ソーシャルワーカーに知ってほしい 理論とアプローチのエッセンス 第10回

2025/05/21

問題解決と課題中心

 経験、コトバ、自己イメージの関係を探ったとき、脳につくられる「フレームワーク」、つまり「認知」について知った。この「認知」の力を活用することで、何を変えることができるのかを探ってみよう。


【著者】

川村 隆彦(かわむら たかひこ)

エスティーム教育研究所代表

「エンパワメント」や「ナラティブ」等、対人支援に関わる専門職を強めるテーマで、約30年、全国で講演、研修を行ってきた。
人生の困難さに対処する方法を YouTube インスタグラム で発信中。

 

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問題解決アプローチ

 人生は、問題を抱え、解決することの連続だ。あなたは、これまでどのような問題を抱え、向き合い、解決してきただろう? そこで得られた知恵を役立てているだろうか? 問題解決において、あなたは初心者ではなく、経験者である。そのことを、このアプローチを理解する出発点としよう。
 このアプローチは、以下の図のようなステージを通る。まず傷ついた自我を強め、大きな問題の塊を小さく切り分け、MCOモデルを繰り返すことで問題解決に至る。

 

 

自我を強める

 自我は精神分析学の概念である。私たちの内面に存在しており、内的、外的環境によって生じる葛藤に対処し、衝動を安定させ、適応状態を保つ。人は、問題に直面したとき、意識的に、あるいは無意識に、精神的安定を得ようと機能するものだ。
 自我は、第1回目で説明した「心のコップと命の水」に近い概念でもある。誰もが、問題を抱えると傷つき、弱くなる(つまり、水が不足する)。それを強めるということは、すなわち「水を足す」ことであり、ロジャーズの言う「温かな人間関係」を提供することと同義である。ほんの小さな励ましの言葉でも、自我の力は取り戻せるものだ。

 

問題を小さく切り分ける

 やるべきことが多すぎて、問題の大きな塊に圧倒されてしまったことはないだろうか? 私自身、留学中、難解な英語と嵐のような課題に押しつぶされた経験がある。ちょうど二人目の子どもが生まれ、日々格闘だった。「このままでは無理だ!」と考え、問題を小さく切り分けることにした。
 そして日々、一つずつに集中することで、なんとか対処可能になり、最後には、全部をやり切ることができた。問題の塊を小さく切り分け、少しずつ取り組むことは、賢い方法であり、着実な効果をもたらすものだ。

 


MCOモデルを繰り返す

 問題解決へのモチベーションが不足すると、そもそも取り組みはじめることさえできない。また、もっている能力を向上させないと、たとえ取り組んでも達成できない。さらに能力をもっていたとしても、それを実際に使う機会がないと、能力は高まらない。
 モチベーション(Motivation)、能力向上(Capacity)、機会提供(Opportunity)は、問題解決アプローチにおけるMCOモデルと呼ばれ、ワーカービリティ(解決への意欲)を高める3要素である。
 病気のため何度も解雇され、自信を失ったクライエントがいた。彼は「もう働きたくない」と嘆いた。治療が終わる頃、「一番興味のある仕事は何か?」と尋ねると、「木工作業が好き」と答えた。そこで彼を木の車いすを制作する会社に連れて行った。彼のモチベーションは高まった。
 院内作業療法に木工を取り入れてもらい、自分でも何かをつくるよう励ました。次第に彼の能力は向上した。そこで木工製作所でのボランティアを提案した。ここでの経験を経て、彼は正式に採用されることとなった。

 

課題中心アプローチ

 課題中心アプローチは、問題解決アプローチを下敷きにしてつくられているため共通点が多くある。特徴としては、目に見える小さな課題に焦点をあてて、時間制限のなかで目標を達成していく手法だ。

 

時間制限を意識する

 人には課題が与えられると、達成しようとする主体的な力がある。これは「いつまでに?」という時間制限によって成り立つ。誰もが締め切りのあることから優先して手をつけるからだ。優先順位や締め切りを意識することで、たとえすべてではなくても、大切な問題が解決に向かう。このときMCOモデルと組み合わせることで、さらに効果が促進される。

 


フォローアップを繰り返す

 課題を設定した後、繰り返しフォローアップするなら、さらに効果は倍加する。ある友人は、最愛の伴侶をデートに誘った日々を懐かしそうに話す。彼はデートが終わると、すぐに次のデートに向けて、フォローアップすることを怠らなかった。そして、そのことが結婚できた最大の理由だと語った。恋人を射止めるくらい熱心にフォローアップするなら、問題解決は楽しいものになるだろう。

 

問題解決と課題中心の組み合わせ

 離婚の調停を控え、やるべきことに圧倒されてしまった女性を思い出す。彼女の心のコップの水は枯れていて、温かな励ましを何よりも必要としていた。それらを十分に得たことで彼女の自我は強められた。
 離婚の調停に関して、準備しておく書類、子どもたちへの説明など、やるべきことが山のようにあるため、彼女はそれらを小さく切り分け、対処可能なものにした。締め切りが決まっていたため、一つひとつの問題に時間制限を加え、優先順位を決めた。離婚経験のある友人がサポートしてくれたことで、MCOが回りはじめた。

 

 小さな目標を一つずつクリアしたことで、最終的にはすべてを終えることができた。後に彼女は次のように言った。「今いるところからはじめるしかないことに気づいた。そして小さなことに集中すること、そして一つずつ終えていくこと、そのためには、何より励ましが必要だった」

 

 今回、問題解決と課題中心について学んできた。一見、当たり前に見えるアプローチだが、非常に着実なモデルである。これまで学んだアプローチと組み合わせることで、より多くの問題に対処できることだろう。

 

 次回は、「解決志向アプローチ」について解説したい。