ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス 第17回(最終回) ロゴセラピー
2025/09/18

ロゴセラピーは、1930年代、ウィーンの精神医学者、フランクルによってつくられた心理療法で、生きる意味を問う、実存主義的な思想が貫かれている。この古典的なアプローチが、果たして古いか、それとも今も新しいか、再考する価値がある。
【著者】
川村 隆彦(かわむら たかひこ)
エスティーム教育研究所代表
「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
人生の困難さに対処する方法を
YouTube
や
インスタグラム
で発信中。
*研修や講演依頼については、 こちら までお問い合わせください。
フランクルの人生を知ろう
ロゴセラピーは、フランクルの人生を知ることでより理解が深まる。フランクルはナチスの強制収容所に送られ、人間としての尊厳を奪われる悲惨な体験を強いられた。妻も家族も殺され、自身も運命がどうなるかわからない日々を送った。
収容所では、盗み、暴力など、利己的な行為が日常化していた。看守たちは、拷問、殺戮、恐怖を与えることで、フランクルを打ちのめし、自由を奪った。しかし、フランクルら少数の人々は、周囲の人々に思いやりのある言葉をかけ、パンを分け与えた。この経験から彼は、与えられた環境でどう行動するかという「人間の最後の自由」だけは、誰も奪うことができないこと、さらに、こうした自由を発見できたのは、自分の意思で選択できる内的な力をもっていたからだと気づいた。
フランクルは、体力と運だけでは、生き延びることは難しく、意味ある目標をもっていた人々が生き延びる割合が多かったことを見出した。人が人生において目標や意味を問う存在だと確信したのだった。
フランクルは、収容所での生活から自らの考えが正しいとの確信を深めた。彼は「人は一度だけの人生を生きる、かけがえのない存在」であり、「人生には、実現するべき価値や意味がある」こと、「人は本質的に、意味や価値に方向づけられた存在」であり、「自らに課された人生を生きる必要がある」と考えた。
ロゴセラピーの3つの中心概念
1 意思の自由(Freedom of Will )
どんな状況下でも、人は自分の意思で自由に行動し、未来を決めることができる。あなたは遺伝や生まれ育った環境、運命などに、単に反応するだけの者ではなく、意思をもつ存在として、何事も自分で選び、積極的に人生を築いていける。
2 意味への意思(Will to Meaning)
人は生きる意味を見出そうとする。それは人が本来もっている欲求であり意思である。言い換えると、あなたは、人生において、意味ある何かを実現したいと願っている。その思いが満たされないとき、あなたの人生はバランスを欠き、欲求不満となり、さまざまな神経症的な障がいに見舞われる。
逆に、人生で意味ある目的をもつとき、思いは満たされ心身の健康を保つことができる。
3 人生の意味(Meaning in Life)
生きている以上、さまざまな経験をする。病気や老い、障がいを負うこともある。また、尊厳が脅かされることもある。時には理不尽に思える経験もある。しかし、どんなに過酷な経験に満ちた人生であっても生きる意味がある。
生きる意味を見出す、3つの価値領域
1 創造価値
あなたには、何かを創造し、他者や社会に与える機会がある。それを通して、どんな生きる意味を見出せるだろう?
人は何かをつくり出し、世の中に与えることができる。そして、そこから価値と意味を見出すことができる。これは活動し創造することによって実現される価値であり、職業は問わない。自分に与えられた仕事に、どれだけ最善を尽くしているかが大切になる。
2 体験価値
あなたには、これまで人を愛し、愛される体験、奉仕やボランティアなどの体験、自然から何かを受け取る体験があったのではないかと思う。また、人とつながり、人を必要としながら、人から必要とされる体験もしたことだろう。
人生においては「まさにこの瞬間のために生きてきた」という体験に出会うこがある。こうした体験によって実現できる価値がある。
3 態度価値
加齢や病気、障がいを負うと、何かを創造し、体験することが難しくなる。これは創造価値、体験価値、ともに奪われた状態である。
しかし、変えられないことに対して、どのような態度をとるのか。これによって実現できる態度価値がある。
例えばフランクルは、過酷な環境でさえ相手を思いやる態度を貫くことができた。こうした態度価値は最高の価値であり、決して奪われることはないとフランクルは考えた。
介護をしていた頃、夜勤でオムツ交換をした。高齢者たちは、少しでも私が楽になるようにと、動かないお尻を、懸命に上げようとしてくれた。そして終わった後、いつも「ありがとう」と言ってくれた。こうした彼らの優しい姿こそ、態度価値ではないかと感じた。
私たちは人生から問いかけられている
「生きていてもしょうがない」というニヒリズムに陥ると、人々は人生に対して意味を問いかける。
しかし、フランクルは言う。「あなたが意味を問う必要はない。人生そのものが、あなたの存在の意味を問いかけている。だからあなたは、それに責任をもって応えなくてはならない」
責任をもって応えるとは、自分の生きる意味を探し、それを達成していくことである。
言い換えると、この人生で、「私は何のために生きるのか?」「誰のために生きるのか?」「私は何をすればよいのか?」こうした問いかけをしながら生きること。そして、その意味に気づくならば、心の虚しさを乗り越えることができる。
生きる意味を喪失する人々へ
フランクルは、生きる意味を喪失する人々が問題を抱えると捉えた。そしてロゴセラピーを通して、人々が人生を吟味し、生きる意味を再び見出し、実現するよう促した。
著名な俳優らが自殺したときショックを覚えた。「すばらしい才能、仕事に恵まれているのになぜ?」そう感じた。
彼らは、生きる意味や希望を見出せなくなったからなのか? もしそうならば、幸せは、恵まれた境遇や能力、持ち物に拠らないのだろうか。
フランクルは「人生において、何が、私たちを待ち受けているかは、誰にもわからない」と語った。この人生はあなたのもので、あなたしか応えることができない。そして生きる以上、悩みはある。しかし、あなたの悩みこそが、あなたの人生を意味あるものにするのだ。
これまで連載を読んでくださった方々に感謝いたします。皆さんの人生課題が少しでも解決されることを心から願っています。