現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第12回連載 審査請求(記録)~不服申し立て時に問われる記録の重要性~

2026/08/25

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。


 今回と次回の2回にわたり、障害福祉サービスにおける審査請求について整理していきます。

 

 障害福祉サービスの利用を申請しても、申請者が希望した内容どおりの支給決定が行われるとは限りません。
 これは、申請が却下された場合のみならず、支給決定がなされたものの希望していた支給量が認められなかった場合も含まれます。

 

 そのような場合に、申請者が市区町村の判断について不服を申し立てて是正を求める制度が審査請求です。

 

 前編となる今回は、”審査請求において支給決定事務担当者が作成する支援記録がどのような位置づけを占めるのか”、という点について考えていきます。


審査請求の流れ

 審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から原則として3か月以内に行います。
 審査請求先は市区町村ではなく都道府県知事です(市区町村を経由して提出することもできます。)

 

 ここで注目すべきは、審査を行う主体(審査庁)が、処分を下した市区町村ではなく「都道府県」である点です。
 都道府県は、処分をした市区町村とは別の行政主体ですので、第三者的立場で当否を判断できます。

 

 都道府県知事は審査請求を受理すると、まず市区町村に対して弁明書の提出を求めます。
 弁明書には、どのような事実認定を行い、どのような法令や支給決定基準に基づいてその処分を行ったのかを具体的に記載することになります。

 

 一方、審査請求人には弁明書が送付され、その内容に対して反論書を提出することができます。
 また、本人から申立てがあれば、口頭で意見を述べる機会が設けられることもあります。


 裁決には、以下の3つの種類があります。
  棄 却 : 区町村の処分に問題はなく、審査請求人の主張を退ける
  却 下 : 出期限切れや手続き上の不備により、審査自体を行わない
  認 容 : 審査請求人の主張を認め、市区町村の処分の全部または一部を取り消す

 

 認容裁決となった場合、市区町村は裁決の趣旨に従って改めて支給決定を行わなければならず、その効力は原則として当初の処分時点まで遡ります。


 当然、市区町村としては「棄却」を求めて弁明書を作成していきます。


記録の重要性

 弁明書の提出にあたり、支給決定に至る経過を示す記録など、判断の根拠となった資料も併せて提出することになります。

 

 支給決定は、単にその決定内容だけが問われるものではありません。
 申請者や家族からどのような聞き取りを行い、相談支援専門員や関係機関からどのような情報を収集し、それらをどのように評価して支給量を決定したのか。その意思決定の過程そのものが審査の対象となります。

 

 そして、その判断の基礎となっている重要な資料が、申請受理時から作成してきた記録です。

 

 審査庁は、弁明書の記載内容と照らし合わせながら記録やその他の資料(医師意見書等)を確認し、市区町村の判断が適法かつ妥当であったかを検証します。


 支給決定に至った市区町村の判断が、具体的に聴取した事実や関係者との協議等の記録によって裏付けられているという心証を審査庁に与えられれば、「棄却」という結果を導きやすくなります。

 

 審査請求手続きの中で、記録がいかに重要な位置を占めるのか、ご理解いただけたでしょうか。


記録の書き方に工夫を

 記録を作成する際には、いくつか意識しておきたい点があります。

 

 まず、いつどこで誰が何をなぜどのように行ったかという「5W1H」を押さえることが基本です。

 

 実際の記録作成では、申請者との複数回の面談を行っていく中で、担当者として「何とかしてあげたい」という強い思いや感情が表れてしまい、冗長的な記録となってしまうことがあります。
 しかし、記録は自分の思いや感情を表現するものではなく、支給決定に至る過程を客観的に示すための資料です。

 

  ・申請者や家族からどのような要望があり、どのような発言があったのか
  ・どのような資料が提出され、相談支援専門員など関係者とどのような協議を行ったのか
  ・その内容を踏まえて担当者としてどのように判断し、どのような説明や対応を行ったのか


 このような過程を時系列に沿って淡々と、簡潔に記録していくことが重要です。

 

 ここで特に意識したいのは、「事実」と「評価」を区別して記録することです。

 

 申請者の発言や提出書類、担当者が行った説明などは客観的な事実です。


 一方で、「同居家族はいるものの日中は常勤のため、昼間帯の家族支援は難しい」、「夜間帯を通して喀痰吸引が頻回であり、見守りを要する時間算定が必要である」といった内容は、事実を踏まえた評価に当たります。

 

 この二つを混在させるのではなく、「どのような事実に基づいて、その評価に至ったのか」が分かるように記録しておくことが、後に支給決定の合理性を説明するうえでの資料としての価値を高めます。

 

※こうした視点から記録のあり方を考えるうえでは、『 医療・福祉の質が高まる 生活支援記録法[F-SOAIP]―多職種の実践を可視化する新しい経過記録 』(中央法規出版)が大変参考になります。


記録は日々の取り組みの基本

 今回は、審査請求が提出された場合の記録の重要性について述べてきました。

 

 支給決定に至る経過を客観的に記録することは、担当者が常日頃から取り組むべき業務の基本です。
 その基本的な取り組みが、審査請求の場面でも、判断の適法性や妥当性を説明するための重要な証拠となります。

 

 もっとも、どれほど丁寧に記録が作成されていたとしても、その判断自体が事務処理要領や支給決定基準などの法的根拠に基づいていなければ、審査請求においてその正当性を説明することは困難です。

 

 次回は、審査請求を法的な視点から捉え直し、支給決定事務担当者が陥りやすい「法的根拠に基づかない判断」のリスクと、日頃から意識すべき法務の視点について考えていきます。


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