住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何? 第3回 住み続けることを支えるしくみ

2025/06/10

著者

岡部 真智子(おかべ・まちこ)
名古屋市立大学 大学院人間文化研究科・人文社会学部現代社会学科に所属。社会福祉士。

地域で安定的な居住継続を支える研究を続けている一方で、社会福祉専門職養成に関する研究にも力を入れている。

 

連載にあたって

 人が生活を営む場となる住まいは、安全・快適で安心できる環境であることが求められます。

 住まいは、食べる、寝る、くつろぐ、身をまもるための拠点となることはもちろん、住所があることは、福祉サービスや行政サービスを利用する際の絶対条件となります。
 住まいの支援(居住支援)について、身近なところから、一緒に考えていきましょう。


 自分が望む限り「住み続ける」ことは可能でしょうか。今回は、住み続けるということについて、取り上げます。

 

住み替えを希望しない高齢者は7割

 高齢になれば、医療や介護が必要な状況になる可能性が高まり、何かあった時のためにと考えて高齢者向けの住宅に住み替えることを希望する方が25%ほどいます。
 しかし、70%近い方は「住み替えの意向がない」ことが、内閣府の調査から明らかになっています(「高齢社会に関する意識調査」(令和5年度))。

 

出典: 内閣府「高齢社会に関する意識調査」(令和5年度)


住み続けられなくなる理由

 住み替えの意向がない、つまり住み続けることを希望している高齢者が7割いるといえますが、では、どのような理由があると住み続けられないのでしょうか。
 いくつかに整理してみます。

 

介護が必要

 介護が必要になった場合、また自宅に住み続けたいと希望しても生活継続に必要な介護を受けられない場合、介護が提供される高齢者施設に入所することがあります。
 「特別養護老人ホーム」は原則要介護度3以上の方が、「認知症対応型グループホーム」は認知症のある方が、それぞれ入所の対象となります。

 

住まいに問題がある

 老朽化が進んで家が傾いている場合、雨漏りがあっても修繕できない場合など、住まい自体に問題がある場合もあります。こうした住まいは、危険で住む人を不健康にさせるため、修繕せずに住み続けることは望ましくありません。
 また、住まい自体には問題がなくても、家の中にゴミが多量に溜まると不衛生になり、住み続けることが困難になります。

 

経済的な理由がある

 老朽化した住まいを修繕できない理由の一つには、修繕のための支払いができないなどの経済的な理由が考えられます。
 賃貸住宅に住む場合には、家賃等の滞納がある場合、それが続く場合に、大家や不動産会社から退去が求められます。

 

 

 これら3つは、皆さんも予想しやすかったかもしれません。


 次のように、人間関係が住み続けることを難しくする場合もあります。

 

人との関係

 同居する家族から虐待を受けている、家族との関係が悪くなり家にいられないといったことも、家を離れる理由になります。
 また、友人や知人宅に身を寄せていた場合には、関係が悪くなったことで家を出なければならなくなる、家の持ち主である友人・知人が転居することを理由に住み続けることが難しくなるといったこともあります。
 さらに、近隣住民とのトラブルから住み続けることが難しくなる場合もあります。

 

 最初の理由を除けば、高齢者に限らず、若年者を含むどの世代の人にも起こりうる問題です。

 ほかにも、稼働年齢だからこそ当てはまる、次のような理由もあります。

 

住まい付きの仕事を辞めた

 寮付や社宅がある職場で働いていた人が、何らかの理由で仕事を辞めなければならなくなった場合、途端に住まいを失うことがあります。
 短期間で次の住まいを探さざるを得ないときに、次の住まいが見つかるまでの間、一時的にインターネットカフェや簡易宿泊施設を利用することもあります。


住み続けるために

 では、住まいを失わないために、できることはあるでしょうか。

 いくつかのケースについて考えてみましょう。

 

介護が必要な場合

 介護保険サービスを利用するとともに、それだけでは不足する場合、介護保険以外のサービスが利用できないか検討することも大切です。
 介護保険サービスは、所得にもよりますが、1~3割の自己負担で利用することができます(利用できるサービスの上限を越える場合には、10割を自己負担すれば利用することも可能です)。
 また、地域によっては、介護保険外のサービスを提供する事業者やボランティア団体などもあります。
 自宅で住み続けることを望む場合に、複数のサービスを組み合わせることで対応できないか、ケアマネジャー等に相談することで道が開けるかもしれません。

 

 

見守りが必要な場合

 独居で暮らしている場合、本人や家族の安心につながるのが、見守りサービスです。例えば、民生委員や福祉サービス事業者が行う「人による見守り」もあれば、冷蔵庫の扉やトイレのドアにつけて動きが無い時だけ知らせる「センサーによる見守り」もあります。
 ほかにも、新聞配達や水道検針員などの自宅を訪問した人が「異変に気付いたときに通報するネットワーク」を築いている自治体もあります。

 

経済的な理由による場合

 経済的な理由で住み続けることが難しい場合、生活困窮者自立支援制度の利用を検討するのも一つの方法です。
 この制度には「住居確保給付金の支給」があり、一定期間家賃相当額を支給してもらうことができます。支給対象は、離職などにより住居を失った方、または失うおそれの高い方になります。さらに、家計の立て直しを助言してくれる「家計改善支援事業」もあります。家賃の支払いに困る場合、家計全体を見直して課題の解決を目指します。


 また、高齢で持ち家や土地がある場合には、社会福祉協議会が行う貸付(生活福祉資金)の「不動産担保型生活資金」を利用できるかもしれません。これは、高齢者の居住用不動産を担保に月額で貸付を行い、高齢者の死亡時または契約終了時にその不動産を処分し返済に充当するというものです。
 食費を減らし住居費に充てている場合には、フードバンクを利用して食糧の一部を調達するのも一つの方法です。

 

人との関係による場合

 虐待などがある場合には、身の安全のために物理的に距離をとる必要がありますが、そこまでには至らない場合、福祉の相談窓口に相談することで、方法を一緒に考えてもらうことができます。
 近年は、福祉の総合相談窓口を設けている自治体もあります。どの窓口に相談に行けばよいかわからない、また問題が複数ある場合には、総合相談窓口を利用するのも一つの方法です。

 


おわりに

 本人の希望に沿って可能な限り自宅で住み続けられるようにするサービスや工夫は徐々に整ってきています。
 住み続けることが難しくなった場合、何が解決したら住み続けることができるのか、地域にはどのようなサービスがあるのか、ぜひ、今から調べ、自分の住む地域の情報を入手していただければと思います。