住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何? 第2回 適切な住まいとは
2025/06/03

著者岡部 真智子(おかべ・まちこ) 地域で安定的な居住継続を支える研究を続けている一方で、社会福祉専門職養成に関する研究にも力を入れている。 連載にあたって人が生活を営む場となる住まいは、安全・快適で安心できる環境であることが求められます。 住まいは、食べる、寝る、くつろぐ、身をまもるための拠点となることはもちろん、住所があることは、福祉サービスや行政サービスを利用する際の絶対条件となります。 |
今回は、「よい住まい」がどういうものか、住まいの良し悪しについて考えてみます。
住まいの機能
住まいは生活の拠点であり、体を休める場であるだけでなく、家族との団らんの場であり、趣味を行う場所としても機能しています。
コロナ禍では、新たに仕事・学びの場という機能も持つようになりました。
住まいを確保する際に重視する点
みなさんは、住まいを確保するときにどのような点を重視するでしょうか。
持ち家か賃貸住宅かで重視する点は異なるかもしれませんが、新しさ、広さ、設備の充実度、支払い可能な家賃か、などがポイントになるかもしれませんね。他にも、通勤・通学の距離、医療機関や生活利便施設(例えば、スーパー、コンビニ、銀行、郵便局、病院、学校、公園など)へのアクセスのしやすさが重視される場合もあるでしょう。
また、なじみの場所であるかどうか、自然環境の豊かさや周りの景色、雰囲気に重きを置く人もいるでしょう。
うるさくない、治安がよい、十分な日照・通風が得られることに重きを置く人もいるかもしれません。
生活に深く結びつくため、住まいに対する考えや優先事項は、一人ひとりに違いがあります。
住まいを確保する際に避けたい点―質の低い住まい
一方で「選びたくない住まい」もあります。
例えば、湿気が多くジメジメしている、台所やトイレが(共用も含め)家の中にない、生活に支障が出るほど狭い、壁が薄く音が聞こえる、家賃(費用負担)が高い、こういった質の低い住まいは選びたくありません。
また、病院や学校、職場から距離が離れ、公共交通機関を使っても不便なところにある住まいは、車を持たない人にとって敬遠しがちな住まいといえそうです。
住まいがもたらす問題
低質な、また住む人の生活と合っていない住まいでは、さまざまな問題が生じます。2つの例を通して、住まいがもたらす問題を見てみましょう。
生まれたばかりの子がいるCさん
Cさんは、夫と生まれたばかりの子と3人で1LDKのアパートに暮らしています。
家の壁は薄く、子どもが夜泣きをすると近所に声が響いてしまうため、迷惑をかけているのではないかと気になっています。また、子どもの物が増えてきたため、部屋が狭く感じています。
Cさんは、慣れない子育てに加え、落ち着ける環境がないことによって、イライラすることが増えてきました。
先祖代々の土地に住むDさん
Dさんは、先祖代々の土地に家を建てて住んでいました。しかし、自宅の老朽化が進み、生活に支障をきたす状態になってきています。
以前は、建て替えて住もうと考えていましたが、市から災害危険区域と指定され、建て替えて今の土地に住み続けるか、災害の不安がない別の場所に住み替えるか、悩んでいます。
適切な住まい~居住の権利という考え方~
どこにどのような住まいを得るかは、住む人が選ぶことですが、できる限り安心できる快適な住まいで暮らしたいという願いは多くの人に共通します。
では、どのような条件が整えば「よい住まい」といえるのでしょうか。
日本では広く知られていませんが、国際的には「適切な住居への権利」(the right to adequate housing=居住の権利)という考えがあり、1991年に国連の社会権規約委員会が発表した「一般的意見4号」では、「適切な住居」を次の7つの要素で定めています。
①居住権の法的安全
強制立退きや嫌がらせ等から法的に保護されていること。
②サービス、物資、設備、インフラが利用できること
健康、安全、快適な暮らしを営むための適切な設備があり、電気・ガス・水道、ごみ処理などのインフラが利用できること。
③アフォーダビリティ
経済的に適切な負担で居住できること。
④居住可能性
広さ、温度、湿度などが適切で、健康に対する脅威がなく、安全で健康に暮らせる居住環境であること。
⑤アクセシビリティ
障害者、高齢者、疾患をかかえる人など不利な状況にある人に利用可能であること。
⑥ロケーション
雇用が選択でき、医療、教育、保育などの社会サービスにアクセスできる場所にあること。
⑦文化的に適切であること
住居の文化的側面が犠牲にされないこと、また必要に応じて、近代的な技術が確保されていること。
この7つの要素をみると、「適切な住居」とは、経済的に適切な負担で住める、広さや温度等が健康に害を与えない、不利な状況にある人にとって利用可能であるなど、健康に安心して生活を送るための環境が整う住居であると言えます。
もちろん、立退きを求められないという、他者から排除されないことも大切な点です。
おわりに
「適切な住居」にあたる7つの要素を紹介しましたが、みなさんの住まいは7つの要素を満たしているでしょうか。
日本では、この7つの要素を満たしていない住まいも少なくありません。
また、どこでどのような住まいに暮らすのかは、自己選択・自己責任と考えられていますが、経済的な事情から「適切な住居」と言えない住まいを選ぶことはしかたがないことなのか、7つの要素を満たさない住まいが提供される以上住む人が出てくることはやむを得ないことなのか、適切な住まいに暮らすことは自己選択・自己責任なのか、など考えてみたいものです。