言語聴覚士もも先生の発達凸凹キッズのことばの相談室 第13回
2026/05/15
ことばの発達は、 発達の凸凹にかかわらず、子育て中の親がもっとも気になることの1つです。背景には、発語の時期が早い、遅い、ことばが多い、少ない、発音が明瞭、不明瞭など、まわりの子と比較しやすく、不安や悩みの種になりやすいということがあります。この連載では、日々、保育園や幼稚園での巡回相談、療育機関でのことばの療育を行っている言語聴覚士のもも先生に、「ことば」や「食べること」など、お口に関するよくある相談にわかりやすく答えていただきます。
Q. 聴力に問題はないのに、人の話を聞くのが苦手なのはどうして?
A. ことばを聞き取ることに苦手さがあるのかもしれません。
園の巡回相談にいくと、「指示を聞いていないことが多いです」とか「ちゃんと聞こえているのか心配になります」といった相談を受けることがあります。しかし、子どもの様子を観察していると、同じ指示を何度か繰り返さないと動けなかったり、個別に声をかけないと伝わらなかったりする一方で、外を走る車の音やとなりのクラスの歌声など、まわりの音には敏感に反応をしているので、「聞こえていないわけではなさそう…」ということがあります。
今回は、「聞こえているのに(聴力検査で異常は認められないのに)、人の話を聞くことが苦手」な子どもの理解につながる考え方をお伝えしていきます。
「聞こえ」と「聞き取り」の違い
人は、耳から入った音の情報が脳に伝達されることで、言葉を聞き取って(理解して)います。音そのものが聞こえない・聞こえにくい状態を「難聴」といい、外耳・中耳・内耳など耳から脳へ音の情報が伝わる経路のどこかに問題がある状態をさします。
一方で、「聞こえ」には問題がなくても、ことばの「聞き取り」がむずかしい場合があります。この場合は、音としては耳に届いているのに、「必要な情報に注意を向ける」「音を正しく分析して認知する」「ことばの意味を理解する」など、脳でことばを処理する過程のどこかに不具合がある可能性があります。こうした「聞こえているのに聞き取れない」状態はAPD(聴覚情報処理障害)と呼ばれ、近年、研究が進んでいます。
聞き取りにくさの背景にある「情報処理」の違い
「聞き取りが苦手」といっても、その状態は子どもによってさまざまです。聞き取りの苦手さの背景の1つに、神経発達症(発達障害)の特性があると考えられています。たとえば、音に対する敏感さ(感覚の偏り)の特性をもつ子どもの場合は、話している人の声と同じように、エアコンの音、廊下の足音、外を走る車の音などが耳に入ってきてしまいます。通常であれば、さまざまな環境音があふれていても、自分が聞き取りたい音は大きく聞こえるという脳のはたらきがありますが、それがうまく機能していないと考えられます。
また、「全体よりも部分に注目する」という特性をもつ子どもは、話のなかで自分が気になった部分の情報だけを受け取ってしまい、全体の意味を理解できないということもあります。「聞こえていないわけではないのに、伝わっていない」という状況は、このような情報処理の違いに由来する場合があります。

聞き取りにくさの背景にある不注意や記憶の課題
注意力が散漫になりやすい子どもは、最後まで話を集中して聞くことがむずかしいことがあります。話の途中で意識がそれてしまい、気づいたときには内容がわからなくなっています。また、話を聞きながら内容を一時的に記憶し、自分の知識やほかの情報と関連づけながら理解する力(ワーキングメモリ)のはたらきが弱い場合も、長い話や複数の人の間でのやりとりが苦手になります。
さらに、神経発達症(発達障害)には該当しない、または診断がついていなくても、それに近い認知的な偏りがある場合や、不安や疲れなどの心理的な負担がある状態では、聞き取りがむずかしくなることもあります。

「発音」が苦手な子に隠れている「聞き取り」の課題
言語聴覚士として子どもにかかわっていると、「発音の不明瞭さ」の相談に来た子どもが、実は聞き取りの課題も抱えていたというケースがよくあります。たとえば、「きりん」を「ちりん」と発音する子どもは、「き」の音をつくるための口の動きが苦手という場合もあれば、似た音を聞き分ける力が弱いために、「き」と「ち」を混同して発音してしまっているということもあります。文字を書き始めるようになってから、「ちりん」と書いている様子を見て、「き」が「ち」に聞こえていたとわかることもあります。「口を動かす練習をしてもなかなか改善しない」という場合には、口の運動だけでなく、音の聞き取りの点も見直してみることが大切です。
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今回は、聞き取りの苦手さの背景について解説しました。次回は、聞き取りが苦手な子どもに対して、まわりの大人はどのようにかかわるとよいのかをお伝えします。
(参考文献)
小渕千絵『APD「音は聞こえているのに聞きとれない」人たち―聴覚情報処理障害(APD)とうまくつきあう方法』学苑社、2020年
阪本浩一『マンガでわかるAPD 聴覚情報処理障害』ぶどう社、2021年
著者紹介

三輪桃子(みわ・ももこ)
言語聴覚士、保育士。ことば・発達・集団生活の相談室コトバトコ主宰。乳幼児健康診査や子育て支援センターの母子相談、園での巡回相談にも従事している。いちばん好きなのは、保護者や保育者と子どものサポートについてあれこれ悩み、話し合う時間。著書に『発達凸凹キッズがぐんと成長する園生活でのGood!なサポート 苦手を減らして小学校につなげる工夫』『発達凸凹キッズの子育てナビ 年齢別にわかる!いまがんばりたいこと、がんばらなくてもよいこと』(いずれも共著、中央法規出版)がある。
▶ ホームページ: miwamomoko.com
▶ インスタグラム:@hattatsu.hoiku.gakkou
