「対話」があれば技法は半分でいい⁉ 【保存版】支援現場を変える3原則と5つの型
2025/12/26
日々、何気なく行っている「聞く」ことと「話す」こと。そのやり取りは、いつの間にか一方通行になってはいないでしょうか。目の前にいる大切な人の話を、ただ「聞いているつもり」で済ませてはいないでしょうか。
そんな自戒にも似た問いへのヒントが、2025年9月に刊行された『 対話の実践力 ケアを極める聞き方・話し方 』にあります。 本コラムでは、出版記念オンラインセミナーにて著者・小瀬古伸幸さんが語った「執筆への思い」や「対話とは何か」を凝縮してレポート。本書のイラストを担当した笹本玲緒奈さんによるグラフィックレコーディングと併せて、そのエッセンスをお届けします。
セミナーの内容をまとめたグラフィックレコーディング

*グラフィックレコーディングとは 会話や対話の内容をリアルタイムに文字と絵で描いていく手法。言葉だけでなく、気持ちや雰囲気といった目に見えないものも可視化し、その場のプロセスを支えることを目的としています。
【1】この本ができた経緯ーーなぜ今、「対話」の書籍が必要なのか
ーー 小瀬古さん、本書執筆の経緯と期待についてお聞かせください。
小瀬古さん:実は、当初、多職種連携に関する書籍を作る予定で、編集者と数時間にも及ぶ議論を重ねていました。その議論自体がまさに対話そのものだという気づきから、テーマを対話に切り替えることになりました。
私自身が対話に深く触れたのは、昨年(2024年4月)に佐賀県でオープンダイアローグトレーナーの森川すいめい氏とご一緒させていただいたワークでの体験がきっかけです。オープンダイアローグの概念や文献は以前から知っていましたが、実際に体験すると、文献で読む知識とは全く異なる感覚でした。
私はこれまで、コミュニケーション技術のトレーニングを重ね、技術的な側面には割と自信がある方でしたが、対話は技術的なレベルを超えた、もっと本質的なものだと肌で感じたのです。
対話がない世界を想像したとき、特に複雑な背景を持つ精神的困難を抱えた方々にとっては、「うまくいきようがない」と感じました。これまでの技術的なアプローチでは乗り越えられなかった壁を、無意識のうちに対話的な関係性で乗り越えていた経験から、対話を広げていきたいという期待を込めて執筆しました。対話があれば、技法は半分でも大丈夫だと思えます。
【2】対話がない現場で浮き彫りになる5つの課題
ーー対話がない支援現場では、どういったことが課題となるのでしょうか。
小瀬古さん: 私の経験上、対話がない現場で浮き彫りになる課題は、主に以下の5点だと考えています。
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1. 利用者理解の浅さ: 表面的な情報や症状にばかり目が向き、「この人の本当の思いが見えてこない」と感じる。「どうしてこういう行動をするのかわからない」とモヤモヤする。
2. 一方通行の関わり: 支援が説明や指示に偏り、「自分だけが話している」「相手の反応が見えない」感覚になる。「結局、伝わったのかどうかわからない」と感じやすい。
3. チーム内の不一致: 支援者同士の見立てや解釈が共有されず、同じケースでも対応がバラバラになる。「人によって言うことが違う」と利用者から言われてしまう。
4. 先が見えない不安: 方向性や次のステップが見えず、「本当にこれでいいのか」という迷いが拭えない。ゴールが共有されていないため、前に進んでいるという実感も乏しい。
不確実な未来をどう考えていけばいいのか、地図がないなかで知らない土地を歩いているような感じで、どこを目指せばいいのかがわからない。
5. 支援者自身の疲弊: 対話がないと「ただ仕事をこなすだけ」になり、やりがいや達成感を感じにくい。「本当に役に立っているのか」と虚しさや疲れを覚える。そして燃え尽きてしまう。
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本書は、対話のプロセスを理解するだけでなく、どうしたら支援者の皆さんの実務に落とし込んでいただけるのかをとことん突き詰めて書いています。
【3】「対話」の定義と実践原則
ーー「対話」の定義と、大切な考え方について教えてください。
小瀬古さん: 対話の定義は様々で、100人いたら100通りの答えが返ってくると言われています。本書では私の解釈として、対話とは「主観と主観の交通」であるとしています。交通には、スムーズに進むこともあれば、渋滞や、ときには事故(意図しない衝突や傷つき)が起こることもあります。だからこそ、支援者は「どう安全に対話を開いていくか」を考えなければなりません。対話は、目的があって相手に影響を与える会話の技術であるコミュニケーション技術とは異なります。対話は技術そのものというよりも、プロセスを通じて生まれてくるものです。
安全な対話を実践するための本質的な考え方として、「3つの原則」と「5つの型」を整理しています。詳しくは、ぜひ本書をお読みください。
ーー「対話」の定義と、大切な考え方について教えてください。
小瀬古さん: 対話の定義は様々で、100人いたら100通りの答えが返ってくると言われています。本書では私の解釈として、対話とは「主観と主観の交通」であるとしています。交通には、スムーズに進むこともあれば、渋滞や、ときには事故(意図しない衝突や傷つき)が起こることもあります。だからこそ、支援者は「どう安全に対話を開いていくか」を考えなければなりません。対話は、目的があって相手に影響を与える会話の技術であるコミュニケーション技術とは異なります。対話は技術そのものというよりも、プロセスを通じて生まれてくるものです。
安全な対話を実践するための本質的な考え方として、「3つの原則」と「5つの型」を整理しています。詳しくは、ぜひ本書をお読みください。
【3つの原則】
