精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第36回:ネット番組の特集に出演して考えたこと②
2026/10/15
みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。
「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。
第13回から、CoCoTELIの活動を通して感じている当事者の子ども・若者を取り巻く課題感とそれぞれができることについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いています。
前回は、ABEMA Primeで話したことと、放送後の反応から感じたことを書きました。今回は、では親子の対立構造に乗らずにこの課題をどう見るのか、ということについて、あくまでも現場で活動する一人の実践者としての視点で書いていきたいと思います。
著者

平井登威(ひらい・とおい)
2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。
「親が説明しないことが悪い」ではない
前回書いたように、精神疾患の親をもつ子どもの多くは、親の病気について誰からも説明を受けないまま育ちます。日々精神疾患の親をもつ子ども・若者と関わる中でも感じる課題の1つです。
この話をすると、「なぜ親は説明しないのか」という方向に行きがちです。番組でも、そこは丁寧に話したいと思っていました。
親御さん側からすれば、偏見の多い社会の中で自分の病気について子どもに話すことは、それ自体がとても難しいことだと思います。加えて、子どもに心配をかけたくないという気持ちもあるはずです。
だから、親が説明しないことが悪いというよりも、どうすれば親が説明しやすくなるかというサポートのほうが必要なのではないか、というのが僕の考えです。子どもに情報が届いていないという事実と、親を責めることは、まったく別の話だと思います。
子どもにとっても、対立はしんどい
もうひとつ、番組で話したことがあります。
親のことがしんどいな、ちょっと嫌いだなという気持ちと、好きだなという気持ちは、0か100ではなく、日々いろんなグラデーションの中で動いていくものだと思います。だからこそ、どっちの気持ちになってもいいんだよ、ということを周りの大人が伝えてあげることがすごく大事だと思っています。
その中の1つに「許し」があるかもしれないし、「怒り」があるかもしれない。どちらであっても、100%子ども側に立って言ってくれる大人の存在は、子どもにとってすごく重要なんじゃないかなと思います。そしてそれは同時に、親に対してももちろん必要なことだと思っています。
親子の対立構造をつくると、この「どっちでもいい」が成り立たなくなります。「親が悪い」という前提が社会の側にあると、親を好きだと思う気持ちのほうを、子どもは口に出しづらくなる。逆に「親を大切にすべき」という圧が強ければ、怒りのほうが出せなくなる。
対立構造はわかりやすいので、社会が課題を理解するためには便利かもしれませんが、当事者本人の内側にあるものを狭めてしまいます。グラデーションのまま揺れていられる場所がなくなることは、子どもにとって決して良いことではないと思います。
家族を丸ごと支える、という視点
僕たちの支援は、基本的に子どもから相談が来る支援です。つまり、困ってから来る。でも話を聞いていると、親御さんが発症したタイミングは10年前だったりします。親御さんは治療につながっているけれど、その子はそこで見えないまま、やがて自分自身が不調になる、不登校になる。そういうタイミングでないと支援につながれない。
このタイムラグを考えると、親御さんのメンタルヘルスの支援の段階から、早期に親子、パートナーも含めて家族を丸ごと支えていく視点が非常に重要なんじゃないかなと考えています。いわゆる予防です。
番組では田野中恭子先生が、ドイツの事例を紹介されていました。精神科のドクターが、患者さんに子どもがいるとわかった段階で必要な情報を提供する。患者さん自身も、しんどい中で一生懸命子育てをされているので、その子育てを助けることは患者さん自身の症状が良くなることにもつながる、という考え方です。
そのうえで親御さんの同意を得て子どもとの面談を行い、これまで関わってきた専門職と家族全体が「家族会議」のような場をもつ。
そこで、「僕、実はこんなふうに思ってたんだ」「お母さんは実はこんなふうに思っていて言わなかったのよ」というやりとりが初めて生まれる。その場だけでなく、今後も続く家族生活の中でコミュニケーションを取っていけるようになる。この設計は、親と子を対立させずに両方を支える考え方なのではないかな、と思います。
一方で、親御さんが医療や支援につながっていないケースには、この予防のアプローチは届きません。だからこそ、親御さんがつながっているかどうかに関係なく、子どもが相談できる場所も同時に必要です。どちらか一方ではなく、選択肢がいろいろあることが大事なんじゃないかなと思っています。
おわりに
番組の最後に、僕はこんなことを話しました。
精神疾患の親をもつ子どもの支援が整うということは、メンタルヘルス不調を有する方が子育てをしやすくなる社会にもなっていくはずです。だからこそ、対立ではなく、どうしたら精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくっていけるのかを、仕組みからしっかり考えていきたい。
対立構造をつくらずにこの課題を伝えていくことは、正直まだ全然うまくできていません。でも、そこに向き合い続けることが、この課題に取り組む上で一番大事なことだと思っています。
ABEMA Primeの番組は、
こちら
から見ることができますので、よければ見てみてください。
関連書籍
中央法規出版では,『精神疾患のある親をもつ子どもの支援』という書籍を発刊しました。参考にしていただければ幸いです。
