住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何? 第1回 住まいの支援~事例を通して

2025/05/27

著者

岡部 真智子(おかべ・まちこ)
名古屋市立大学 大学院人間文化研究科・人文社会学部現代社会学科に所属。社会福祉士。

地域で安定的な居住継続を支える研究を続けている一方で、社会福祉専門職養成に関する研究にも力を入れている。

 

連載にあたって

 人が生活を営む場となる住まいは、安全・快適で安心できる環境であることが求められます。

 住まいは、食べる、寝る、くつろぐ、身をまもるための拠点となることはもちろん、住所があることは、福祉サービスや行政サービスを利用する際の絶対条件となります。
 住まいの支援(居住支援)について、身近なところから、一緒に考えていきましょう。


地域で空き家は増加しているが、住むところがない

 近年、空き家の増加が地域で問題になっています。実際に、空き家はどのくらいあるのでしょうか。
 2023(令和5)年時点で、賃貸・売却用及び二次的住宅を除く空き家は、385万戸を超えており、その数は年々増加しています。
 また、空き家率は13.8%と過去最高に達しました。これは、7軒に1軒が空き家であることを意味しています。

 

図 空き家数及び空き家率の推移(1978年~2023年)

出典: 総務省「令和5年住宅・土地統計調査」

 

 空き家の中には老朽化して活用できないものもあるため、すべてが住むことが可能な住宅とはいえませんが、空き家がこれだけある一方で、現在住まいを確保できない人、確保するのに困難な状況にある人がいます。


なぜ住まいの確保が難しいのか

 なぜ住まいの確保が難しい人がいるのでしょうか。

 それは、本人が希望をしても入居可能な住宅がないからです。

 

公営住宅の場合

 低所得者向けの住宅として、公営住宅法に基づく公営住宅がありますが、入居することはそう簡単なこととはいえません。
 その理由の一つに、保証人の問題があります。
 国土交通省は、2018(平成30)年に、公営住宅の入居に際し保証人を求めない方針を打ち出しましたが、現在でも、保証人を求める自治体、さらには保証人を同じ市町村内に住む人に限るとする自治体もあります。

 

民間賃貸住宅の場合

 民間賃貸住宅では、大家や不動産事業者が入居制限を設けているために、住まいを確保できない問題が生じています。
2019(令和元)年に行われた全国の不動産関係団体等会員事業者を対象としたアンケート調査により、不動産事業者が入居を制限している現状が明らかになっています。

 

表 全国の不動産関係団体等会員事業者へアンケート調査(令和元年度実施、回答数1,998件)

世帯属性 入居制限の状況 入居制限の理由(複数回答)
制限している 条件付きで 制限している 第1位(%) 第2位(%)
高齢単身世帯 5% 39% 孤独死などの不安(82%) 保証人がいない、保証会社の審査に通らない(43%)
高齢者のみの世帯 3% 35% 孤独死などの不安(60%) 保証人がいない(46%)
障がい者がいる世帯 4% 35% 近隣住民との協調性に不安(52%) 衛生面や火災等の不安(28%)
低額所得世帯 7% 42% 家賃の支払いに不安(69%) 保証会社の審査に通らない(54%)
ひとり親世帯 1% 14% 家賃の支払いに不安(50%) 保証会社の審査に通らない(42%)
子育て世帯 1% 9% 近隣住民との協調性に不安(40%) 家賃の支払いに不安(34%)
外国人世帯 10% 48% 異なる習慣や言語への不安(68%) 近隣住民との協調性に不安(59%)

出典: 居住支援協議会 調査ワーキング「居住支援協議会 設立・運営の手引き」(令和3年4月)

 

 入居制限の第一の理由として、高齢単身世帯や高齢者のみの世帯については「孤独死などの不安」が、低額所得世帯やひとり親世帯については「家賃の支払いに不安」が、障がい者がいる世帯や子育て世帯については「近隣住民との協調性に不安」が挙げられました。


住まいを確保できたケース

 住まいを確保するのに困難な人がいることがおわかりいただけたことでしょう。

 ではどうしたら彼らは住まいを確保できるでしょうか。

 

高齢者の場合

 高齢者が住まいを確保できたケースをご紹介しましょう。
 70代後半のAさんは、70代前半の妻と二人でアパートに住んでいましたが、より家賃の安いところに引っ越したいと希望し、自ら公営住宅やアパートを探しました。

 しかし、どこも保証人がいないという理由で断られてしまいました。
 そのことを市役所に相談し、紹介された居住支援法人を頼ったところ、保証人不要の物件を多く知っている不動産会社を紹介してもらうことができ、今よりも家賃の安いアパートを見つけることができました。
 Aさん夫婦は、今は二人暮らしですが、今後どちらかが亡くなると単身生活になります。ライトの点灯で異変を察知できる見守りセンサーを付ける契約することで、大家にも安心してアパートを貸してもらうことできました。

 

複数の問題を抱えた場合

 複数の課題を抱えた男性が住まいを確保できたケースを紹介します。

 40代のCさんは、精神的な疾患を抱え、会社を退職して以来、貯金を取り崩して一人で生活してきました。
 しかし、貯金が底をつき、借金を繰り返しながら生活することとなり、医療機関も受診しなくなっていきました。
 家賃の滞納が続いたことで、住んでいたアパートからも退去を求められ、路上で生活するようになりました。
 路上生活をしていた時に、夜回りをしていた支援者に声を掛けられ、シェルターに一時身を寄せました。
 その後、支援者のサポートで生活保護を受給できるようになり、医療機関の受診を再開することができました。
 支援者とともに行った不動産会社では、住宅扶助(生活保護)の基準額と同額の家賃のアパートを紹介してもらいました。
 保証人となってくれる人はいませんでしたが、支援者が緊急連絡先になってくれたことでアパートを借りることができました。


おわりに~今後の連載に向けて~

 いかがだったでしょう。

 一人では住まいを確保することが難しくても、支援者からサポートを受けたり、大家や不動産会社が安心できる環境を整えたりする(見守りセンサーの設置、緊急連絡先がいる等)ことで、住まいの確保につながることがおわかりいただけたでしょうか。
 現在、こうした住まい確保の支援が地域単位で進むように、国の施策が進められています。
 これから、12回にわたって「住まいの支援‐考え方と取組み 居住支援って何?」と題して連載をお届けします。
 福祉専門職の方や行政の方、不動産関係者の方、また住まいを探しているご本人にとってわかりやすい内容を心がけていきますので、どうぞお付き合いいただければと思います。