独立・開業で広がる!ソーシャルワーカーの新しい働き方ガイド Vol.13 【独立・開業を選んだ人⑥】髙田美保さん(一般社団法人 社会福祉士事務所にじみる/フリー社会福祉士)の場合

2025/11/28

福祉職(社会福祉士・介護福祉士・ケアマネジャー等)必見!

 この連載は、介護や福祉の仕事に熱い想いをもち、これから資格取得を目指している方、あるいはすでに資格をもっていて、さらなるスキルアップを考えている方に向けてお届けします。
 今回は、福祉現場での経験を踏まえ、ソーシャルワーカーとしての独立・開業の道を選んだ髙田さんへのQ&Aを通じて、独立・開業に必要な心構えや視点をお伝えします。

 

聞き手:松谷 恵子(まつたに社会福祉士事務所所長)


髙田さんのプロフィール

一般社団法人 社会福祉士事務所にじみる/フリー社会福祉士。
社会福祉協議会での経験を踏まえ、「社会福祉士事務所にじみる」を運営するとともに、フリーの社会福祉士として地域に根差した活動(個人との契約によって、家族のように過ごすとともに有事に対応する支援や亡くなることへの備えと亡くなった後の支援等)をしている。

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Q1 「独立・開業」の原動力となったものは?

 25年以上前になりますが、社会福祉協議会で働いていたときに、社会に対する違和感をもったことが、独立・開業の原動力です。当時は、車いすの親が子を通院させる際に、親子を同時に支援するサービスがなく、親が子を病院に連れて行けないことがありました。また、視覚障がいのあるクライエントから、携帯電話が壊れてもすぐに修理に行けないと言われたこともありました。障がいがなければ親子で通院できただろうし、行きたいタイミングで修理にも行けたはずだと考えると、障がい者に不便を強いている社会になっているのではないかと感じました。
 さらに、「この人たちと一緒に仕事を続けたい」と思えた人たちとの出会いが独立・開業への後押しとなりました。仕事への情熱の傾け方やスピード感が自分と同じで、かかわればかかわるほど、この人たちと仲間になって、ずっと一緒に仕事したいと強く思いました。
 こうした経験を踏まえ、不便を強いられている人々に不便を強いない社会、一人ひとりの人を大切にする社会につながる仕事をしたい、そのために信頼できる仲間と一緒に独立・開業したいと強く思いました。


Q2 独立・開業までのプロセスは?

 独立・開業までのプロセスは大きく四つありました。
 一つ目は情報収集です。仕事をしながら、各種助成金の情報を集め、活動地域のニーズ調査を行い、法人化のメリット・デメリットを考えました。
 二つ目は、何のために、何を、どのような方法で行うのか、反対に何をやらないのか、失敗した場合はどうするかなど、独立・開業後の方向性の整理です。
 三つ目は、やりたいことを具現化する事業、安定した収入を得られる事業、そうした事業を行うための人員を集めたり、資金の確保する方法を具体的に想定しました。
 四つ目は法人化の準備、登記です。


Q3 独立・開業して良かったことは?

 「個別支援」をしっかりやろうという理念のもと、事業の枠組みをつくりました。そして、枠組みのなかでの支援はクライエントに合わせて変化させられるようにしました。
 たとえば、「24時間対応可能な緊急時対応」という事業では、緊急時の対応にとどまらず、クライエントの普段の日常に寄り添うことを大切にしました。クライエントが作った料理を一緒に食べ、感想を述べあって、次の料理を考えるという支援を行ったこともあります。クライエントからの「何かあったときに来てくれる安心だけでなく、人生が豊かになった」という一言はとても心に響きました。何気ない日常をクライエントと共に過ごすことで、その方の人生がカラフルになることに気がつきました。


Q4 独立・開業して大変だったことは?

 これまでの経験から「仕事はつらくて当たり前」「仕事とは時間通り働くこと」という意識にとらわれていたためか、充実した毎日に「こんなに楽しくていいのか」と漠然とした不安を抱えてしまいました。
 また、社会福祉協議会で携わったことのなかった、法人の運営・労務管理・経理はとても苦労をしました。苦労をしながらも、これまで見えなかった社会の仕組みやお金のまわり方に視野が広がり、ものごとの見え方が変わったように思います。


Q5 独立・開業はどんな人におすすめしたい?

 まず、明るく前向きな人です。そして、自分で自分の機嫌をよくすることができる人、つまり、自分で自分をコントロールできる人です。さらに、人との出会いを大切にできる人であれば、「次も会いたい」と思ってもらえるので事業が広がり、認知度も高まっていくと思います。


Q6 独立・開業を考える際に押さえておいてほしいことは?

 まずは、情報を集め、事業設計をしっかりと考えることだと思います。私は情報収集と事業設計に3~4年かけました。何を社会的な課題ととらえ、何を目指すのか、どのような方法で行うのか、資金や人員はどう集めるのかをさまざまな角度から考えました。自分として譲れないことと譲れることを考え、整理しておくことが重要です。また、法的にできないことがありますので、何ができて、何ができないかを明確にしておくことも大切です。
 独立・開業した後は、柔軟な支援ができることを目指して、事業の枠のなかで支援内容を状況に合わせて変えられるような仕組みにしました。運営面で赤字事業はありましたが、赤字事業を補填する黒字事業を行うことで、事業所全体の赤字を回避しました。こうした柔軟な事業運営や収支決定ができたのは、何重もの決済を必要とせず、リアルタイムに素早く行える意思決定を可能にする仕組みを構築したからです。
 また、自分たちのことを知らない関係機関、クライエントやその家族に、理念や事業の方向性を相手にわかる形で説明できるようにしておきましょう。法人とクライエントの契約においては、クライエントの判断する力を見極めることも必要になります。契約書類一式だけでなく、契約の手順なども定めておくとよいと思います。こうした誠実な姿勢が、信頼につながり、認知度につながると感じています。
 あとは「運」を信じて、動いてみましょう。