知ってるつもりの認知症ケア 第19回 お風呂にパンツのまま入っても大丈夫?

2026/06/22

川畑智

 

認知症の人に接するときには「認知症の人の見ている世界」を正しく理解することが大切です。それによって適切で質の高いケアを提供でき、利用者は認知症になっても安心して生活することができます。
……とはいっても、さまざまな仕事をこなす日々の業務のなかでは、理想どおりのケアを行うことは一苦労です。
この連載では、認知症ケアの第一人者である理学療法士の川畑智さんのもとに、悩み多き介護職の方々が訪れ、ともに「現場のリアルな困りごとを理想に近づけるためのヒント」を模索していきます。
理想論ではなく、認知症ケアのリアルなつまずきにスポットを当ててみたいと思います。


川畑 : ここまで視点を変えるためのお話をしてきました。お風呂に行ってもらうために、実際のところどういうアプローチがあるか考えていきましょうか。服は脱ぐけれど、どうしても下着だけは脱ごうとしない方がいるということでしたよね。服を脱ぐことが「身ぐるみ剥がされる」「素の自分を見られてしまう」という恐怖につながり、最後の1枚で自分を守ろうとする心理が働くことがあります。

 

Fさん : はい。そんな感じもありました。この1枚の布が最後の砦、みたいな。

 

川畑 : では、成功例からヒントを探してみましょうか。私の知っている施設で似たケースがありました。担当した若いスタッフが悩んだ末に、リハビリパンツを履いたまま入浴することを許容したんです。そうしたら、入浴後にご本人が「濡れて気持ち悪いから着替える」とおっしゃって、自分で着替えてくれたそうです。

 

Fさん : リハパンのまま! 大丈夫なんでしょうか。

 

川畑 : 一人の浴槽なら周りに迷惑がかかりませんし、正解だと思います。きっと本人は下着ではなく、水着の感覚でしょうね。上がってから「じゃあ新しい水着に変えましょうね」と。スタッフもさんざん迷ったそうなのですが、出てきたときに利用者さんから「パンパンになって気持ち悪いので換えるよ」と言ったそうです。

 

Fさん : 本人が「脱ぎたくない」と判断しているなら、無理やり剥がすよりも安心感を優先するわけですね。

 

川畑 : もしかしたらこれが今後の日本の最先端の入浴方式になるかもしれませんよ。リハパンは捨てるわけですし、下着でも後で洗うわけですからね。その人の順番は最後にしてほかの人に迷惑がかからないようにすればいい。そういう柔軟さですね。

 

Fさん : パンツは脱ぐのが当たり前でしょ、と思ってしまいますが、認知症に人には当たり前が当たり前でなくなる瞬間があるということですよね。

 

川畑 : ですね。認知症の人が服を脱ぎたがらないのは、自分の心の中まで見られているような感覚になるからだと思うんです。少しでも隠したい。できない自分に気づかれたくなくて、脱ぎたがらない。そこで「じゃあ、そのまま入りましょうか」と言うと、関係性ができて安心感につながります。

 

Fさん : 羞恥心があるのかな、と思って「大丈夫ですよ」と声かけするのですが、「脱ぎたくない」の背景にはいろんな理由があるんですね。

 

川畑 : まさにそういうことですね。過去を振り返って、思考の転換でうまくいった経験はありますか?

 

Fさん : そういえば、「風邪ぎみだから」「喉が痛い」という利用者さんには、「お熱を測ってみましょうか」と言って、実際に測って平熱だと入る方はいらっしゃいました。「熱が出るといけないから今のうちに入りましょうか」「しばらく入れなくなると嫌ですもんね」と言うと、「午後から看護師さんが来るから、今入ってもどうにかなるわね」と。実はその方、毎回そうなんです。その都度、必ず体温を測っています。

 

川畑 : 本人の言葉を否定せず、うまく活用する素晴らしいアプローチですね。いい意味で「揚げ足をとる」という感じですね。「汚れてない」「汗かいてない」とおっしゃる方は多くて、私たちから見ると言い訳や取り繕いに聞こえますが、そうじゃない。それをうまく活かす手もあります。どうすればよいでしょうかね。

 

Fさん : お風呂に入る前に、いっそ汚しちゃう……。お風呂が午後だったら、お散歩に行くとか。

 

川畑 : いいですね。あとは書道をしたり、手形をつける活動をしたりなんかもいいですよ。「あら、汚れましたね。入りましょうか」って。本人も洗わなきゃと思えるでしょうし、お風呂につなげていく。「爪を切ってほしいから、お風呂をお願いしていいですか」というのも一手です。

 

Fさん : 言いくるめようとしても、本人が拒否されたら何も進まないですもんね。

 

川畑 : 本人の判断、意思決定ですから、それをうまく活用していく。ぜひ流れの中で気持ちを乗せていただけるとありがたいですね。そのために視点を変えることを考えてきたわけですが、なかなか難しい。入浴ではなくて「リハビリをしましょう」とお誘いしたり、水着が必要な方には水着を用意することも方法です。いずれにせよ、本人のすべてを包み込むようなサポートの仕方が大事だと思います。

 

Fさん : 人の数だけアプローチがあるような気がします。ありがとうございました!

 
川畑智さんのプロフィール

理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表
1979年宮崎県生。病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立。熊本県を拠点に病院・施設・地域における認知症予防や認知症ケア・地域づくりの実践に取り組み、県内9つの市町村で「脳いきいき事業」を展開。ほかに脳活性化ツールとして、一般社団法人日本パズル協会の特別顧問に就任し、川畑式頭リハビリパズルとして木製パズルやペンシルパズルも販売。年間200回を超える講演活動のほか、メディアにも多数出演。著作に『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』シリーズなど。