現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第7回 医ケア児(夜間支給)~公平性の観点から見た支給決定の重み~

2026/06/17

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。

 

 

  前回 に引き続き、居宅介護の医療的ケア児への支給決定について考えていきます。

 

 前回は、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」の趣旨及び事務処理要領の記載に基づき、家族支援の視点を含めた居宅介護による夜間の支給決定が可能であることを確認しました。

 

 では、居宅介護の支給決定においてどのように支給量を勘案していくべきでしょうか?


 私は以下の2つの考え方があると考えています。

 

第1説:算定支給量の弾力的運用

 まず最初の考え方は、居宅介護の一般的な運用で夜間支給量を積み上げるというものです。


 例えば、夜間帯(22時から翌6時までの8時間)に2時間ごと、1回20分程度の喀痰吸引が必要なケースを考えます。
 単純に喀痰吸引の時間だけを積算すると、夜間帯全体で支給決定可能な時間は合計2時間(算定時間数30×4回)となります。
 この内容の支給量であれば、特段の考慮を挟むことなく支給決定自体は認められるでしょう。


 しかし、現実には「2時間ごとに30分」という断続的な支援では、対応可能な居宅介護事業所を確保することが極めて困難です。

 

 また実態として、2時間ごとに喀痰吸引が必要な医療的ケア児の場合、支援内容は喀痰吸引だけに留まりません。
 体位交換や呼吸状態・体温の確認、医療機器のアラーム対応など、様々な支援も不可欠です。


 こうした支援を丁寧に積算すると、夜間2時間のうち1時間以上が実質的な支援時間として評価される場合も少なくありません。
 その結果、夜間帯全体で4~5時間程度の支給量が必要と判断されるケースも十分に考えられます。

 

 それでも、算定されない時間を「見守り」と位置づける運用になると、その時間は居宅介護では算定できず無償対応となるため、事業者が契約に応じる可能性は極めて低くなります。
 制度上は理論的に成立しているように見えても、実務上はサービス提供体制が成り立たない、という事態が生じかねません。

 

 

 この課題に対する現実的な対応策として考えられるのが、夜間帯の総支給量の枠をあらかじめ確保した上で、実際のサービス提供日や時間を柔軟に調整する方法です。

 

 具体的には、1日あたり夜間帯4時間分の支給量を算定し、これを週7日分として週28時間、月換算で約129時間(28時間×4.6週)を確保します。
 その上で、実際の運用では“サービスが入る日は夜間帯すべてをヘルパー対応とし、サービスが入らない日は家族が対応する”といった形をとります。

 

 この方法は一見すると現行制度の中で柔軟に対応できそうですが、週間計画表とサービス利用の実態において乖離が生じることから、「虚偽の計画に基づく支給決定」と評価されるリスクがあります。
 そのため、国や都道府県が制度解釈としてこれを認めるかは疑問が残ります(実際に国・都道府県に確認したことはありません)。

 

 また、支給決定機関と相談支援専門員、そして受託する介護事業所との間で十分な合意形成をしたうえで記録に残しておかないと、指導監査の際に事業所側の責任を問われるリスクもあります。

 

 しかし、現実には、医療依存度の高い障害児の在宅生活を継続するためには、このような柔軟な運用も検討には値します。
 制度の趣旨に照らせば、形式的な整合性よりも、在宅生活の継続可能性や児童・家族の安全確保を重視した運用が求められるのではないでしょうか。


 これが、私が実務を担当していた時期に考えていた方法です。


第2説:突発的な事態に対応するための体制評価

 もう一つの考え方は、「見守り」そのものの解釈を広げ、サービスを一体的に評価する方法です。

 

 介護保険の訪問介護において、見守りは「自立生活支援のための見守り的援助」に限定されています。
 障害福祉サービスの居宅介護も制度の成り立ちの経緯から、介護保険の訪問介護と同様の考え方により「日常生活に生じる様々事態に対応するための見守り」は認められないというのが一般的な理解かと思われます。
 こうした「見守り」を前提とするサービス類型として、「重度訪問介護」が総合支援法の中に用意されていることが一つの根拠となるからです。


 しかし、介護保険の訪問介護と障害福祉サービスの居宅介護が同内容ではないことは、 事務処理要領 の中でも明示されています。介護保険との適用関係に関する【具体的な運用例】の中の以下の部分です。

 

居宅介護や重度訪問介護を利用する障害者について、個々の障害者の障害特性を考慮し、介護保険の訪問介護の支給対象とならない支援内容や時間(例えば、家事援助として認められる範囲の違いや、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守りなど)が必要と認められる場合に、介護保険の訪問介護の支給とは別に居宅介護又は重度訪問介護の利用を認める。(下線部は筆者による。)

