道なき道をゆく! オルタナコンサルがめざす 強度行動障害の標準的支援 第21回 コンサルテーションの必要性について考える

2025/12/10

この記事を監修した人

竹矢 恒(たけや・わたる)

一般社団法人あんぷ 代表 社会福祉法人で長年、障害のある方(主に自閉スペクトラム症)の支援に従事。厚生労働省「強度行動障害支援者養成研修」のプログラム作成にも携わる。2024年3月に一般社団法人あんぷを設立し、支援に困っている事業所へのコンサルテーションや、強度行動障害・虐待防止などの研修を主な活動領域とする。強度行動障害のある人々を取り巻く業界に、新たな価値や仕事を創出するべく、新しい道を切り拓いている。


 前回は、ABA国際学会に参加した際のポルトガル旅行記をまとめました。
 今回は、障害福祉の現状をふまえ、コンサルテーションの必要性について考えてみたいと思います。


人手不足で、現場の空気がガラッと変わってきました

 最近の障害福祉の現場は、「人が足りない」という言葉では追いつかないレベルにまできてしまっている気がします。足りないものは「人」というより、もはや「前提条件」といったほうが近いかもしれません。

 

 経験の浅い新人さん、異業種からやってきた転職組、外国人スタッフ、高齢のベテランさん……、本当にいろんなバックグラウンドの方が現場に集まっています。これは多様性として歓迎すべき面もありますが、「いや、さすがに構造が変わりすぎてない?」と思う瞬間もあります。

 

 昔は「経験10年のベテランが2人いれば、なんとか回る」というような雰囲気がありました。でも今は、その「ベテラン2人」がいない。それどころか、配置基準を満たすために「とにかく人を入れないと……」という切迫感のなかでチームが組まれているケースも珍しくありません。

 

 要するに、現場は「これまでの前提が崩れた新たなステージ」に突入しているのです。ここを理解しないまま支援を語ると、「あれ? 話が噛み合わないぞ?」となってしまうおそれがあります。


優秀な若手常勤に「全部のしわ寄せ」がくるの、やめませんか?

 多様なメンバーが増えると、どうしても「動ける人に仕事が集まる」現象が起こります。現場でいちばん動けるのは、だいたい若手の常勤さんです。

 

・日々の支援
・緊急対応
・新人フォローアップ
・外国人スタッフへの説明
・記録、書類、行政対応
・なぜか会議準備まで任されることも……
・えっ? 会議録まで私が書くの?

 

 「私、いつ寝ればいいんだっけ?」と思ってしまうほど、仕事が雪だるま式に増えていきます。本来であれば、中堅職員への成長期のはずなのに、現実には簡単に“燃え尽き危険ゾーン”に入りやすいのが、今の若手職員ではないでしょうか?

 

 そして、若手が辞めると、また別の若手に負担が乗っかり……という地獄の無限ループが発動します。

 

 特に強度行動障害の支援では、この負荷が倍増しやすく、疲労が早く訪れます。これ、誰が悪いとかではなく、構造がそうなっているんですよね。だからこそ、構造から変えないと話が進まないんですよ。


強行研修14万人受講。でも「標準的支援」が実装されない謎

 強度行動障害支援者養成研修はすばらしい取り組みです。経験0年0か月の人でも理解できるよう設計され、全国で14万人以上が受講している状況。これはもう「社会インフラ」と呼んでもよいレベルではないでしょうか?

 

 しかし、ここで一つ大きな問題があります。

 

 「学ぶ」と「現場で実装する」は、別ゲームかもしれない、ということ。

   

 標準的支援の実装とは、
 ・専門職が手順書を作り
 ・全員が同じやり方で動き
 ・会議や記録でブラッシュアップし続ける
という事業所全体で取り組む「チーム戦」です。

 

 ところが現場では、
 ・手順書が作れない
 ・作っても読まれない
 ・読まれても守られない
 ・守られても管理されない
 ・そもそも管理する人が辞める
という「支援あるあるの五段活用」みたいなことが起こります。

 

 研修受講者は大量に増えているのに、支援の質が安定しない理由はここにあります。「学ぶ人は増えたけど、支援が整う土台がない」というギャップです。


曖昧な文化は、支援者をすり減らす最強の敵です

 日本の福祉現場には、「察して文化」「空気読む文化」「言わなくてもわかるでしょ文化」が、まだしぶとく残っています。というか、いまだに生まれているかもしれません。

 

 その結果、どうなるかというと、
 ・対応が人によって違う
 ・会議は「情報交換で終了」
 ・記録は「自由形式(=自由すぎ)」
 ・基準が見えないから不安
 ・責任が曖昧だから怖い
となり、支援者は常にモヤモヤした気持ちで働くことになります。

 

 強度行動障害の支援はただでさえ心理的負荷が高いのに、そこへ「曖昧さ」を足すと、負荷レベルが一気に跳ね上がります。まるで、“強度な行動”に“強度な曖昧”を足したような、強烈なラスボスみたいな状態になります。

 

 これでは支援者がバーンアウトするのも当然だと思いませんか?
 これは明らかに個人のメンタルの問題ではなく、構造の欠陥なのだと思います。


「今までどおり」の支援モデル、そろそろ卒業しませんか?

 昔は先輩の背中を見て覚え、空気を読み、ノウハウが自然と文化になっていきました。
 いわゆる「昭和から平成前半スタイルの支援継承」です。かくいう私も昭和生まれなので嫌いではないです。「なんか年取ったな」って、たった今、思いましたw。

 

 しかし今、現場の構造はガラッと変わっている気がします。

   

 ・人が定着しにくい
 ・外国人や異業種の人材が増える
 ・支援内容が複雑化する
 ・リスク管理が重くなる
 ・ICTも使いこなさないといけない
 ・コンプライアンス、ガバナンス……

 

 暗黙知の継承がほぼ不可能になっています。つまり、「昔のノリ」では現場が回らない時代に入ったのです。もしかしたら「背中を見て学べ」方式は、もう博物館行きなのかもしれません。

 

 これから必要なのは、

 

 「個人の頑張りではなく、組織の仕組みで支援を支えること

 

 泣いても笑っても、これに尽きるのではないでしょうか?


外の力を借りるのは「負け」じゃなくて、むしろ賢い戦略です

 ここまで見てきたように、今の問題は、
 ・人手不足
 ・属人化
 ・曖昧な文化
 ・標準化できない構造
 ・若手のバーンアウト
など、単体ではなく「お悩みのフルコース状態」になっています。

 

 これは正直、現場の自力だけで攻略するのは難しすぎます。

 

 個人的に、たくさんの現場を見てきて思うのは、外の視点が入ったことで現場が一気に動き出すことが本当に多いということです。

 

 外部の人間が入ると、
 ・「それ、こう整理できますよ」と見えない問題が浮き彫りになり
 ・優先順位がサッと決まり
 ・意思決定がシュッと進み
 ・標準化がガッと動く
「なんでそんなあっさり……?」というほど動くこともよくあります。

 

 だから私はこう思っています。

 

 今の障害者福祉は、とっくにコンサルテーションを活用すべき局面に来ている。

 

 外の力を借りることは、「弱さ」ではありません。
 むしろ、支援者を守り、利用者の生活を守り、組織を前に進めるための“賢い戦略”なのです。

 

 次回は「助っ人(外部コンサル)が入ると現場がどう変わるのか?」というテーマで、もっと楽しく、わかりやすくお話ししていきたいと思います。