現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第5回 計画(案)と本計画~両者を区別して位置づける理由とは?~

2026/05/19

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。

 

 

 今回は、「サービス等利用計画」における「計画(案)」と「本計画」について考えてみたいと思います。

 

 障害福祉サービスの申請にあたって、申請者は市区町村からサービス等利用計画の提出が求められます。
 このため、サービス等利用計画は、支給決定のために作成される事務的な一書類であると捉えられがちです。

 

 しかし、本来の意義はそこにとどまりません。サービス等利用計画は、申請者本人が望む地域生活のあり方を将来にわたって実現するための指針であり、ケアマネジメントの視点から作成されるものです。まずはこの点を十分理解しておきたいところです。

 

サービス等利用計画が求められる理由

 サービス等利用計画が、支給決定のプロセスの中でどのような意味を持つのか、詳しく見ていきましょう。

 

 サービスの起点は、あくまで申請者本人のデマンドにあることは第2回でも述べたとおりです。
 このデマンドを行政側が直接ニーズとして編成し、支給決定を行うこと自体は制度上可能ですが、それでは「行政の裁量」が強く現れてしまうことが懸念されます。


 そこで、支給決定を「行政の裁量」だけに委ねるのではなく、本人中心の支援を制度として担保するために、ケアマネジメントの視点を取り入れたサービス等利用計画の提出という仕組みが採用されているのです。

 

「計画(案)」と「本計画」の二段階提出の意義

 このような性質を持つサービス等利用計画は、「計画(案)」と「本計画」という二段階で提出される仕組みとなっています。
 では、なぜこのような二段階のプロセスが設けられているのでしょうか。


 一見すると形式的にも映るこの二段階の提出には、支給決定の構造を理解する上で重要な意味があると私は考えています。


計画(案)の段階

 まず、計画(案)の段階では、相談支援専門員が申請者本人やその家族にヒアリングを行い、ケアマネジメントの視点からサービス等利用計画案を作成します。
 この段階の計画(案)は、支給決定のプロセスを一定程度意識しつつも、それに過度に縛られるものではありません。
 そのため、本人の意向(デマンド)を十分に踏まえ、地域生活を送るうえで望ましいと考えられるサービスの種類・内容・量が、相談支援専門員の専門性に基づいてプランニングされます。


本計画の段階

 一方で、この計画(案)を受理した市区町村は、その内容を尊重・斟酌(しんしゃく)しつつも、最終的には一連のプロセスに基づいて支給決定を行います。
 その結果を踏まえ、相談支援専門員が改めて申請者やその家族に再度のヒアリングを行い、更には「サービス担当者会議」の開催等を通じて、支援者間での具体的な支援体制の構築に向けた調整に進んでいきます。
 こうした調整を経て、支給決定の内容をケアマネジメントに反映し、改めて作成されるサービス等利用計画が「本計画」です。

 

 言い換えれば、本計画とは、「申請者等の希望を中心とした計画(デマンド)」と「支給決定を踏まえて具体化された支援(ニーズ)」とをすり合わせた、現時点における現実的な支援体制構築のための見取り図であると整理できます。

 

 

より良い支援に向けたベクトルの方向性の統一

 この二段階のプロセスが持つ実務上の効果として、私が特に大きいと感じているのは、計画(案)の提出を起点として、相談支援専門員と市区町村の支給決定事務担当者との間に対話の余地が生まれる点です。
 この対話は利害の対立する相互の間に向かい合うベクトルではありません。支援をより良い方向に持っていくにはどうすればよいか、という共通の目的に向けた同方向のベクトルで、話し合いがスタートするのです。

 

 申請者の生活状況や困りごと、支援の必要性について、双方が情報を共有し、認識をすり合わせていくことで、単なる「事務手続き」ではなく、「支援チームとしての意思疎通」が少しずつ形づくられていきます。

 

  第2回 の連載でお話ししたニーズとして捉えきれなかったデマンドにどのように向き合うかといった点も、この段階で意義を持ちます。双方が互いに有する知見を持ち寄るイメージです。


 このような相互理解の積み重ねにより、結果として申請者にとってより納得感のある支給決定が導かれ、ひいては、より良い支援体制の構築につながっていくものと思われます。

 

対話を有意義なものとするために

 市区町村職員と相談支援専門員との対話を有意義なものにするためには、申請者の心身の状況について、双方ができる限り共通の情報を持っていることが重要になります。
 その点で実務上大きな意味を持つのが、医師意見書の取り扱いです。

 

 事務処理要領には次のように記載されています。

 

 「医師意見書については、相談支援事業所によるサービス等利用計画の作成にあたって活用することが考えられる。このため、市町村は、指定計画相談支援を行う指定特定相談支援事業所から求めがあった場合は、本人の意向を確認し、本人から同意が得られた場合は、当該事業所に当該医師意見書の写しを交付すること。」

 

 この記載からわかるように、本人の同意が得られている場合には、計画(案)の作成段階から(医師意見書が提出された時点から)、市区町村担当者と相談支援専門員が同じ情報を共有しながら支援内容を検討していくことが可能になります。

 

 医師意見書は本来、障害支援区分認定のために提出される書類ですが、その内容には、障害の状態や医療上配慮が必要な点など、サービス内容を検討するうえで重要な情報も含まれています。
 これを相談支援専門員と共有することは、単に書類を提供するという意味にとどまらず、今後の支援体制の構築の中で利用者の状況を反映させる基盤を整えることにもつながります。

 

 介護保険制度においては、ケアマネージャーがアセスメントを正確に行うために、医師意見書の写しを市区町村から交付されることは一般的に行われています。
 これに比べ、障害福祉サービスの場合、相談支援専門員がそうした交付を市区町村に請求するケースは少ないように見受けられます。
 しかし、アセスメントが十分に行われないままサービス等利用計画が作成されている場合は、実施指導や監査において指摘事項となるだけでなく、何より、利用者に対して適切な支援を提供すること自体が難しくなるおそれがあります。

 

 今回の内容はやや抽象的になってしまいましたが、端的に言えば重要なのは次の一点に尽きると思います。

 

 利用者の安定した地域生活の実現という共通目的のため、支給決定事務担当者と相談支援専門員が、相互の役割と判断を尊重し、意思疎通を図っていくことです。