Q&Aでわかる!介護施設の看護実務 【Q15】
2025/08/15

「看護師」の職場といえば、真っ先に病院が思い浮かぶと思います。しかし、実際の職場は多機にわたり、介護施設もその一つです。本連載では、介護施設に勤務する看護師の業務内容や考え方、介護職などの他職種との連携について、特に重要な項目をピックアップしてQ&Aの形で紹介していきます。
【著 者】
前川 静恵(まえかわ・しずえ)
社団法人是真会病院病棟師長、慈恵病院看護部長、長崎市医師会保健福祉センター、老人保健施設ハーモニーガーデン副施設長、有限会社Gracias かいごの花みずき施設長、株式会社パールの風代表取締役、社会福祉法人鳳彰會副理事長などを経て、現在社会福祉法人鳳彰會理事、特別養護老人ホームひこばえ施設長、ケアハウスひこばえの苑施設長。看護師、介護支援専門員。
主な著書に、『訪問介護事業所サービス提供責任者仕事ハンドブック』中央法規出版、2006、改訂版2009、三訂版2013、『デイサービス業務実践ハンドブック』中央法規出版、2014、改訂版2015、など。
Q15 ノロウイルスへの予防と発生時の対応は?
[Answer]
施設は高齢者が集団で生活している場所です。抵抗力が弱い人たちが多く、感染しやすい状況と言えます。
そのため、感染源、感染経路を知っておくことで、感染源を遮断することができます。例えば、感染源には嘔吐物、尿、便、分泌物等が考えられ、手洗い、うがい、室内など環境の掃除、室温、湿度の調整、そして手袋の着用、マスク、エプロン等の着用での対応で、感染防止につなげることができます。
ノロウイルスに感染すると嘔吐、吐き気、下痢、腹痛等の症状がありますが、特に噴射するような激しい嘔吐、水様便が特徴です。感染力が強く、嘔吐物、糞便の処理には十分な注意が必要です。利用者が罹患した場合は、個室で対応するなど、状態を観察し、他の利用者、職員等に感染しないような対応が必要です。
[解 説]
集団感染を防ぐため、施設のマニュアルに基づき対応することが重要です。罹患者が発生した場合、原則として個室に隔離し、個室が不足している場合は同症状者を集めて対応します。突然の嘔吐があった場合、周囲にいた人や触れた可能性のある人は48時間の潜伏期間を観察します。食事は嘔吐等の状態を見て判断し、下痢や嘔吐が続く場合は少量ずつ水分補給を行います。経口摂取が困難な場合は、主治医に報告し指示を得て、協力病院への受診を検討します。嘔吐物による窒息の危険性があるため、気道確保に注意し、吸引できる体制を整えておきます。これらの対応により、感染拡大の防止と入所者の安全確保を図ります。
嘔吐物、排泄物の処理では、マスク、使い捨て手袋、エプロンを着用し、嘔吐物はペーパータオル等で拭き取り、ビニール袋に入れ、次亜塩素酸ナトリウム液(0.1%)で消毒します。排泄物もビニール袋に入れ、トイレは十分に消毒・換気します。処理後は手袋等を適切に処理し、石鹸と流水で十分に手洗い、うがいをします。ノロウイルスは、症状消失後も長い場合は1か月も便からの排出が続くと言われています。職員が一丸となって対応をしっかりと行い、集団感染とならないように注意が必要です。平常時から、床、手すり、ドアノブ、テーブル、椅子等を消毒し、換気を行うなど感染防止を意識することが大切です。「一介助一手洗い」を心がけ、携帯用消毒液を常に持ち歩きましょう。
利用者については、毎日のバイタルチェックとともに、嘔吐、下痢、腹痛の有無を観察し、異常の早期発見に努めます。
※本連載は、前川静恵先生の著書『Q&Aでわかる!介護施設の看護実務―特養の実地指導・連携・ケア』(中央法規出版、2022年10月発行)をもとに作成しています。施設看護師の業務をさらに深く知りたい方は、本書をぜひご覧ください。