知ってるつもりの認知症ケア 第20回 お世話好きには「太陽」みたいに接する?

2026/07/06

川畑智

 

認知症の人に接するときには「認知症の人の見ている世界」を正しく理解することが大切です。それによって適切で質の高いケアを提供でき、利用者は認知症になっても安心して生活することができます。
……とはいっても、さまざまな仕事をこなす日々の業務のなかでは、理想どおりのケアを行うことは一苦労です。
この連載では、認知症ケアの第一人者である理学療法士の川畑智さんのもとに、悩み多き介護職の方々が訪れ、ともに「現場のリアルな困りごとを理想に近づけるためのヒント」を模索していきます。
理想論ではなく、認知症ケアのリアルなつまずきにスポットを当ててみたいと思います。


Fさん : お伺いしたいことがあるんです。通所施設で働いているのですが、かつて幼稚園の先生をされていた利用者さんがいます。ルールや決まり事に厳格で、ほかの利用者さんにも厳しく注意してしまう。どのように対応したらいいんでしょうか。

 

川畑 : 何を見ても「あなた、何してるの!」と取り締まりたくなる方ですね。

 

Fさん : こちらが止めても、正義感でつい言っちゃう感じで。

 

川畑 : よくある事例だと、こんな利用者さん同士のやりとりがあります。「あなた、何を食べてるの? 出しなさい!」と注意したら、そのお隣の方は「私は何も食べておらん」と言いながら口をモグモグしている。

 

Fさん : 実際には食べてないわけですね。

 

川畑 : そう。いわゆる不随意に動いてしまう。アルツハイマー型認知症の中期から後期にかけての時期に出てきます。パーキンソニズムの一つですが、顔が震えてくる動きや指先で丸薬を丸めるような動き(ピルローリング)が出てくる。コントロールしようと思わないうちに自然に起こるので、口がモグモグしてしまって、それで「食べているものを出しなさい」となる。

 

Fさん : 私たちはそれが意思とは関係なく動いてしまうからだな、とわかるわけですけど、それがわからないと食べているみたいに見えますね。

 

川畑 : そう。でもそれって、認知症の人にとって「見る情報」は正しく理解できていることの証だと思うんです。

 

Fさん : なるほど。認知症の人も目から得た情報をしっかりと理解しようとしているんですね。かつて先生をしていた方なら、なおのこと周りのことに注意が向きそうですし。

 

川畑 : では、そんな注意をしてしまう利用者さんになんて声をかけましょうか。

 

Fさん : 本音を言えば、「あまり言い過ぎると喧嘩になるから」と止めたくなってしまうんですけど……。

 

川畑 : 気持ちはわかります。強く机をたたきながら指摘するような場合だったら、とっさに止めなきゃと思ってしまう。でも絶対してはいけないのは、その方の手をぐっと握って「〇〇さん、それはいらないです」としてしまう。これはフィジカルロックで、身体的な拘束になります。「北風と太陽」だと、間違いなく北風ですね。認知症になると、5W1Hが苦手になるといいましたが、どれくらい(How)という加減も調整が難しくなっていますから、私たちがうまくアプローチする必要がある。注意をしてくれる利用者さんは元先生ですから、本人としては悪いことをしようとしているわけではないんですよね。

 

Fさん : そうですね。転倒リスクが別の利用者さんのことをわかっていて、私たちFさんに「あっちへ行ったよ」などと冷静に教えてくれるときもあるんです。

 

川畑 : すごい。スタッフのサポートまでしてくれるんですね。

 

Fさん : ただ、それに「ありがとうございます。よく見てくださって」と感謝の言葉を続けると、言い方はよくないですが、少し調子に乗った感じで、監視するような感じになってきたんです。皆さんが安心・安全に過ごせるように、という気持ちからなので、止めてほしいとは言えず……。

 

川畑 : しっかり周囲のことを理解していて、それだけの残存能力があることに驚いて「〇〇さん、本当にすごいですね。立派ですね。気づくなんて見事ですね」と言いすぎると、頼られているから頑張らなきゃと思ってしまうかもしれない。きっと、「協力してもらってありがとうございます」といったくらいで止めて、その目の前の事実に対してだけメッセージを伝えるのがいいんでしょうね。

 

Fさん : 本当に助かることもあるので、とてもありがたいんです。その気持ちも最小限のところで伝えることが必要ですね。

 

川畑 : あとは、どうでしょう。こうやって考えると、強く注意する利用者さんのアプローチとして、どんなものが考えられるでしょうか?

 

Fさん : そうですね……。しっかりと「気づいてくれたことには感謝します。ただ、あまり強い大きな声で言われると私たちもびっくりするので、よければ優しく伝えてもらえると嬉しいです」と言う、とか。

 

川畑 : それはすごくいいと思います。そのように伝えて、わかってくれることもあると思います。

 

Fさん : どうしても難しいようなら、お互いの席を離してみるか、見えないような配置にするか。環境を変えなくてはいけない場面もあるかなと思います。

 

川畑 : 外界の環境によって影響を受けやすい方ですと、視覚刺激が自分の刺激を増幅させてしまって、あまりにも怒りが強くなって興奮が強まることもありますからね。もちろん日によってうまくいかないこともあるでしょう。やはり大事なのは、本人にとって、しっかりと「私」を形づくっているものは何か、それを知ることです。幼稚園の先生ってどのくらいされたんですか? 印象的なお子さんはいましたか? とコミュニケーションをとって、情報をたくさん得ていく。そんな物語を中心としたナラティブ・ベイスド・ケアが大事になると思います。

 

Fさん : それが結果的に、私たち自身にもプラスになるわけですね。

 

川畑 : まさにそうですね。「だめですよ」「違います」「困ります」「できません」と利用者さんに「ちょっと待って」と言いたくなる場面が出てくると思います。そこで、私たち介護側が丁寧に接してみようと思えるかどうかが大事だと思います。

 
川畑智さんのプロフィール

理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表
1979年宮崎県生。病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立。熊本県を拠点に病院・施設・地域における認知症予防や認知症ケア・地域づくりの実践に取り組み、県内9つの市町村で「脳いきいき事業」を展開。ほかに脳活性化ツールとして、一般社団法人日本パズル協会の特別顧問に就任し、川畑式頭リハビリパズルとして木製パズルやペンシルパズルも販売。年間200回を超える講演活動のほか、メディアにも多数出演。著作に『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』シリーズなど。