現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」第13回連載 審査請求(法務)~法的根拠に基づかない対応のリスク~
2026/09/09
著者
小川 幹夫(おがわ みきお)
自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。
前回 は、審査請求において記録が果たす役割について述べました。
記録は、審査請求において重要な意味を持ちます。
しかし、審査請求で問われるのは記録だけではありません。
支給決定そのものが、法令や通知、支給決定基準などの法的根拠に基づいて行われていたかどうかも重要な審査対象となります。
続編となる今回は、支給決定事務担当者が日頃から意識しておくべき「法的根拠」の重要性について考えていきます。
支給決定は行政処分である
障害福祉サービスの申請から支給決定に至る一連の手続は、行政が公費支出の可否や内容を決定する行政処分です。
市区町村は申請を受け付け、障害支援区分やサービス等利用計画、心身の状況などを踏まえて支給量を決定し、受給者証を交付します。
この一連の判断は行政処分である以上、「法律による行政の原理」に従わなければなりません。
これは、行政が国民の権利義務に関わる判断を行う場合には、法律に基づいて行わなければならないという憲法から導かれる基本原則です。
実際には、障害者総合支援法をはじめ、政令、省令、告示、国の通知、さらには自治体の条例や規則、支給決定基準など、多くの法令等がその根拠となっています。
私たち自治体職員は、これらの法的根拠に基づいて支給決定を行うことが求められているのです。
法的根拠に基づかない判断に潜むリスク
支給決定が行政処分である以上、申請の受付から障害支援区分の認定、支給量の勘案、支給決定に至るプロセスのいずれかの段階に手続上又は判断上の瑕疵があれば、その結果として行われた支給決定全体が違法又は不当と評価されるリスクがあります。
区分認定のミスが招く連鎖
例えば、障害支援区分認定の過程で、本来評価すべき調査項目の一部が未評価のまま「支援不要」と整理され、その結果として実際より低い障害支援区分が認定されたとします。
そして、その認定結果を前提として支給量の勘案が行われれば、その後の支給決定も誤った前提に基づくものとなります。
このような場合には、支給決定プロセス全体に瑕疵があることになり、審査請求の対象となることも十分考えられます。
「前例踏襲」という落とし穴
さらに注意しなければならないのは、このような誤りが一度生じると、その後の更新申請においても前回決定がそのまま踏襲され、長年にわたって同様の支給決定が繰り返されてしまうことがある点です。
支給決定事務担当者は、日々の多くの事務処理に追われて、「前任者もそうしていたから」という前例踏襲的な判断が生まれがちです。
そうして数年後、利用者や家族から疑義が示され、審査請求に発展することも決して珍しい話ではないでしょう。
その頃には、当初の支給決定を担当した職員はすでに異動や退職により不在となり、当時の判断経過を知る職員が課内に一人もいないということも十分あり得ます。
それでも、現担当者は処分庁を代表して弁明書を作成し、当時の判断の適法性や合理性を説明しなければなりません。
こうした事態は予期せず、突然やってくるのです。
日頃の丁寧な実務の積み重ね(最大のリスクマネジメント)
審査請求は、ある日突然提起されるものです。
しかし、日頃から支給決定のプロセスを適切に積み重ねていれば、過度に恐れる必要はありません。
・申請書の記載内容に不備はないか
・医師意見書の作成を適切な医療機関に依頼しているか
・障害支援区分認定調査の全ての調査項目について適切に聞き取りを行っているか
・勘案事項整理表に家屋の状況や家族の介護力などの事実を正確に反映している
・支給決定基準に基づいて支給量を算定しているか
こうした一つひとつの手続きを丁寧に確認しながら進めることが重要です。
日頃から法令や通知、支給決定基準に基づいて適正な事務を遂行していくことを心掛けていただきたいと思います。
適正な手続きと適切なアセスメントの重要性
もっとも、法令に則り、手続きを機械的に行うだけでは、適切な支給決定にはつながりません。
支給決定事務担当者に求められるのは、申請者の生活状況や障害特性、家族関係、地域資源の利用状況などを丁寧に把握し、それらを総合的に整理・分析した上で、支給決定へと結び付けていくことです。
つまり、法令に基づく適正な手続きと、適切なアセスメントによる実質的な判断の双方が備わって初めて、妥当な支給決定が実現するのです。
法令を正しく理解し、適切な手続きを踏みながら、一人ひとりの生活を丁寧にアセスメントし、その結果を支給決定へと結び付けていく。
その積み重ねこそが、利用者の権利を守るとともに、自治体自身を審査請求から守る最も確実な方法なのではないでしょうか。
以上、2回にわたり、審査請求について整理してきました。
実務に携わっていると、審査請求のリスクを必要以上に意識してしまうことがあるかもしれません。
しかし、法令や通知に基づいて適切な支給決定プロセスを踏み、その判断の根拠となるアセスメントや記録を日頃から丁寧に積み重ねていれば、仮に審査請求が提起されたとしても、その判断が簡単に覆されることはありません。
一つひとつの支給決定を丁寧に積み重ね、その都度、法的根拠と記録に基づいた判断を行うことが、審査請求を含めた法的なリスクへの何よりも確かな備えになります。
そのことを心に留め、これからも自信を持って日々の支給決定実務に取り組んでいただければ幸いです。
