誌上ケース検討会 第79回 認知症の妻と介護者の夫の「自己決定」をどうとらえ、支えればよいのか (2006年12月号掲載)

2025/05/27

このコーナーは、月刊誌「ケアマネジャー」(中央法規出版)の創刊号(1999年7月発刊)から第132号(2011年3月号)まで連載された「誌上ケース検討会」の記事を再録するものです。
同記事は、3人のスーパーバイザー(奥川幸子氏、野中猛氏、高橋学氏)が全国各地で行った公開事例検討会の内容を掲載したもので、対人援助職としてのさまざまな学びを得られる連載として好評を博しました。
記事の掲載から年月は経っていますが、今日の視点で読んでも現場実践者の参考になるところは多いと考え、公開することと致しました。


スーパーバイザー

奥川 幸子
(プロフィールは下記)

 

事例提出者

Tさん(居宅介護支援事業所)

 

クライアント

Mさん・女・61歳

 

事例の概要

 9歳年上の夫とふたり暮らし。子どもはおらず、休日にはドライブに出かけたり、夫婦で過ごす時間も多く、定年後は気ままに旅行へ出かけてのんびり過ごそうと楽しみにしていた。
 夫が定年して半年(平成14年)、Mさんの物忘れが目立つようになった。数字が数えられなくなったのでスーパーの仕事を辞めた。夫とともに病院を受診したところ、若年性のアルツハイマーであることがわかり、投薬を開始する。徐々に進行していきながらも、夫の介護のもと、介護保険によるサービスを使いながら在宅生活を続けていた。
 平成18年1月頃より精神的に不穏な状態と夜間の不眠が続き、介護に疲れた夫の体調も不安定となる。3月、「もう限界です……」という夫の電話から施設へ生活の場を移すことになる。

 

既往歴

 特に大きな既往症はなく、時々風邪をひく程度で健康であった。

 

現在の状態

 IADL:夫が全般的に行っている。
 ADL:尿・便意はあるが言葉では表現できない。そわそわした様子を見て声かけし、介助にて排泄している。入浴、食事、着替えは全介助。
身体・精神の状況
 ほぼ寝たきりの生活であり、車いすやトイレへの移乗も全介助となっている。自発的な発語はほとんどないが、こちらからの声かけには反応する。
 精神障害者手帳1級、要介護5
家族の状況
 夫は平成15年に胃がんの手術をしており、1年間抗がん剤治療を行っていた。不整脈があり、心房細動の発作を年に数回起こしている。

 

ここから先は、誌面の PDFファイル にてご覧ください。

 
プロフィール

奥川 幸子(おくがわ さちこ)

対人援助職トレーナー。1972年東京学芸大学聾教育科卒業。東京都養育院附属病院(現・東京都健康長寿医療センター)で24年間、医療ソーシャルワーカーとして勤務。また、金沢大学医療技術短期大学部、立教大学、日本社会事業大学専門職大学院などで教鞭もとる。1997年より、さまざまな対人援助職に対するスーパーヴィジョン(個人とグループ対象)と研修会の講師(講義と演習)を中心に活動した。主な著書(および共編著)に『未知との遭遇~癒しとしての面接』(三輪書店)、『ビデオ・面接への招待』『スーパービジョンへの招待』『身体知と言語』(以上、中央法規出版)などがある。 2018年9月逝去。