ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス 第11回

2025/06/02

解決志向アプローチ

 前回、「問題解決」「課題中心」というソーシャルワークのデフォルト的アプローチを学んだ。この二つと親和性が高いものに「解決志向アプローチ」がある。それぞれのアプローチの生まれた時代や成り立ちこそ違うが、共通点があり、組み合わせて使うことが可能だ。


【著者】

川村 隆彦(かわむら たかひこ)

エスティーム教育研究所代表

「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
人生の困難さに対処する方法を YouTube インスタグラム で発信中。

 

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原因と問題解決は別

 問題を抱えたとき「どうしてなのか?」と原因を探ったことはないだろうか? その結果、自分を責め、周囲に怒りを向け、選択できるさまざまな解決の機会を拒否したことはないだろうか? 
 結局「原因探し」は、蟻地獄のようなもので、一度、踏み入れると抜け出すことができなくなる。実際、原因は一つに特定できないことも多く、探そうとすれば、いくらでも見つかるものだ。また仮に特定できても、解決は別のところにあることも多い
 解決志向アプローチ(以下、解決志向)は、「原因と問題解決は別」と捉え、問題の原因ではなく、「どうなれたらいいのか?」「何をすれば、今日もっとよい1日を送れるのか?」等の質問をしながら、「問題が解決した未来像」に近づこうとする

 

小さな変化から大きな変化が起こる

 大がかりな仕掛けのドミノ倒しを見たことがある。最初のドミノ牌(はい)が倒れると、その変化は次の牌に伝わり、次第に変化が大きくなり、部屋中のドミノが倒れていく。私たちの変化もこれに似ている。スタートは小さな変化だが、それが次の変化へとつながっていき、やがては未来像に向かって変化は起こり続ける。この過程で問題は少しずつ解決へと向かう。大切なことは、小さな変化を起こすために、何に焦点をあて、どう行動するかである。

 

うまくいっている状態に目を向ける―Do more vs Do something different

 問題を抱えると、せっかくうまくいっていることをやめてしまったり、逆に、うまくいっていないのに、止められず、悪循環を引き起こすことが多い。
 解決志向では、「現在、問題を抱えつつ、比較的、うまくいっていることはありますか?」と質問し、その答えによって、図のような方向で助言する。
 「比較的うまくいっている」ことに目を向け、続けていくことで、悪循環を断ち切り、よい循環を生み出そうとするのだ。

 

 

例外は解決の一部

 比較的うまくいっている状況に焦点を向け、それを広げていく手法は「例外探し」とも呼ばれる。例外を「すでに解決が起こりはじめている、解決の一部」と考えているからだ。そのために次のような質問を行う。

 

〇「問題が起きていない(うまくいっている)のは、どのようなときか?
〇「どうして、それはうまくいったのか?」「これまでと何が違っているのか?」

 

 こうした質問は、「問題だらけのなかでも、なぜよいことは起こっているのか?」
 その責任を追及することで、理解を促すユニークな方法だ。「そんなに問題の原因を追究したいなら、よいことが起こっていることの原因も追究しなさい」ということなのだろう。よいことが起こった原因を突き詰めるなら、確かにそこには理由があり、解決のヒントが隠されているものだ。

 

変化を妨げる考え方に対して、コンプリメントを行う

 問題を抱え、失望すると「何をしても変わらない」と考えがちだ。こうした考え方は、一種の否定的暗示であり、変化を妨げる。解決志向では、これに対して「あなたはもっとよくなれる」という肯定的な励ましや賞賛のメッセージを伝えることで、よい変化を起こそうとする。これはコンプリメントと呼ばれ、肯定的暗示、解決のための重要なリソースである。
 ところで、暗示(英語ではsuggestion)は、「魔法」や「まやかし」のようなイメージがあるが、ミルトン・エリクソンの催眠療法からの興味深い概念である。実際、医師や教師をはじめ、専門職者は、何らかの暗示をかける立場にある。私は小学校から大学まで、教師たちから数々の否定的暗示をかけられ、だいぶ可能性を狭められた。もっとコンプリメント(良い暗示)を受けることができていたら人生も変わっていただろう。

 

ミラクル・クエスチョン

 解決志向には、「ミラクル・クエスチョン」というユニークな質問法もある。

 

「今晩、寝ている間に奇跡が起こり、朝、問題がすっかり解決しているとします。それはどんなことから気づきはじめますか?」

 

 こうした質問は、脳に、問題が解決された「未来像」「将来の目的地」を与えることができるため、あなたは、自然とそこに向かって歩きはじめる。この手法もまたミルトン・エリクソンの催眠療法がヒントになっている。彼は患者をトランス状態(無意識と意識の中間)に引き込み、「あなたの未来はどのように見えますか?」と質問したのだが、解決志向では、同じ効果を、トランス状態ではなく、質問から導こうとした。
 この手法はとてもユニークだが、実際に活用してみると効果を実感できる。確かに、質問されることによって、私たちの脳は未来を見ることができるからだ。

 

 

スケーリング・クエスチョン

 現在地から未来像に近づくために、「スケーリング・クエスチョン」を活用できる。
 気持ちがふさぎ、朝、起きることができない女性に対して、解決志向を活用したことがある。

 

「0~10のスケール(10は問題が解決した状態)だとすると、今のあなたの状態は、どの数字ですか?」
―「4くらいです」

 

 

「何が起こっていることで、4という数字になりましたか?」(実際、比較的うまくいっている理由は存在する)
―「朝は起きられないけど、起きた後、散歩ができています」
「どのくらいの数字になれたらいいですか?」
―「とりあえず5にはなりたいな」
「何ができていたら5ですか?」
―「散歩しながら、何か楽しめたらいいかな」
「4から5に近づくため、絶対にできそうな、一つのことを決めましょう」
―「そうですね。散歩をしながら、私にとっての奇跡を一つ見つけたいです!」

 

「奇跡」を探すという、メルヘンチックな提案に心配をしながらも、翌日、尋ねると次のように話してくれた。
「奇跡をみつけましたか?」
―「見つけました。一つではなくて、たくさん見つけました!」

 

 このようなやりとりを続けた結果、女性は、次第に朝、起きられるようになり、問題が解決した将来像へと歩いていった。

 

人は問題を解決するためのリソースをもっている

 解決志向では、あらゆるものを「リソース」として解決のためにもち込む。たとえ問題や困難でさえも活用する。ないものに目を向けず、あなた自身に「あるもの」を探し、それを解決に活用することで、最終的に問題が解決した未来像を手にするのだ

 

 次回は、解決志向と同じポストモダンの代表でもある、「ナラティブ・アプローチ」について解説したい。