道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 最終回(第30回) 福祉にコンサルは必要なのか
2026/06/10
この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)
一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。
2025年2月末からはじまった本連載も、はやいもので30回。今回が最終回となります。最終回では、そもそも論、「福祉にコンサルは必要なのか」。過去の内容をなぞりつつ、核心ともいえるこのテーマで連載を締めたいと思います。
支援コンサルタントというオルタナティブ
この連載ではここまで、「支援」だけではなく、「構造」や「マネジメント」という視点から、障害福祉の現場について整理してきました。
なぜ現場を変えるのが難しいのか。
なぜ良い支援に限って定着するのが難しいのか。
そして、なぜ「支援」と「マネジメント」を併せて語るべきなのか。
そうしたことを振り返りながら、最後にあらためて考えてみたいテーマがあります。
それは、「福祉にコンサルテーションは必要なのか」。私自身の存在を否定しかねないテーマです。
なぜ福祉は「外部」が入りにくいのか?
福祉の現場では、外部の人間が入ることに対して、ある種の抵抗感が存在しているように感じます。
「現場のことは現場にしかわからない」
「支援はそんなに単純ではない」
「理想論を言われても困る」
もちろん、そのとおりだと私も思います。
実際に障害者福祉の支援はとても複雑です。
利用者の背景も、地域性も、加えて法人文化も違います。
だからこそ、「これが正解です」などと簡単に言えるものではありません。
一方で、その複雑さゆえに、現場の中だけでは課題の所在が見えにくくなってしまうこともあるのではないかと感じています。
例えば、昔から続いてきた慣習や役割分担が、いつの間にか“当たり前”になっている。
特定の支援者の経験や感覚に依存したまま、支援が属人化している。
あるいは、会議や意思決定のあり方に違和感があっても、「そういうもの」として受け止められてしまう。
こうした違和感は、内部にいるほど見えにくくなっていくのだと思います。
だからこそ、外部からの視点には意味があるのではないでしょうか。
コンサルは「答えを教える人」ではない
ただ、ここで誤解してほしくないことがあります。
この連載でも何度も触れてきましたが、コンサルタントとは「正解を教える人」ではないととらえています。むしろ重要なのは、「現場が、自分たちで動ける状態をどう作るか」なのです。
現場には、すでに多くの知識や経験が蓄積されています。きっと支援者は、それぞれ悩みながら利用者と向き合っているはずなのです。
問題は、それらが整理されず、共有されず、構造化されないまま埋もれてしまうことだと思っています。
だからこそ必要なのは、
・現場の違和感を言語化する
・課題を整理する
・構造を見える化する
・支援とマネジメントをつなぐ
ことなのです。
つまり、コンサルテーションとは、「外から答えを持ち込むこと」ではなく、「現場の中に蓄積した力を動かせる(発揮できる)状態にすること」だと思っています。
知識や技術という「ソフト」を活かすには、それを支える「ハード」が必要です。ファミコンでは、プレステ5のゲームソフトが動かないのと同じです。
本当に必要なのは「翻訳家」なのかもしれない
私は時々、支援コンサルタントという仕事は、「翻訳家」に近いのではないかと感じることがあります。
・現場の違和感を、チームの言葉に翻訳する
・現場の課題を、組織の課題として翻訳する
・日々の実践を、事業計画に翻訳する
・支援員の不満を翻訳して上層部に伝える
・逆に上層部の不満をハラスメントにならないように翻訳して支援員に伝達する
きっと現場では、多くの職員が「何かおかしい…」と感じています。しかし、それをうまく言語化できない。どこに問題があるのかわからない。どう整理すればいいのかわからない。
すると、課題は個人の感覚として処理されていってしまうものです。
「自分の支援が悪いのではないか」
「自分がもっと頑張らなければいけないのではないか」
そうやって、現場は少しずつ疲弊していきます。だからこそ、構造を整理し、課題を翻訳し直す存在が必要になるのだと私は自分の存在意義を定義しています。
