今月のおはよう21 認知症の本人の声を聴く

2025/09/22

『『おはよう21』2025年11月号から、特集(認知症の本人の声を聴く)の内容を一部ご紹介いたします。

 

皆さんは、認知症の人の「声」を聴いていますか?
介護職であれば、「毎日一緒にいるのだから、そんなことは当たり前」と思うかもしれません。
しかし、「声」を「その人の本音や思い」という意味でとらえるとどうでしょうか?
日々の業務の忙しさなどで、「できていない」と感じる人も多いと思います。

今回の特集では、認知症の本人に、本音や認知症の人とのかかわりで大切にしていることを尋ねました。


本人に聞く
認知症の人とのかかわり方とこれからへの期待

日本全国には、自らの認知症の経験や思いを発信したり、同じ認知症と診断された人の支援(ピアサポート)を行う認知症の本人たちがいます。
今回は、その皆さんにご登場いただき、同じ認知症の人をサポートする際にどのような思いをもってかかわっているのか、これからの社会にどんな期待をしているのかを尋ねました。(文:迫田三佳)


お話しいただいた皆さん

戸上守さん
大分県ピアサポート相談員
大分県認知症希望大使
全国版希望大使
一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ副代表理事

春原治子さん
全国版希望大使
オレンジサロンHinata bocco代表
一般社団法人日本認知症本人ワーキンググループ会員

神原繁行さん
地域版希望大使「あきたオレンジ大使」
横手興生病院看護師

川原邦雄さん
美唄市おれんじカフェぴぱボランティア代表


ピアサポートで認知症の人と初めてかかわるときに気をつけていることは何ですか?

戸上さん
まずは他愛もない会話から

ピアサポートではまず、「認知症の本人同士、話をしましょう」というところから始まります。
私はできるだけ物腰やわらかく、警戒心を抱かれないように、まず「私も認知症なんですよ」と一言添えて、自己紹介からスタートします。

 

でも、それ以上、あえて認知症の話はしません。

デイサービスで私が楽しんでいるソフトボールや農作業、ウォーキングについて話し、「今やりたいことは何ですか?」「好きな食べ物は?」「好きなことは?」と他愛もない会話を続けます。
話が弾むと、自然と「近頃、調子が悪くてね」と相手から相談をしてくれるので、それを待つのです。
特に初対面の場合、第一印象が大事ですね。

 

今まで6年間で約180人の認知症の人とお会いしましたが、一緒に来たご家族がついつい本人より先に話しがちです。

そんなときは「本人の意思を大事にしたいから」とやんわり伝えて、本人から直接、お話を聞くようにしています。


川原さん
「またおしゃべりしたい」と思ってもらえるように

初めて相談に来た人には、今まで自分がピアサポートとしてどのようにかかわってきたかを話すことから始めます。
最初はなかなかオレンジカフェの皆さんの輪に入れなかったことや、オレンジカフェに通うようになってから始めた畑仕事の話、体験したことなどを優しく、やわらかく、相手の気持ちをほぐして温めるようなトーンで話すように心がけています。

 

「あそこに行ったら川原さんとまたおしゃべりができる。話を聞いてもらえる」と思ってもらえればうれしい。
少しずつこの場所(オレンジカフェ)との距離を縮めて、細く長く来てくれるようになればいいな、という思いですね。

 

自分の言いたいことを無理に相手に押し付けるのではなく、丁寧に会話をすること、そして、本人の意思でピアサポートの場に足を踏み入れて、通ってくれるようになることが大切だと思います。


神原さん
いきなり認知症の話はしない

男性の方に多いのが、初対面だと緊張して言葉がなかなか出てこなかったり、「自分は何をされるのか」と警戒心が強く、とても拒否的な表情が見られるケースです。
そんなとき、まずは私自身の仕事や趣味などのお話をしてから、「自分もこういう病気(認知症)になってしまったんです」と経験を伝えます。
そうするとだんだん興味をもってくれて、硬い表情が少しずつ和らいでいきます。

 

認知症の人とのかかわりで、初対面でいきなり認知症の話をしても本音を引き出すことはなかなか難しいので、最初に自分の話をすることで警戒心を解いてもらいます。

 

笑顔が出るようになったら、言葉も増えて会話が進むようになります。
やりがいを感じる瞬間でもありますね。

 

春原さん
ゆっくりと話してくれるのを「待つ」

大事なのは、「もの忘れがあってとても悲しい」とおっしゃる方には、その人が何に困っているか、なぜ困るのかをゆっくり聞き出すこと。
その方が言いたいことを話し始めるまでとにかく「待つ」んです。

 

すると、買い物で困っている、お金の扱い方で困っているなど、生活の中での困りごとをぽつぽつと、少しずつ話してくれます。
買い物に行きたくてもお店に行くまでの移動に困っている、お金を支払うときにも戸惑うし、それを見た店員さんが嫌な顔をするのにも困るなど、具体的に話をしてくれるようになります。

 

認知症になると、心の中で思っていることがすぐに言葉になりません。
だから私は聞き役になって、その「言葉」を待ち続けます。
その方が自信を失わないように焦らず、じっくり耳を傾けることに気をつけています。


続きは本誌でご覧いただけます。

 

取材・執筆

取材協力:戸上守、春原治子、神原繁行、川原邦雄

執筆:迫田三佳(ライター)


以上は、『おはよう21』2025年11月号の特集の内容の一部です。このほかにも本誌では、下記のトピックを取り上げ解説しております。ぜひお手に取ってご覧ください。

 

特集

認知症の本人の声を聴く

1 認知症の本人×介護職 山中しのぶさんが語る
認知症の本人と向き合うときに大切にしてほしいこと
2 本人に聞く 認知症の人とのかかわり方とこれからへの期待
3 「認知症の本人の声を聴く」とはどういうことか?


『おはよう21 2025年11月号』

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