対人支援に役立つ 会話例で納得!コーチングのススメ 第3回 コーチングの4大鉄則

2025/05/01

 ケアマネジャーには、さまざまな場面で円滑なコミュニケーションをとることが求められます。一方、実際の場面では「困難さ」を抱えるケアマネジャーも少なくありません。本連載では、人間関係構築や多職種連携に役立つコーチングの手法を紹介します。

 

この記事の監修者

眞辺一範(株式会社ふくなかまジャパン代表取締役社長)
1998年、日本初のプロコーチを養成する「コーチ・トレーニング・プログラム」を履修し、認定コーチを取得。現在は国際コーチング連盟プロフェッショナル認定コーチ、(一財)生涯学習開発財団認定マスターコーチ、コーチ・エィ アカデミアクラスコーチ、日本コーチ協会京都チャプター事務局長としてコーチングの活動や実践に取り組んでいる。

 

コーチングを行う前に意識してほしいこと

 コーチングを行うにあたり、役に立つスキルが「傾聴」「質問」「承認」「要望」です(これらのスキルについては、次回以降紹介します)。そのほかにも、「フィードバック」や「ペーシング」などのスキルもあり、これらすべてのスキルを身につけるうえで意識してほしいことが以下に挙げる4つのポイントです。これらは、コーチングの4大鉄則になり得ます。この4大鉄則は、コーチングのスキル獲得・向上において欠かせないものです。

 


1.双方向のコミュニケーションであること(インタラクティブ)

 一方向のコミュニケーションは一方的に指示をするだけのティーチングになりがちです。「コーチング」として機能するには、相手の意見を引き出すインタラクティブなアプローチ が必要です。

 

 

2.継続的にコミュニケーションを交わすこと(オンゴーイング)

 コーチングは一度だけの実施では、すぐに成果が出るものではありません。相手が行動を起こすまでフォローし続ける姿勢が求められます。そうすることによって、少しずつであれ着実に変化していくのです。

 

 

3.相手に合ったコミュニケーションスタイルをとること(テーラーメイド)

 人はそれぞれ考え方や言葉の受け取り方が異なります。基本的に1対1スタイルで行うコーチングでは、自分にとって心地よい方法やペースを優先したくなりますが、相手のコミュニケーションスタイルに合わせたテーラーメイドな対応を心がけるとよいでしょう。

 

 

4.完了感のあるコミュニケーションにすること(パスコンプリート)

 コミュニケーションはキャッチボールです。「ボールを投げてもいいですか?」と相手に声をかけ、相手が受け取りやすいボールを投げます。そして、相手から返ってくるボールをしっかりと受け止めます。気が付かないうちに、ボールを受け取ってもらえないことや、ボールを投げつけてしまう、未完了なコミュニケーションとなってしまうこともあるため注意が必要です。

 

 

 ここで、未完了な対話(NG例)と完了感のある対話(OK例)を以下に示します。

 

<CM…ケアマネジャー CT…利用者(クライエント)>

【未完了な対話】NG例 【完了感のある対話】OK例
CM:カラオケ教室の生徒さんたちから本当に愛されているのですね。
CT:ありがたいけど、こんな半身麻痺の身体になって複雑な気持ちだよ。
CM:そんな弱気なことじゃダメですよ!
CT:俺はこんな身体になって、生徒の前に出ることは二度とできない。教室はもうやめようと思っているんだ。
CM:半身麻痺になってもちゃんと社会復帰している人はたくさんいますよ。
CT:他人は他人。俺は俺。もう放っておいてくれ。
CM:ところで、これまでカラオケ教室を運営してきた理由は何ですか?
CT:あらためて理由を問われても、もうやめるんだから関係ないよ。
CM:投げやりになっても何も変わりませんよ。頑張りましょうよ。
CT:頑張れって言われてもね。ただ生徒には大変申し訳ないし、さみしくなるな。
CM:生徒さんたちはがっかりするんじゃないですか?
CT:生徒のなかには俺の歌が好きで、聴いていると幸せな気持ちになると言ってくれた生徒もいたんだ。
CM:本当は生徒さんを裏切りたくはないんですね?
CT:裏切るなんて、そんな。
CM:身体と違って先生の美声は幸いに残っているんだから、これからも聴かせてあげたらどうですか?
CT:えーっ、わかってないな。そんな簡単にいくなら苦労しないよ。もういいよ。
CM:カラオケ教室の生徒さんたちから本当に愛されているのですね。
CT:ありがたいけど、こんな半身麻痺の身体になって複雑な気持ちだよ。
CM:複雑ってどういうことですか?
CT:俺はこんな身体になって、生徒の前に出ることは二度とできない。教室はもうやめようと思っているんだ。
CM:生徒さんたちはきっとがっかりするでしょうね。
CT:だから複雑なんだよ。俺もがっかりだよ。
CM:ところで、これまでカラオケ教室を運営してきた理由は何ですか?
CT:あらためて理由を問われても、答えにくいなぁ。
CM:今、頭に浮かんでいるものでいいですよ。
CT:歌っているときは、楽しいんだよ。一番自分らしく思える。これは確か。
CM:ご自身が楽しいんですね。では、なぜ生徒さんたちは教室に集まってこられたんでしょう?
CT:自分がうまくなりたいからじゃないの?
CM:ほかに考えられる理由は?
CT:そういえば、俺の歌が好きで、聴いていると幸せな気持ちになると言ってくれた生徒がいたな。
CM:先生の歌声は、聴いている人を幸せにするんですね。
CT:本当だね、幸せにするんだね。
(眞辺一範『コミュニケーション技術 聴く力と伝える力を磨くコツ』 中央法規出版, 2018年, p.84-85を 一部改変)

 NG例に挙げた【未完了な対話】のなかでは、ケアマネジャーは利用者の投げたボールをきちんと受け取り、返すことをしていません。たとえば、「複雑な気持ちだよ」という利用者のボールに対し、ケアマネジャーは「弱気なことじゃダメ」という違う色のボールを投げ返しています。これだと未完了なまま会話が続いてしまうので、利用者はケアマネジャーとのかかわりの希望が失せてしまいます。
 一方、OK例の【完了感のある対話】では、利用者の「複雑な気持ちだよ」というボールに対し、ケアマネジャーは「複雑ってどういうことですか?」と、投げられたボールをしっかり受け取り、そのボールを利用者に投げ返しています。その後の対話でも、利用者の発言をしっかりと受け止め、利用者の答えを引き出す問いを投げかけています。こうした、完了感のある対話であれば、利用者はケアマネジャーとともに達成感や共有観を感じることができるでしょう。
 コーチングのスキルを身に付けるための前提となる4大鉄則は、対人支援における基本でもあり、支援成功の鍵にもなり得ます。この4大鉄則を意識して、コーチングの基礎を身につけましょう。