【vol.24】おかずがキムチだけの食卓 | 私はミューズとゼウスのケアラーです
2026/04/06
韓国の介護現場で働く作家が送るケア文学
激しいスピードで高齢化が進む隣国で、 ケアの最前線に立つ作家による、初の日本語エッセイ連載スタート!! 昼は介護の仕事をして夜は文章を書く、作家イ・ウンジュの連載が始まります。日本の介護福祉士にあたる、「療養保護士」という韓国の介護の国家資格を持つイ・ウンジュさんは、自身もケアの現場に立ちながら、ケアに関する文章を韓国語で発表する数少ない作家です。
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そんなイ・ウンジュさんは韓国で、ケアについてのエッセイ三部作(『私は神々の療養保護士です』『こんなに泣いて疲れたでしょう』『東京因縁』)を出版して話題を集め、2023年には母親の在宅療養保護の経験を盛り込んだ『ケアの温度』を刊行しました。ケア三部作の『私は神々の療養保護士です』では、療養保護士として歩んだ療養院での日々から訪問介護に至るまでの道のりについて、『ケアの温度』では、誰かをケアする時の適切な距離感・温度感とレジリエンスについて、やさしい筆致で綴っています。この連載では、イさんの目に映った韓国の介護現場から、「ミューズとゼウス」のためのケアについて考えます。
おかずがキムチだけの食卓。
丸いテーブルに一人で座り、ご飯を食べる昼食。
料理の香りが食欲をそそり、誰かと囲む食卓が味を引き立てるはずなのに、それらをすべて省いた食事は、ただ薬を飲むための手段にすぎない。
74歳の夫は公共事業に出かけている。両手が不自由なミューズの食卓を準備するのは、介護士である私の役目だ。
一人分のナスの料理を作るのに、今では10分もかからない。キュウリの炒め物もすぐにできる。家から持ってきた豚のプルコギも、カルビのタレに漬けて調理しても、10分を超えない。
午後には、母の食卓を見に行こう。
ミューズの食卓を整えながら、母のことが気にかかる。
母の食卓を思えば、今度はミューズが心配になる。
自分自身と、仲良く過ごすこと。
内面の自分とうまく付き合えれば、介護は重くも騒がしくもならず、ただ静かに、見守ることができる。
著者紹介
イ・ウンジュ 이은주

1969 年生、作家、翻訳家。日本に留学し、1998 年に日本大学芸術学部文芸学科を卒業。20 代から翻訳家になることを夢見て、家庭教師として働きながら翻訳した『ウラ読みドストエフスキー』(清水正)で夢をかなえる。その後も仁川国際空港の免税店で働きながら、休憩時 間は搭乗口 31 番ゲートで訳し、仁川への通勤電車でも訳し続け、『船に乗れ!』(藤谷治)、 『人生で大事なことはみんなゴリラから教わった』(山極寿一)をはじめ、十数冊もの日本書籍を韓国に広める。おばあちゃんっ子だったイさんは祖母の逝去をきっかけに、高齢者施設でボランティア活動を始め、その後療養保護士の資格を取得。昨年からは認知症になった実母の介護を行う。「ケア」と「分かち合い」について、文学の一形態として追及してみたいという気持ちから、高齢者のケア現場についてのエッセイを三部作で発表し、韓国で共感を呼ぶ。現在、
