言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第14回

2026/06/19

ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。


Q 「聞き取り」の力を高める方法はありますか?

 

A 子ども自身のことばの力を育てながら、聞き取りやすい環境を整えていくことが大切です。診断の有無にかかわらず、いまできるサポートから始めていきましょう。

 

  第13回 では、聴力に問題がないのに話の聞き取りが苦手な子の背景として、脳でことばを処理する過程の不具合や、注意・記憶の課題などをお伝えしました。今回は、聞き取りが苦手な子どもがより聞き取りやすくなるために、本人の力を育てるアプローチと、まわりができる環境づくりについて考えていきます。


「聞き取りが苦手かもしれない」と感じたら…

 「聞き取りが苦手かもしれない」と感じたら、まずは聴力検査を受けることをおすすめします。「聞こえていない・聞こえにくい」という可能性を先に確認しておくことが大前提です。聴力検査で問題がなければ、次のステップとして、発達検査や知能検査、言語検査などが実施されます。聞き取りにくさの背景に発達の課題がある場合には、その特性に合わせた支援が行われることになります。
 APD(聴覚情報処理障害)の診断がつくのは小学生以降になることが多いようです。しかし、実際には、聞き取りの苦手さは幼児期からあらわれています。診断の有無にかかわらず、聞き取りにくさや、その影響による生活のしづらさがあるときには、その子に合ったサポートを早めに始めていきたいです。


聞き取りの力を支える「ことばの力」

 音を正確に聞き取ることが苦手でも、語彙力(ことばの知識)が豊富だと、多少聞き取れなかった部分があっても話の内容を推測しやすくなり、理解につながりやすくなります。私の臨床での印象ですが、聞き取りが苦手な子には、年齢に比べて知っていることばが少ない子が多いように感じます。聞き取りが苦手なために、耳から入ってくる「正確なことば」の量が少なかったり、ことばを聞いて覚えようとするアンテナが立ちにくいことが背景にあるためではないかと考えています。そのため、意図的に語彙力やことばの力を底上げするかかわりが必要だと考えています。

 

 語彙力を高めていく方法として、文字を読むことができたり、読書に抵抗が少ない子どもには、本や絵本にふれる機会を増やすことが効果的です。
 いっぽうで、読書にあまり興味がない場合には、「ことばの地図」というゲーム感覚で取り組める方法をよく使っています。「ことばの地図」は、紙の真ん中にキーワードとなることばを書き、そこから大人と子どもが交代しながら、思いつくことばをどんどん書き足していく方法です。たとえば、「りんご」からスタートすれば、「赤い」「くだもの」「皮をむいて食べる」「木になる」「丸い」「へたがついている」など、さまざまなことばへと広がっていきます。文字で書いてもよいですし、イラストに置き換えてもOKです。この方法のよいところは、語彙を増やすだけでなく、ことば同士のつながり(概念)を整理することにもつながる点です。「りんごは果物の仲間」「果物は木になる」というように概念が整理されると、新しいことばも覚えやすくなっていきます。

 


聞き取りやすくする環境設定

 もう1つの大切な視点は、環境を整えることです。特に年齢が小さいうちに「人の話を聞いてよかった」という経験をたくさん積めると、「人の話を聞いてみよう」という構えにつながっていきます。「注意して聞こうとする姿勢(聞く構え)」は、成功体験のなかで育っていきます。
 基本的な対応として、まず話しかけるときは雑音の少ない環境を選ぶようにしましょう。声をかける前に名前を呼んで注意を向けてから話し始めることも効果的です。また、聴覚情報だけで伝えようとするのではなく、実物や写真を見せる、お手本を示すなど、見てわかる情報を必ず添えるようにします。
 ことばの使い方についても工夫が必要です。一度に長い指示を聞き取ることがむずかしい子には、指示を短く区切り、1つの行動が終わってから次の指示を出すようにします。語彙数がまだ少ない子どもには、その子が理解できることばを意識して選ぶことが大切です。

 

 

 小学生以上の場合には、座席の位置も重要な配慮の1つです。先生に近い前方の席、かつクラス全体の様子も把握しやすい前から2番目あたりがよいと言われています。また、聞きながら同時にノートをとることが苦手な子も多いので、重要なことは板書してもらったり、板書を写真に撮ってもよいことにしてもらったりすると、授業で先生の話を聞くことに集中しやすくなります。子ども一人ひとりの「聞く力」に目を向けながら、できるところから取り組んでみてください。


(参考文献)
小渕千絵『APD「音は聞こえているのに聞きとれない」人たち―聴覚情報処理障害(APD)とうまくつきあう方法』学苑社、2020年
阪本浩一『マンガでわかるAPD 聴覚情報処理障害』ぶどう社、2021年
大伴潔ほか『アセスメントにもとづく学齢期の言語発達支援―LCSAを活用した指導の展開』学苑社、2018年


著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)

言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。

 

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