言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第16回
2026/08/21
ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。
Q. 幼児期のうちに、子どもの読み書きの苦手さに気づくことはできますか?
A. 読み書きの土台になる力の苦手さに気づくことで、今後の困りごとを予測し、早期からサポートを始めることができます。
知的な発達には遅れはないのに、文字を読むことに極端に苦手さがある状態は、「発達性ディスレクシア(発達性読み障害)」に該当することがあり、決してまれなものではないことがわかってきています。たとえば、音読で極端に時間がかかる、1文字1文字たどたどしく読む、間違えて読むことが多い、読むことで疲れやすいなど、一般的な発達の子どもに比べると、読むことにとても努力が必要な状態といえます。また、読むことに苦手さがあると、書字力も影響が出やすいので、読み書き全般が苦手になることが多いです。これらの姿が、本格的に見えてくるのは小学校に入ってからですが、実はその芽は、幼児期のうちから見えていることがあります。今回は、就学前に気づけるサインと、家庭や園でできる早期のサポートについて考えていきます。
就学前から見えるサイン
読み書きの土台になるのは、ことばを音の単位に分解したり取り出したりする力(音韻意識)と、文字の形を正確にとらえる力(視覚認知)です。たとえば「りんご」ということばが「り・ん・ご」という3つの音からできているとわかる、「ぬ」と「め」の形のちがいを見分けられるなどです。これらの力が育ってはじめて、文字と音を結びつける学習がスムーズに進みます。
この土台の育ちがゆっくりであるかどうかは、文字を習う前の子どもの姿からも確認できる場合があります。その1つが「しりとり」です。しりとりは「ことばの最後の音を取り出す」「特定の音から始まることばを探す」というルールがありますが、これは音韻意識が育ってはじめて成立する遊びで、5歳頃にはできるようになる子が多いと言われています。年長になってもしりとりがなかなか続かない場合は、音韻意識の育ちがゆっくりかもしれません。ほかにも、「エレベーター」を「エベレーター」と言うなど、音の入れ替わりがいつまでも続く、まわりの子が文字に興味を持ち始めても一向に関心を示さない、自分の名前のひらがなにもピンとこない、といった姿がある場合には、読み書きの土台となる力の育ちがゆっくりかもしれないと疑います。
もちろん、発達のペースには個人差があるので、これらに当てはまるからといって、必ずしも発達性ディスレクシアというわけではありません。あくまでも「気にかけて見ていくきっかけ」として、知っていておいてほしいと思います。

気になったときに、まず確認したいこと
読み書きの土台の育ちが心配になったら、まず確認したいのは聴力と視力です。音や文字の情報がそもそも正確に入っていない可能性を先に調べておきます。問題がなければ、発達検査や言語検査などで、その子のつまずきがどこにあるのかを見立てていく流れになります。この流れは、聞き取りが苦手な子どもの場合と基本的に同じなので、詳しくは 第14回「「聞き取り」の力を高める方法はありますか」 も参考にしてください。大切なのは、診断がつく・つかないではなく、子どもが困っていることがあるなら、「いまできるサポート」を始めていきたいということです。
焦って文字を教え込むのではなく、「土台」を育てる
「読み書きが心配なら、早くからドリルで練習させよう」と思う人もいるでしょう。ですが、土台となる力が育っていない段階で文字の練習を重ねることは、あまりおすすめしません。うまくいかない経験ばかりが積み重なったり、文字を習得するのに人の何倍も時間がかかったり、場合によっては、文字そのものが大嫌いになってしまったりするリスクがあるからです。幼児期に大切なのは、読み書きを教え込むことよりも、読み書きの土台になる力を遊びや生活のなかで育てることだと考えます。
音韻意識を育てる遊びで、私がよく行うのは、「音の数あてゲーム」です。大人がお題を出し、その音の数だけおはじきを並べていき、正解したらおはじきをゲットするという遊びかたです(「くるま」であればおはじきを3つ並べれば正解です)。最初は、音の数が2文字からはじめ、できるようになれば、3文字、4文字と発展させていきます。さらに上達してくれば、「りんごの“ご”は、どこにある?」のように、どこに音があるのかを並んだおはじきの中から選んでもらう遊びをします。音の位置は、語頭がいちばん簡単なので、まずは最初の音から、次に語尾、語中と出題していくとよいです。他にも、“あ”のつくことばを集めたり、2人でぱっと言った言葉を文字に書いてみて、どちらが長い言葉を言ったのかを勝負したりして遊ぶことがあります。

文字の形をとらえる視覚認知の面では、パズルや型はめ、簡単な図形の模写などが役立ちます。幼児期のうちにサインに気づき、読み書きの土台を育てるかかわりを始めておくことは、その子が「学ぶ楽しさ」を失わずに学齢期を迎えるための、何よりの準備になります。焦らず、遊びのなかで、できることから始めていきましょう。
(参考文献)
加藤醇子編著『ディスレクシア入門――「読み書きのLD」の子どもたちを支援する』日本評論社、2016年
田中駿ほか「しりとりを通してみた幼児の言語発達」『LD研究』33巻2号、2024年
川﨑聡大「ディスレクシアとディスグラフィアの理解と支援 読み書き困難のある子どもへの対応」学苑社、2024年
著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)
言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。
▶ ホームページ: miwamomoko.com
▶ インスタグラム:@hattatsu.hoiku.gakkou
