誌上ケース検討会 第83回 緩和ケア病棟で亡くなったターミナル事例への支援を振り返る (2007年4月号掲載)
2025/07/22

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。
スーパーバイザー
高橋 学
(プロフィールは下記)
事例提出者
Nさん(総合病院・MSW)
提出理由
クライアントAさんとは、生き続けること、死を迎えることの両方を一緒に取り組んできました。特に死を迎える準備の場面で、私自身ゆらぎ、後悔の想いが残っています。Aさんは、先日、命の終わりを迎えました。担当しはじめて約1年2カ月。この間、2度自宅退院を目指し、Aさんと一緒にがんの根治を確認し、生き続けることを考え、生活の再構築を行ってきました。そして今回、再発。Aさんは死を覚悟し、MSWは死を迎える準備のため、再介入しました。財産の整理、看取りの方法、他界後の葬儀一切、納骨、お墓の管理、自宅・財産の処分に至るまで、手順をAさんが決め、実行するお手伝いをし、手続きは終了しました。今まで生き続けるためにAさんとかかわってきたMSWにとって複雑な想いでした。
課題を乗り越えた1週間後、「殺してくれ。死にたいんだ。もう栄養は入れないでくれ!」と、ふだん周囲には穏やかであったAさんが豹変したように、当たり散らす毎日となりました。努力家で他人に弱みを見せないAさんのSOSのようにとらえたMSWは、無我夢中で面接を行いました。何もできない自分とぶつかり、どの立ち位置で、何ができるのか、曖昧ななかでのかかわりだったと振り返ります。「Aさんの痛々しい心をサポートしたい」との想い先行型の援助でした。結果、「Aさんの気持ちをわかっていない実践だった」との想いが残っています。
「クライアントのニーズは何か」「専門的にはこの状況をどうとらえ、どのような目標を立て、援助ができたのか」、もう一度振り返り、次の援助につなげたいと考え、本事例を提出致します。
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プロフィール
高橋 学(たかはし まなぶ)
1959年生まれ。早稲田大学大学院博士後期課程満期退学。東邦大学医学部付属大森病院、北星学園大学を経て昭和女子大学大学院福祉社会研究専攻教授。専門は、医療福祉研究、精神保健福祉学、スーパービジョン研究、臨床倫理など。