対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第6回 会議場面でのコーチング ~要望・フィードバック~

2025/06/12

 ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。

 

この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。

 

「要望」で割当を確実にする

 前回(第5回「会議場面で役立つコーチングの手法~傾聴~」)は、「傾聴」のコーチングスキルを使って「コンセンサス(合意形成)」を図る方法を紹介しました。今回は、「要望」「フィードバック」のコーチングスキルを活用して、会議を円滑に進めるためのポイントを紹介します。
 理想的な会議にするためには、「アサインメント」つまり、割当(役割の割り振りをすること)を徹底する必要があります。具体的には、各自が決まったことをすぐ行動に移せる状態で会議を終了することです。せっかくコンセンサス(合意形成)がとれた会議であっても、「誰が」「いつ」「どこで」「何を」「どのように」取り組むのか、実際の担当者を割り当てなければ、状況は変わらず、問題や課題は解決しません。
 ここに「要望」のコーチングスキルを活かすことができます。要望とは、自ら与えられた行動計画を必ず実行に移し、結果を出すというコミットメント(固い決意)を引き出すコーチングスキルです。


「要望」で割り当てた責任を確実なものにする

 まずは、割当をする前段階で、会議で決定した内容が将来にどうつながっていくか、そのビジョンを共有し、役割を与えられた担当者の責任の重要性を全体で共有します。そのうえで担当者を募るのです。「やらされている」といった他責の姿勢で責任を受けるのではなく、「自ら選んで役割を担って責任を果たす」という自責の立場で引き受けるようにはたらきかけます。
 全員に役割が与えられる場合でも、誰かが代表して役割を担うにしても、役割が与えられた者に直接「役割を進んで受けてくれてありがとう。この役割に対してどんな思いで臨みますか?」とどの程度のコミットメントがあるかを尋ねます。相手から「早速取り組んで結果を出します」などの決意が述べられた際に、自信やチャレンジ精神が十分伝わってくればそれで構いません。しかし、その言葉の中にごくわずかでも迷いや不安を感じたら、間髪を入れずに「あなたには是が非でも速やかに行動してほしい。そして大きな成果を手にしてほしい」と、相手の目を真っすぐに見つめながら、気持ちを込めて伝えます。
 この瞬間にお互いの心が震えるような体験があれば、要望のコーチングスキルは正しく活用できたことになります。会議で決まった内容が確実に実行されることでしょう。


「フィードバック」でお互いを育てる会議

 理想的な会議にするためには、「フィードバック」により軌道修正を行うことも大切です。
 会議には必ず目的があります。しかし、話し合いのなかで目的がすり替わったり、話題が脱線したりすることがあります。終了時には目的に応じた結果を出す必要があるので、「今のこの話し合いは目的に到達する道から外れていますね」と客観的な視点で参加者に
フィードバックをすることで本来の軌道に戻すことができます。「フィードバック」スキルの活用はダラダラした会議を引き締め、生産性を高めてくれます。
 また、会議を始める前に少なくとも「司会者」「書記」「参加者」の役割分担を決めておきましょう。定期的に開催される会議の場合、年間単位で事前に割当しておくことをお勧めします。
 それぞれの役割には、期待される責任やスキルがあります。多くの会議シーンで一般的に期待されるコミュニケーションスキルをまとめてみました(図)。

 

▼図 フィードバックのポイント

 

 会議の参加者全員がそれぞれの役割や責任を認識できていると、会議の最中や終了後に各役割に「フィードバック」をすることが可能になります。目指す方向が明確で全体に共有されているからです。


コーチングスキルを活用した会議の例

Aさん:今から苦情解決会議を開きます。司会は私A、書記はCさんにお願いします。時間は現在16時ですので16時20分までとします。Cさん、終了3分前になったら経過時間をフィードバックしてくれますか(要望)

Cさんわかりました(傾聴)

Aさん:さて、会議の目的は、新任のBさんがモニタリング訪問の約束時間を忘れてしまった事故に対して、その原因を探り、事業所としてどのような防止策があるかを検討することです。会議終了時には有効な手立てを1つ以上は決めて、すぐに取り組めるようにしましょう(要望)

Bさん:すみません。ご迷惑をおかけします。二度と繰り返さないように努力したいのでよろしくお願いします。

Aさん:個人の努力だけでは、失敗を完全には防げません。ですから、事業所内でこのリスクを軽減する最大の方策を皆さんで一緒に考えましょう。

管理者:まず、このような事故がなぜ起こったのか考えられる原因を自由に発言してもらいたいです(要望)

Aさんわかりました。それはよいアイデアですね(傾聴)Bさんはどう考えますか?

Bさん:予定表やメモを再確認していませんでした。自分の記憶力だけに頼るとミスは起こってしまいますね。

Aさん本当ですね(傾聴)ほかには?

Cさん:訪問の予定を立てる際に、ゆとりのないスケジューリングをし、焦ってしまったかもしれません。

Bさんその日はまさにそうでした(傾聴)

Dさん:私の場合は、以前遅刻癖がありました。多少遅れても一生懸命しているから大丈夫、相手もきっと理解して許してくれるはずと甘い考えをもっていました。

Aさん時間を守らない人の考え方なのですね(傾聴)どのように克服されたのか後で伺いたいと思います(要望)
(中略・各自が方策を提案し……)

Cさんあと3分で終了時間となりますフィードバック

Aさんわかりましたここまでの話し合いをまとめると、第1に、朝礼で各自の1日の予定を述べ、予定通りに行動しているかお互いにチェックし合うこと。第2に、訪問15分前に携帯のアラームが鳴るように設定することでした(傾聴)これらの内容を全員一致で採択したいと思います(要望)よろしいでしょうか?

全員(頷く)(傾聴)

Aさん各自早速今からできることを着実に始めてもらいたいです(要望)会議の目的が達成されたのも皆さんの活発な意見のおかげです。ありがとうございました。

管理者Aさん、時間内にちゃんと終わりましたね(フィードバック)

 

 上に挙げた会議の例では、「傾聴」「要望」「フィードバック」という3つのコーチングスキルが効果的に活用されているため、会議が円滑に進んでいることがわかります。それだけではなく、会議のなかで目的を達成するための道筋が示されたため、今後の業務の質も向上することが期待されます。
 これらのスキルを身に付け、会議を円滑に進めるとともに、意義のある会議の開催を目指しましょう。