安全な老後の住まいを考える(3)~~安全な老後の住まいのために
■中山間地域の福祉施設はどこも同じ危険性が
ところで、前回紹介したグループホームの周辺の地図を改めて見ると、ホームのすぐそばは、山間に流れる氾濫した住用川でした。そればかりか、その反対側には特別養護老人ホームもあります。
そこで、思うのは、被災時の職員の数や避難の誘導、また、日ごろの防災訓練の有無や防災マップの作成、およびその周知の必要性はいうまでもありませんが、より根本的には、そもそも、このような危険な場所に、なぜ、ホームの建築確認が下りて建築し、運営されていたのか、ということではないでしょうか。
その点については、行政の情報やメディアの報道でもまったく触れられておらず、不思議でならないと思うのは、筆者だけではないでしょう。なぜなら、前述したように、現地は山間に川が流れ、その川沿いに集落が形成されているため、わが国でも有数の豪雨地帯で、日ごろから水害の危険性があるといわれていたからです。
しかし、このような危険な個所に福祉施設などが建てられているのは何もここだけではありません。財政再建中の北海道夕張市や日本一高齢化の自治体で、“限界集落”が大半の群馬県南牧村など、中山間地域の福祉施設のなかにもこのような危険な場所に各種の建物が建設されています。
■防災対策に抜かりの日本
そこで、筆者が考えるのは、このような建物の建設をする場合、都道府県、または市町村に建築確認を申請し、建築基準法上、問題がなければその認可が下りて着工となるわけですが、建設用地が地形的に安全か、また、消防法上、問題がないかも併せてチェックされるべきです。が、現実はさまざまな力関係や思惑がからみ、危険性には目をつむって認可が下りていたのではないでしょうか。
また、本来、このような福祉施設の利用者は寝たきりや認知症の高齢者が多いことを考えれば、他の公共施設などに比べ、より安全で、かつ交通の便な所に建設されるべきですが、わが国の場合、このような福祉施設は郊外に追いやられ、まちの中心地は官公庁や民間企業の建物で占められているのが実態です。
要するに、「弱者にやさしいまちづくり」というビジョンがなく、たまたまそこに土地があったから、あるいは学校などが統廃合され、空き地になったから福祉施設が建設されたのにすぎないのではないでしょうか。言い換えれば、わが国のまちづくりは中長期的なスパンで都市計画によって進められているのではなく、“行き当たりばったり”の対処療法で右往左往しているのではないか、と思わざるを得ないのです。
そこへいくと、スウェーデンなどの北欧はもとより、ヨーロッパは違います。以前にもお話ししましたが、まちの中心部は車を排除した市民の広場として設計されており、郊外に延びる公共交通機関の駅、あるいはその周辺に福祉事務所や福祉施設が整備されています。
そんなわが国でも、少子高齢化が進んでいるせいか、近年、ノーマライゼーションの理念やソーシャルインクルージョン(社会的包摂)の実践が叫ばれ、まちなかに福祉施設ができたり、低床バスの運行などがみられるようになりましたが、官民一体となった福祉のまちづくりには至っていません。それも、福祉施設の整備や人材の確保、サービスの質の向上に精一杯で、相変わらず「車優先のまちづくり」、というのが実態です。
今回の惨事は奄美市だから起きたのではなく、国土の7割が山というわが国の中山間地域に設けられた福祉施設なら、どこででも起きるおそれがあることを警鐘しているように思われてなりません。
山崩れのおそれがある中山間地域(北海道夕張市にて)
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