道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第29回 「わかる」と「現場が変わる」は違う

2026/05/20

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。

 

一般社団法人あんぷ

 


 1年にわたり続いた本連載も、次回を残すばかりとなりました。前回は、「支援」と「マネジメント」を分けて考えないという視点について整理しました。個々の支援だけではなく、その支援がどのように共有され、継続され、チームとして機能していくのか、そこまで含めて考える必要がある、という話をしました。
 今回は、わかったつもりになったとしても、現場はなかなか変わらない、というちょっと耳の痛い話をしたいと思います。


「よい支援を知っている」ということは

 これまでの連載のなかでも繰り返しお伝えしてきましたが、よい支援を知っていることと、現場が実際に変わることは、必ずしもイコールではありません。

 

 研修を受けて、「なるほど」と思う。
 事例検討をして、「確かにそうかもしれない」と気づく。
 支援方法を学び、「こうかかわればいいのか」と理解する。

 

 もちろん、これらは非常に重要です。
 しかし現実には、「わかったはずなのに現場では続かない」ということが、少なくありません。ここで考えなければならないのは、「知っていること」と「現場で使えること」は、必ずしも同じではないということです。

 

 経営学者のピーター F.ドラッカーは、「情報」と「知識」は異なるものであると述べています。
 単に知っているだけのものは「情報」に過ぎません。それが現場の中で活用され、行動や成果につながってはじめて、「知識」として意味をもつのです。

 

 強度行動障害支援の現場でも同じことがいえるのだと思います。

 

 例えば、大学を卒業したばかりの医師が、医学的な知識を学び、どんなに優秀な人であっても、いきなり一人で手術を行うことはさすがに難しいはずです。そこには、実践や経験、チームでの学び、振り返りの積み重ねが必要になるからにほかなりません。

 

 きっと支援も同じです。
 研修で学んだ内容が、会議で共有される。
 記録に反映される。
 日々の支援の中で再現される。
 チームとして継続される。

 

 そこまでいってはじめて、学んだ内容は「現場の知識」になっていくのではないでしょうか。
 しかし現実には、そこが非常に難しい。

 

 実際、現在の強度行動障害支援者養成研修においても、学んだ内容が現場で継続的に実装されている割合は、極めて低いといわれています。数値としては、実装度は2%程度ではないか、という話もあるほどです。もちろん、この数字そのものにはさまざまな見方があると思います。

 

 しかし少なくとも、「研修を受けたのに現場が変わらない」という現実が、多くの場所で起きていることは確かです。そして、これはさすがに「現場の努力不足」や「支援者個人の力不足」だけでは説明がつきません。だからこそ、私は「構造」の問題として考える必要があると思っているのです。


実装=「支援を残すこと」

 私は、現場を変えていくうえで重要なのは、「正しい支援」を広げることだけではないと思います。重要なのは、「正しい支援が、現場で継続して実行される状態をどうつくるのか」という視点です。

 

 例えば、ある職員のかかわりによって利用者の状態が安定したとします。しかし、その支援が他に共有されなければ、支援はその職員の中だけに留まってしまいます。その職員がいないときに安定しているのかは、別の問題です。

 

 きっと、記録に残っていなければ、いい支援も引き継がれません。
 会議で共有されなければチームの方針になりません。
 それぞれの役割が曖昧であれば、誰が何をやるのかもわかりません。
 ――つまり、優れた支援であっても「実装」されなければ、現場には残らないのです。

 

 この連載では、構造化支援や応用行動分析、環境調整など、さまざまな支援技術や手法についてもふれてきました。

 

 しかし実際には、それらの知識や技術を導入するだけで現場が変わるわけではありません。

 

 むしろ現場では、「よい支援」そのものよりも、「よい支援を継続できる状態をどうつくるか」のほうが難しいことも少なくありません。

 

 例えば…
 • 記録が機能しない
 • 報告だけの会議になっている
 • 明確な方針が共有されていない
 • 支援の中心である中堅職員がひどく疲弊している
 • 管理職が現場を把握できていない
 • 意見を言いづらい雰囲気がある  など

 

 こうした状態では、どれだけよい支援を導入しても、その支援は少しずつ形や意味を変えて、やがて形骸化してしまうのだと思います。

 

 つまり、現場を変えるということは、「支援を変えること」であると同時に、「支援が機能する構造を作り変えていくこと」でもあるのです。


現場が変わるときに起きていること

 私は、コンサルテーションの現場に入る際、まず「この事業所は、どこで止まっているのか」を考えるようにしています。

 

 支援の知識や技術の問題なのか。
 支援を共有するチームマネジメントの問題なのか。
 それとも、組織全体の意思決定や組織設計の問題なのか。

 

 コンサルとして、ここを見誤ると、現場はなかなか動きません。

 

 例えば、本当は「情報共有の仕組み」が問題なのに、個人の支援スキルの問題として研修だけを増やそうとしている。あるいは、組織全体の役割分担が曖昧なのに、「現場で頑張りましょう」という曖昧な話で終始している。
 これでは、現場は疲弊するだけです。

 

 だからこそ重要なのは、「何をやるか」だけではなく、「どう定着させるか」という視点なのだと思います。
 私が思うに、現場が変わっていくときには、いくつか共通した変化がある気がします。

 

 例えば、
 会議が単なる報告会ではなく、「課題が整理され、解決を考える場」に変わっていきます。
 「誰が悪かったのか」ではなく、「なぜその状況が起きたのか」を考えるようになります。
 個人の感覚ではなく、記録などの事実が重要視されます。
 また、それぞれの職員が少しずつ役割を持ち始めます。
 現場の課題に管理職の理解が深まります。
 わずかな現場の違和感が、会議のなかで扱われるようになります。

 

 もちろん、こうした変化は一気に起こるわけではありません。
 最初は、「支援の時間を無駄にして、会議ばっかり…」などと言われることもあるでしょう。現場の文化が変わるまでには、どうしたって時間がかかるものなのだと思います。

 

 しかし、それでも少しずつでも「チームで支える現場」へと変わっていくことが大切なのだと思っています。


実装というオルタナティブ

 私は、コンサルテーションという仕事は、「答えを教える仕事」ではないと思っています。もちろん、知識や技術を伝えることはあります。しかし、本当に重要なのは、「現場が自分たちで動ける状態」をどう作るかです。
 支援者が感じている違和感を言語化する。
 曖昧になっている役割を整理する。
 見えなくなっている構造を可視化する。
 そして、「支援」と「マネジメント」をつなぎ直していく。

 

 そうした作業を通して、少しずつ現場が変わり始めるのだと感じています。

 

 この連載を通して、私は何度も何度も「構造」という言葉を使ってきました。しつこいですよね。でも、現場を変えるためには、個人の努力だけではなく、「現場が動ける構造」をつくることが必要で、それは回り道をしているようで、一番の近道だと思っているからです。

 

 そして、その構造の上に少しずつ現場に合った知識や技術を実装していくこと、それが、「現場を変える」ということなのだと思います。

 

 もしかすると、福祉の現場に必要なのは、「もっと頑張ること」だけでなく、「実装できる構造をつくる」という、もう一つの視点なのかもしれません。
 私は、それもまた、この連載でお伝えしてきた一つのオルタナティブなのだと思っています。

 

 では、そもそもなぜ福祉の現場では、こうした外部的な視点やコンサルテーションが必要になるのでしょうか。そして、「支援コンサルタント」という存在には、どのような意味があるのでしょうか。

 

 次回は、この連載の最後として、「福祉にコンサルは必要なのか」というテーマで、あらためて整理していきたいと思います。