 

 このように、介護保険の訪問介護と障害福祉サービスの居宅介護では、家事援助として認められる範囲が異なることが明言されています。
 障害福祉サービスの居宅介護の具体的な支給対象となる範囲について、様々な状況を勘案することが可能なのです。
 そこで考慮すべきは、「 医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律 」の趣旨です。

 

 夜間帯における医療的ケア児の安全確保のためには、喀痰吸引や体位交換、医療機器のアラーム対応等、断続的な支援行為が不可欠です。
 これらの支援は、突発的な事態に即応することが求められる性質のものであり、対応の遅延が生命又は身体に重大な影響を及ぼすおそれもあります。

 

 このような状況においては、支援行為から次の支援行為までの間に実質的に待機に近い状態が生じるとしても、それは単なる「見守り」とは性質が異なると思われます。
 それは、必要な身体介護を即時かつ適切に実施するための体制を維持するものであり、このような一連の対応は相互に密接に関連した「一体的なサービス行為」と評価することが可能であると考えられます。

 

 したがって、夜間帯における断続的な身体介護を安全に実施するために必要な範囲においては、その間に事実上の「待機」とも評価しうる時間が含まれるとしても、これを含めて長時間の身体介護として支給決定を行うことには合理性があるといえるのではないでしょうか。

 

 この考え方は、第1説よりも支給量を多く算定することが可能となりますが、先行する支援と次の支援の間にある程度の時間(例えば2時間以上)が空いてしまう場合でも、これを「一体的なサービス行為」として認めることが妥当か、更なる検討を要します。

 

 なお、身体介護1回あたりの標準利用可能時間数が3時間を超えることについては、市区町村が「承認」することにより対応可能である旨が事務処理要領に示されています。


 この点も、現行制度の枠組みの中で柔軟な支給決定を行うことが予定されていることの論拠となります。


医療的ケアの判定スコアの活用

 児童の支給決定では成人とは異なり、障害支援区分認定を求められていません。
 その代わりに、障害の種類や程度の把握のために、5領域11項目の調査(事務処理要領別表1)を行った上で支給の要否及び支給量を決定するものとされています。

 

 しかし、この5領域11項目の調査だけでは支給の要否及び支給量の決定が難しいことから、その勘案にあたっては、 事務処理要領 において、


医療的ケアの判定スコアの調査項目欄に規定するいずれかの医療行為を必要とする状態である場合は、通常の発達を超える介助等を要するものとして支給決定を行うこととして差し支えない


とされています。

 

 この記載からは、勘案の際に医療的ケアの判定スコアを用いることが必ずしも形式的に義務づけられているとは読み取れません。
 しかしながら、医師の専門的判断を踏まえ、客観性と妥当性を確保した支給決定を行うためには、実務上は当該スコアを重要な判断材料として活用することが不可欠であると考えられます。


さらなる考察を重ねて

 医療的ケア児に対する夜間支給を含めた居宅介護の支給のあり方については、今後も制度運用や実務の蓄積を踏まえながら、さらなる議論が重ねられていくものと思われます。


 しかし、どのような考え方をとるにせよ、医療的ケア児に限って、保護者のレスパイトケアの視点を取り入れるなど、他の障害類型とは異なる特別な取扱いがなされることは、現実の運用上避けられない面があります。

 

 「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」や事務処理要領にその根拠となる記載があることが、この特別な取扱いを制度的に正当化していると考えるほかないところですが、それを公平性の観点から疑義なしと整理できるのかという問題は、なお残されているように思われます。


 また、上述した2つの考え方が実務において採用され得るのか、あるいは別の考え方に基づいて支給決定が行われるのかについては、市区町村ごとの判断に委ねられることになろうかと思います。

 これは 第4回 で述べたように、支給決定基準の策定が市区町村の役割(自治事務)とされていることからの帰結です。

 

 だとすれば、個々の場面での判断を支給決定事務担当者の裁量のみに委ねるのではなく、市区町村として一定の考え方や運用をあらかじめ定めておくことが必須となります。
 たとえそのような整理がなされていたとしても、現場の担当者は、児童や保護者の切実な思いに向き合いながら、制度との整合性を図り、公平性に配慮しつつ支給決定実務を担っていかなければなりません。


 そこには、感情論と制度論の狭間で判断を下すという、支給決定実務の重みが常に圧し掛かっているのです。