最近よく聞く「サ高住」って何? 第3回:実際に暮らしているのはどんな人? 〜タイプ別・エピソード別の「暮らし」のリアル〜
2026/05/29
よく耳にするけど、実はよく知らない…そんなサ高住について解説します
1.はじめに
こんにちは、高齢者住宅協会 兵庫支部長の藤原雅美です。
前回は、高齢者向け住宅(サ高住)の「3つのタイプ」という仕組みについてお話ししました。
今回はその続きとして、実際に「どんな人たちが、どのような状況で過ごしているのか」という、入居者さんの現状をお伝えします。制度上の区分だけでは見えない、実際の暮らしの様子を整理していきます。
2. タイプ別・入居者さんの過ごし方とスタッフの関わり
第2回で挙げた3つのタイプでは、それぞれ生活の様子が異なります。入居者さんの状態と、スタッフの関わり方をまとめました。
| タイプ | どんな人?(入居者さん) | 現場での「支え方」のコツ |
|---|---|---|
| ①健康型 | アクティブな人。 「元気なうちに安心を買っておこう」とお引っ越しされた、お元気な方やご夫婦。 |
スタッフが何かを「してあげる」より、入居者さんの「やりたいこと」を横で応援するのが一番。趣味や散歩など、本人が主役になれる場を大切にします。 |
| ①混合型 | 自分らしくいたい人。 「足腰は少し弱くなってきたけれど、自分のペースは守りたい」という人。 |
お元気な人と、手厚い見守りが必要な人が共存する場所。「一つの大きな家の中に、いろいろな暮らしがある」のが、このタイプの良さです。 |
| ①重度対応型 | 安心を願う人。 認知症や医療ケアが必要でも、「最期までここ(お家)で」と願う人。 |
管理する場所ではなく、あくまで「安心できる家」。馴染みの家具に囲まれ、穏やかな時間が流れるよう、スタッフはそっと後ろから見守ります。 |
どのタイプであっても、ここは「施設」ではなく、あくまで「お家」です。お隣さんがどんな方であっても、同じ建物で暮らす大切な住人さん。
「色々な状況の方が住んでいる」という前提で接することで、ケアもより柔軟になりますし、住宅全体の雰囲気も落ち着いたものになります。
3. エピソードから見る「暮らし」の現状
現場での事例を、プライバシーに配慮した形でいくつかご紹介します。
【健康型】自分で作り、時には任せる「選択できる」暮らし
ミニキッチンのある部屋へ越された女性は、今も商店街へ買い物に行き、自炊や仲間との食事を継続されています。一方で、疲れた時はレストランも利用できる。この「自炊する楽しみ」と「プロに任せる気楽さ」をその日の状況で選べる自由こそが、自立を助けています。自分で献立を考え、手を動かすことは、生活の中でのリハビリにも繋がります。
【混合型・認知症】これまでの環境を変えずに過ごす
脳梗塞の後、馴染みのデイサービスに10年間通い続け、「食べる機能」を維持された方がいます。もし全てが決まっている「施設」であれば、これほど長く機能を維持することは難しかったかもしれません。住宅の自由さを活かして「通う場所を自分で選ぶ」ことが、生活の質を支えました。
また、認知症で不安が強かった女性は、自宅のタンスや写真をそのまま部屋に配置しました。「ここは自分の部屋だ」という認識が安心感を生み、状態が安定しました。環境を大きく変えないことは、認知症ケアにおいて重要な視点です。
【重度・看取り】一口の卵丼に込められた「生きる意味」
最期まで自分らしくいたいと願った、ある入居者様のお話です。
飲み込む力が弱くなっても「大好きだった卵丼が食べたい」とおっしゃいました。病院という「治療の場」であれば、誤嚥(ごえん)のリスクを考え、安全管理の観点から「絶対にダメなこと」として制限されてしまうでしょう。
しかし、ここは「お家」です。医療的な正解よりも、ご本人の「最期にこれを成し遂げたい」という願いに寄り添うことが許される場所です。スタッフとご家族で見守るなか、その方は卵丼を一口、しっかりと味わわれました。数日後、満足されたかのように息を引き取られたその姿は、人生の締めくくりの尊さを教えてくれました。
病院は「治す、命を延ばす」ことが最優先ですが、住宅は「自分らしく生きる」ための場所です。病院では諦めざるを得ない願いも、どうすれば少しでも叶えられるかをチームで考える。そんな生活の場ならではの柔軟な関わりが、重度の方の心の平穏を支えています。
4. 「医療や介護」の正しい使いみち
最近、メディアなどで「ホスピス住宅」という言葉を耳にすることが増えました。医療の力が必要な方を支えるとても大切な場所ですが、なかには利益を優先して、本当は必要のない医療を繰り返すような、悲しいニュースも耳にします。
私たち現場の人間が忘れてはいけないのは、「医療や介護は、その人に必要な分だけ届けるもの」だということ。入居者さん一人ひとりの様子をしっかり見て、足りない分を補い、多すぎないように気をつける。この「誠実さ」こそが、入居者さんの安心を本物にしてくれます。
5. 「施設に入る」ではなく「お引っ越し」
入居の背景には、「家族に負担をかけたくない」「独りだと不安」といった、切実な事情があります。
ここは人生の「終わりの場所」ではなく、これからの人生を「安心して過ごすための新しい拠点」です。私たちは、入居者さんが選んだ新しい生活を、これまでの人生を尊重しながら支えるサポーターでありたいと考えています。
おわりに
今回は、入居者さんの状況と事例をお話ししました。介護度という数字だけでは測れない、一人ひとりの人生に添うことが、この仕事の意義だと感じています。
暮らしのイメージが見えてきたところで、次回は「平均的な1日の流れ」についてです。自由な時間が多い環境で、スタッフやヘルパーは実際どう動いているのか。そのスケジュールを具体的に紐解いていきましょう。
著者紹介

藤原 雅美(ふじわら まさみ)
高齢者住宅協会兵庫支部長。
看護師、社会福祉士、主任介護支援専門員。
居宅や老健でのケアマネ経験を経て、現在は富庄トラストパートナーズ株式会社取締役としてサービス付き高齢者向け住宅「アガスティーア姫路」の運営を担う。介護・看護の養成校にて講師も務め、次世代の育成にも尽力する。
「住み慣れた場所で最期を迎えたい」という利用者の願いに応えるため、看取りまで責任を持って関わり続けることを信念としている。一期一会の縁を大切に、ご縁のあった方を最期まで支え抜くべく日々奮闘中。