支援コンサルタントというオルタナティブ
この連載では、何度も「オルタナティブ」という言葉を使ってきました。「別の見方」や「もう一つの選択肢」という意味を示しています。
問題は、支援者個人の努力や技術だけで説明できるものなのでしょうか。もちろん、そうした要素もあるかもしれません。
しかし、多くの福祉現場では、それだけでは説明できないのが現実なのではないでしょうか。
だからこそ私は、「構造」という視点を提示してきました。そして、その構造を整理し、実装し、現場が動ける状態を作っていく。それが、「支援コンサルタント」という役割なのだと思っています。
多様性のあり方
今、私はサンフランシスコに来ています。そして、ここでこの原稿を書いています。
海外の研究や実践に触れるたびに感じるのは、「専門性を深く掘り続ける人たち」の存在です。一つのテーマや技術を、愚直なほど深掘りし続ける。そうした姿を見ていると、専門性とは、「何でもできること」ではなく、「何かを深く掘り続けること」なのだと確認できます。
そして私は、福祉業界にも、そうした専門性のあり方がもっとあっていいのではないかと思うのです。
アセスメントを専門にする人がいてもいい。
組織文化に合わせたマネジメントに特化する人がいてもいい。
現場の見える化を得意とする人がいてもいい。
もちろん、現場支援を徹底的に極め続ける人がいてもいい。
私は、そういう人たちが登場した業界のほうが、面白いと思うのです。
現場では、「統一した支援」の重要性がよく言われます。もちろん、それは非常に大切なことです。誰がかかわっても大きなズレが起きないこと、チームとして共通理解を持ちながら支援を行うこと、それらは、現場の安定にとって欠かせない土台です。
そして実際、ABA(応用行動分析学)や目で見てわかる支援といった実践も、そうした統一した支援を土台にしながら進めていくことが前提なのは言うまでもありません。
その上で大切なのは、「みんな同じ」になることではなく、それぞれの組織の歴史や文化、強みを活かしながら、自分たちなりの支援を作っていくことなのではないでしょうか。
ABAでも、目で見てわかる支援でも、ICTでもいい。
大切なのは、「何を使うか」ではなく、自分たちの現場に必要なものを選び、実装していくことなのだと思います。
私は、その「使い方」の中にこそ、多様性があるのではないかと思っています。
最後に
私は、この業界の今後について、少し危機感ももっています。
例えば、福祉の仕事のキャリアのゴールが、「施設長」や「管理職」だけになってしまうとしたら、少し窮屈ではないでしょうか。
現場を極めた人がコンサルになる。
アセスメントに特化した専門家になる。
組織運営を学びマネジメントを担う。
あるいは、現場支援を徹底的に追求し続ける。
それに向けて、さまざまなキャリアパスが存在する。
私は、そういう世界線のほうが、福祉の仕事はもっと豊かで、面白くなるのではないかと思っています。
さらに言えば、そもそも福祉職としてのキャリアは、一つの法人だけで完結する必要もありません。さまざまな法人や現場を経験しながら、専門性を高めていく。そうした働き方があってもいいでしょう。
退職代行を使って疲弊しながら辞めていくのではなく、「次のステージに行きます!」と前向きに現場を移っていく。そんな福祉業界のほうが、私は健全だと思います。
もちろん、一般職として現場だけを極め続けたい人がいてもいい。それも本当にすばらしいことです。
しかし一方で、「それだけでは満足できない」という人がいるのも自然なことです。優秀な人たちが、さまざまな専門性を目指して現場を経験し、学び、挑戦していく。その過程で様々な専門家たちが現場を通過していけばいいと私はとらえています。
もし、そのような流れが本当に生まれていくのであれば、私は、この業界の質が今より下がっていくとは、とても思えないのです。
この連載では、「支援」というテーマを通して、現場・構造・組織・マネジメントについて整理してきました。
もしかすると、問題や課題は、これまで私たちが見てきた場所とは、少し違うところに存在しているのかもしれません。そして、その“オルタナティブな視点”をもつこと自体が、現場を変えていくための一つのオルタナティブなのだと思います。
最後まで本連載をお読みいただき、本当にありがとうございました!
またどこかでお目にかかれればうれしいです。

