素を総合的に勘案することが求められます。
関係者間の丁寧な情報共有と議論が積み重ねられ、利用者が住み慣れた地域で安心して生活を継続できる支援が実現されていくことを願ってやみません。