原則01. リーダー性を返す応答: 支援者が主導するのではなく、対話を通じて利用者さん自身が自ら望む方向を探っていくことを支援者が伴走すること。これは単なる主体性だけでなく、「他者との相互作用を損なわないよう配慮する」ことも含みます。
原則02. その人のいない場所でその人の話をしない: 支援者同士で決めたことでは、本人の「本当の声」が反映されず、誤っている可能性もあるため、できるだけ本人を招き入れて話すことが大事です。
原則03. 不確実性を許容し共にいる: 精神的困難を抱えた方々は「生きる苦悩が最大化している」状態であり、標準化された医療が歯が立たない場面が多くあります。わからない状況や決めきれない時間自体に意味があるため、支援者がともにいることが大切です。
【5つの型】
型01. 聞くと話すを分ける: 単純だが実践は難しい、聞く側と話す側を明確に分ける構造です。
型02. 全員の声を重ねる: 声の強い人だけが話すのではなく、関係する全員の声を傾聴すること。
型03. 分析やジャッジをしない: アセスメントありきで対話をせず、話している内容を「良い・悪い」と解釈したりせずに、全身で聞くこと。
型04. その人の言葉を言い換えない: 本人が言っていないことを「幻聴ですね」と決めつけたり、「心配ですね」と先取りした共感をしないこと。
型05. 対話のプロセスを信じる: 迷いや葛藤、まだ言葉になっていないものがある状況で、結論を急がず、わからない時間を支援者が一緒に引き受けること。
【4】質疑応答
ーーここからは、皆様から寄せられた質問にお答えいただきます。
Q1. 学童思春期の利用者さんが気分が乗らないことを理由に訪問キャンセルが続く場合、どう対応すべきでしょうか。
小瀬古さん: 訪問看護を受けることは手段なので、それを目標や目的とする前提で話すと、対話的にはなりにくいと考えます。まずは、「全員の声を重ねる」(対話の型02)ことが大事です。本人の「気分が乗らない」に込められた意味(睡眠不足、身体的な不調、対人関係の疲れなど)を紐解く対話が必要です。訪問看護を受けるかどうかにジャッジメントが入ると本人にプレッシャーがかかるため、「分析やジャッジをしない」(対話の型03)ことが重要です。
Q2. 部下との対話をうまく行う方法を教えてください。
小瀬古さん: キーワードは、「権威勾配をいかに減らすか」です。上司と部下の1対1ではなく、チームで対応すること(せめて3名以上)から始めるのが良いでしょう。
Q3. 障害当事者として、対話が成り立たない対人支援者が多く、支援関係が破綻してしまうことがあります。そうした支援者とも関係を維持できる方法はないでしょうか。
小瀬古さん: 本書の「透明性を意識する」を参考に、伝えたいことの「意図」を加えて伝えてください。どういう場面で対話が成り立たないと感じたかを具体的に伝え、「それを聞いて相手がどう感じたか」を聞いてみてください。この本に書かれている、対話の成立に必要な要素を一緒に確認し、一つ一つ確認していく形で活用することで、支援者も受け入れていくのではないでしょうか。
Q4. 面接ごとに意向がコロコロ変わる方への対応で迷います。
小瀬古さん: 意向が変わるのは、その人の中に迷いや葛藤のプロセスがあるからです。その人がその時に発した言葉は、二度と発せられないかもしれません。支援者としては、その時感じた希望なんだと思いながら受け取り続けることで、関係性の連続性が生まれます。その上で、「不確実性を許容し、ともにいる」(対話の原則03)ことが大切です。
Q5. 認知症の母親との会話が苦しい、頭では対話の意義がわかるのですが、イライラしてしまいます。アドバイスをお願いします。
小瀬古さん: 対話的になれないときは誰にでもあります。イライラしてしまうのは、元々の母親の姿と今の姿が違い、日常の中での会話が苦しくなるためです。私の工夫としては、対話的になれない自分も許容していくということです。対話の技術や力を用いて、自分自身の内側の自分と対話するのです。この際、自分自身に対しても「分析やジャッジをしない」(対話の型03)ことが重要です。
Q6. 精神科認定看護師教育課程を受講中です。実習へのアドバイスをお願いします。
小瀬古さん: 精神科認定看護師のカリキュラムでは技法を身につけることが責務ですが、複雑なケースほど、標準化された医療や技法がうまくいかないことがあります。そのときには、「専門職としての鎧(よろい)を脱ぐ瞬間」を思い出してください。精神的苦悩は、病気が最大化する以前に「生きる苦悩が最大化している」状態であり、標準化された知識は役に立たないことが多いのです。鎧を脱げば、技法にすがる必要がなくなり、「対話が続いていれば何とかなる」と本気で思えるようになるはずです。
Q7. 職場で対話を練習してみたいのですが、どう始めたらいいでしょうか。
小瀬古さん: まずやっていただきたいのは、机を挟まず円になっていただくことです。そして、対話の練習を「なぜやってみたいかという経緯」と「やってみることに期待すること」を、質問者の方がまず話してみてください。その後、他の人に「どう感じたか」を聞いてみましょう。リフレクティング(内省を促す対話のプロセス)を参考に、「聞くと話すを分ける」構造から進めるのが有効です。
ーー小瀬古さん、貴重なお話をありがとうございました。まずは、実践してみようと意識することから、対話の世界は開かれていくのだと思います。ご参加の皆様、本日は誠にありがとうございました。
■著者紹介
小瀬古伸幸(こせこ・のぶゆき)
訪問看護ステーションみのり副社長(広報戦略担当)
精神科認定看護師、WRAPファシリテーター、Family Work Practitioner。
精神医療分野における在宅医療の実践はもちろん、多数の執筆、研究実績あり。現在は訪問型の家族支援に力を注いでいる。
X @nobuyukikoseko
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