知ってるつもりの認知症ケア 第18回 それは拒否ではなくて自己決定?
2026/06/08
川畑智

認知症の人に接するときには「認知症の人の見ている世界」を正しく理解することが大切です。それによって適切で質の高いケアを提供でき、利用者は認知症になっても安心して生活することができます。
……とはいっても、さまざまな仕事をこなす日々の業務のなかでは、理想どおりのケアを行うことは一苦労です。
この連載では、認知症ケアの第一人者である理学療法士の川畑智さんのもとに、悩み多き介護職の方々が訪れ、ともに「現場のリアルな困りごとを理想に近づけるためのヒント」を模索していきます。
理想論ではなく、認知症ケアのリアルなつまずきにスポットを当ててみたいと思います。
Fさん : それでもやっぱり、「絶対に入らない!」と強く言われると、「拒否された」と落ち込んでしまいます……。
川畑 : わかります。「今日は汚れてないから」なんて断られたことがある方、少なくないと思います。そんなとき、どうしますか?
Fさん : 本人の気持ちは尊重したいので、いったん「わかりました」とほかの方を先に誘導します。
川畑 : 時間をずらすわけですね。理想形の一つかもしれませんね。アプローチして、うまくいかなかったら引いてみる。時間が経ってから再びアプローチして進めていく。中には、業務のタイムスケジュールすらさないことか一番だ!と、認知症の人の気持ちを抜きにして押して押して押しまくる、相撲と一緒で押し出しが一番という方もいるかもしれませんが(笑)。
Fさん : やっぱり無理強いはしたくないですね。浴室に入ってからズボンを脱いでもらうところまではうまくいっていても、パンツだけは脱ごうとしないこともありました。入ってもらわないとはいけないので、そのままでシャワーを始めたり。どうしても気持ちの部分はわからないこともあって、お風呂に入ることが楽しみになったらいいのにと思いながら、狭間で悩んでいます。
川畑 : お風呂は入らなくても命に別条があるわけではないですが、家族や私たちは入浴させたい。そのせめぎあいでしょうかね。ちなみに、介護の記録にはどう書いているでしょうか。「入浴拒否があり、今回は入浴できませんでした」と書いたことがありませんか。
Fさん : あるかもしれません。
川畑 : どうしても私たちは「拒否」と捉えがちなんですよね。私たちが「拒否」と思うのは、介護を「して差し上げる」と思っているからですね。本人に「やらない」と言われたら拒否されたと思ってしまうんですね。拒否を別の言葉で表現するとどうでしょうか。認知症の人にとっては「判断」でしょうね。自分のことは自分で決める。自立しているということは、自己決定権があり、自分で決めていいはずです。では、「お風呂に入れたいのは誰か」と問うと、そこに本人の意思はないわけです。
Fさん : でも、家族が「どうしても今日はお風呂に入れてください」と訴えてきたら、と思うと……。
川畑 : もちろん家族に頼まれたから入れなくては、という気持ちは100%わかります。いや、120%。ただ、それを言う家族は「して差し上げる介護」ありきの思考になっています。したがって家族側にも伝えていくのも大事。家族のケアでもあるんですよね。「入浴を案内させていただきます。何回かに分けて案内させてもらいますけども、それでも本人がうまくいかないという場面があることも承知しておいてください」と一言、声をかけておく。すると家族も「プロのあなたたちでもうまくいかないことがあるのね」と思うはずです。
Fさん : そこまでは言ってないですね。家族が理解してくれれば、少し気が楽になります。
川畑 : そこで「本人がなかなか乗っかってくれないときは、無理強いはしません。自立支援では、自分が決めていないことはするわけにはいかないんです。ただし、こういった声かけするとうまくいきましたっていうのをご家族にもお返ししますね」と。
Fさん : お返し、ですか。
川畑 : 何かお土産をやっぱり家族にフィードバックしてあげたいんです。連絡帳に「お風呂に入りました。お薬マル、入浴マル、食事マル。すべてできました」とあるのか、「こんな声かけするとうまく食事をとることができました。こうやって誘導するとスムーズにトイレに行ってくれました」とあるのは大きく違います。本当は家族もそれを望んでいるはずです。
Fさん : なるほど。施設にいるときは安心でも、家に帰ってくるとどう介護すればいいか困るというのは聞きます。
川畑 : 「認知症がわからない」「ケアができない」という思い込みが強ければ強いほど、頑張らなきゃと思うもので、なおのこと介護する側が主導でやってしまう。するとBPSDが悪化してしまう。
Fさん : 悪循環……。自立支援の本当の意味を共有できていないわけですね。
川畑 : 今回もマインドセットを変えるというような内容になりました。次回は実践的なお話ができればと思います。
Fさん : よろしくお願いします!
川畑智さんのプロフィール
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表
1979年宮崎県生。病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立。熊本県を拠点に病院・施設・地域における認知症予防や認知症ケア・地域づくりの実践に取り組み、県内9つの市町村で「脳いきいき事業」を展開。ほかに脳活性化ツールとして、一般社団法人日本パズル協会の特別顧問に就任し、川畑式頭リハビリパズルとして木製パズルやペンシルパズルも販売。年間200回を超える講演活動のほか、メディアにも多数出演。著作に『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』シリーズなど。
