道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第25回 コンサル導入事例❷ 現場の状況に合わせたコンサルテーションの大切さ

2026/03/06

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。

 

一般社団法人あんぷ

 


 前回は、第2クローバー学園さん(社会福祉法人クローバー)のコンサル導入事例をご紹介しました。今回は、東京都八王子市にあるとぶき育成園さん(社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会)での実践を取り上げます。


すべてそろっているのに、うまくいかないこともある

 これまでの連載の中で、強度行動障害支援において「標準的な支援」がいかに重要かを述べてきました。属人的な対応から脱却し、再現性のある支援への進化。個人技ではなく、チームで統一された支援へ。そしてそれを支えるマネジメントこそが、よい支援の要件であるとも書いてきました。

 

 かつての現場は、まさに「勇者の時代」でした。経験のある支援者が単独で困難に立ち向かい、うまくいけば称賛され、いかなければ力量不足と言われるガチンコ構造です。その時代は、確かに強い突破力がありました。しかし同時に、慢性的な疲弊と属人化を自ずと生みだしたのだと思います。

 

 そこから学び、私たちは「パーティの時代」へ進もうとしてきました。標準化された支援、共有されたアセスメント、統一された対応。誰が入っても一定の支援が担保される体制づくり。それは強度行動障害支援において、大きな前進でした。

 

 しかし、それでも支援がうまくいかない場面があります。

 

 理論もある。仕組みもある。チームもある――。それでも崩れそうになる瞬間があるのです。
 とくに現場が切迫しているときに起こります。

 

切迫した現場での優先順位を考えることの大切さ

 感染症の対応や職員の急な退職など、現場では起こってほしくないことは予期せずたびたび起こります。

 

 コンサル先であるとぶき育成園さんでも、このようなトラブルがたびたび発生しています。特にとぶき育成園さんのような入所施設の場合、支援を止めることができないので、このようなトラブル時は、対応に困難を極めます。

 

 本来であれば刺激を分散し、活動を個別化し、情緒の安定を優先する構造を組みたい。しかしながら、感染症などの場合は、感染拡大を防ぐために、利用者の動線は制限され、活動は縮小、職員は固定配置。理想とは逆方向の条件が並びます。

 

 「この環境では行動が荒れる可能性が高い」
 「でも、今は動かせない条件もある」
 現場では、焦りと不安が交錯します。

 

 理論はわかっている。
 やるべきことも共有している。
 しかし、“できない”状況が目の前にある。

 

そのようなときに問われたのは、「全部は守れない。では、何を守るのか」ということでした。

 

 ・活動の質を守るのか
 ・個別課題の継続を優先するのか
 ・安全を最優先にするのか
 ・職員の疲弊を広げないことを優先するのか

 

選 択肢はたくさんあります。しかし、何かを優先すれば、何かをあきらめることにもなります。そんな苦渋の決断を迫られる場面も多かったと思います。

 

 コンサルテーションの中で話題にしたのは、以下のようなことです。

 

 ・活動の質は一時的に下げる
 ・個別課題は優先順位の高い人を優先して実施する
 ・トラブルが起きやすい時間帯に経験のある職員を配置する
 ・記録は簡略化し、負担を軽減する。まずは事故を起こさないことに集中する

 

 これらの判断は、理想から見れば後退に見えるかもしれません。しかし、支援を止めないための前進でした。

 

 「標準的な支援」とは、常に同じ形を守ることではありません。本質を守るために優先順位をつけ直すこと。それをチームで共有し、腹を括ること。それもまた専門性なのだと思います。

 

 「パーティ」とは、全員が攻め続ける集団ではなく、状況を見て守りに入り、持ちこたえ、立て直す集団なのだと思います。HP(ヒットポイント:ゲームにおける生命力やスタミナ)が減っているのに全力攻撃を続ければ、全滅します。まずは持ちこたえる。その場を必死にしのぐ。その判断が、次につながるのだと思います。


現場とともに選ぶ、持ちこたえる、凌ぐ……

 この経験を通して、私はコンサルテーションのあり方も自問することになりました。

 

 外部の立場からは、「こうあるべき」を語りやすいものです。環境調整、個別化、統一実践。どれも正しい。しかし、現場が切迫しているときに正しさだけを提示しても、支援は前に進みません。場合によっては疑いようのない正解ですら、受け入れられない状況も存在します。それが“リアル”な現場なのだと思い知らされました。

 

 必要だったのは、正解を示すことではなく、条件を一緒に整理することです。
 「今は感染対応が最優先ですね」
 「この条件の中で守るべきものは何ですか」
 「落ち着いたら再開できるよう、何だけは残しておきますか」

 

 時には、「この期間はこの形で凌ぎましょう」と提案することもありました。それは妥協ではありません。支援を止めないための戦略です。

 

 理論を曲げるのではなく、理論を運用する。
 完璧を目指すのではなく、崩壊させないことを選ぶ。

 

 「支援」とは、決して正しさを証明することではなく、さまざまな条件の中で最善を選び続けることなのだと思います。

 

 そして、止めずに次につなぐこと。
 勇者の時代から、パーティの時代へ。

 

 その本当の意味は、「一緒に戦う」ことだけではなく、実は格好悪くても「一緒に持ちこたえる」ことなのだと思いました。

 

 「私は伴走者として、理想を語る人である前に、現実の中で選び続けられる人でありたい」

 

 とぶき育成園さんとの実践から、学び気づかせてもらったことです。


コンサルを導入してみて

社会福祉法人東京都手をつなぐ育成会 とぶき育成園 金子 誠 さん

 

 私たち「とぶき育成園」では、5年ほど前からコンサルを取り入れています。当園には、生活の中で強いこだわりやパニックが出てしまう強度行動障害の状態にある利用者さんが全体の約4分の1いらっしゃいます。その方たちが安心して過ごせるよう、職員も専門的なスキルを磨く必要があると考えたのが導入のきっかけです。コンサルでは、障害特性の理解や本人の行動をアセスメントしたうえでの支援の方法に加えて、組織のマネジメントについても学ぶ機会をもらっています。
 創設30年という長い歴史がある当園には、経験豊富なベテラン職員がたくさんいます。その反面、以前はつい「個人の経験や勘」に頼ってしまい、利用者さんの権利を守るという視点が少し薄れてしまっていた時期もありました。
 転機となったのは、コロナ禍での経験です。外出もままならない閉鎖的な環境の中で、利用者さんとどう向き合うべきか悩んでいた私たちに、竹矢さんは「一人で抱え込まず、チームで対応すること」や「過ごしやすい環境を整えること」など、たくさんの具体的なアイデアを提案してくれました。そのおかげで、一番大変な時期をみんなで安全に乗り越えることができたと感じています。
 こうした経験を経て、今では多くの職員が「困った行動を抑えること」だけを支援のゴールにするのではなく、「その方のこれからの人生がどうすれば豊かになるか」という、未来を見据えた支援を大切にするようになりました。施設の中だけで通用するルールではなく、一歩外に出た時もその人が安心して自分らしく過ごせるように、権利を尊重した工夫をみんなで考えています。
 まだ、新しい支援のスタート地点に立ったばかりです。利用者さんが選べる選択肢を一つでも増やしていけるよう取り組んでいきたいと思います。