精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会をつくるために 第8回:大学入学後に生まれた罪悪感

2025/05/22

 みなさん、こんにちは。2001年生まれの大学生で、精神疾患の親をもつ子ども・若者支援を行うNPO法人CoCoTELIの代表をしている平井登威(ひらい・とおい)です。

 

 「精神疾患の親をもつ子ども」をテーマに連載を担当させていただいています。この連載では、n=1である僕自身の経験から、社会の課題としての精神疾患の親をもつ子ども・若者を取り巻く困難、当事者の声や支援の現状、そしてこれからの課題についてお話ししていきます。

 

 前回までは高校サッカーなどについて振り返り、サッカーに没頭することでどうにか日常をつないでいた経験をお伝えしました。今回は、進路決定と離家の葛藤について当時の心の揺れを振り返ってみようと思います。

 

著者

平井登威(ひらい・とおい)

2001年静岡県浜松市生まれ。幼稚園の年長時に父親がうつ病になり、虐待や情緒的ケアを経験。その経験から、精神疾患の親をもつ子ども・若者のサポートを行う学生団体CoCoTELI(ココテリ)を、仲間とともに2020年に立ち上げた。2023年5月、より本格的な活動を進めるため、NPO法人化。現在は代表を務めている。2024年、Forbes JAPANが選ぶ「世界を変える30歳未満」30人に選ばれる。

 

NPO法人CoCoTELI

X


初めての1人暮らしと新型コロナウイルス

 2020年3月末、「ついに地獄の家を抜け出せる。これからは楽しく自由に生きるんだ!」という期待を胸に大阪への引越しを完了させました。
 しかし、世間は新型コロナウイルスのニュースが絶えず流れていた時期。
 結果的に入学直後にキャンパスは閉ざされ、授業は半期完全オンラインに。憧れていたキャンパスライフとは真反対な生活が始まりました。
 学校は最初の登校日のみで、友達は数人しかいません。緊急事態宣言も発令し、初めて住む地、初めての1人暮らしでの苦しい生活が始まりました。
 でもその閉ざされた生活も、日々恐怖を感じなくてよいため、 “その面では”今までの18年間の生活と比べて圧倒的にマシなものでした。

 

「自由」の中にあった、「孤独」という罠

 大学進学を決めたとき、1人暮らしの家が決まったとき、大阪で1人暮らしを始めたとき、家族と距離を取ったことで何かが劇的に変わると思っていました。でも、実際はそうではありませんでした。

 

 「物理的な距離を取れても心の距離は簡単に離れない」


 僕を襲ってきたのは、そんな現実でした。


 「自分は家族から逃げたんだ!」
 「自分は家族を見捨ててしまったんじゃないか?」
 「お母さん、殺されてないかな?」
 「自分が家を出たせいで家族を止める人がいなくなって、大きなトラブルになっていたらどうしよう…」

 

 希望であった実家の外での生活は、希望とは反対ともいえる「罪悪感」に包まれました。

 

 そんな感情に包まれても外出して気分転換できないコロナ禍での生活は、とてもしんどかったです。あのときは、深夜に地元の友達たちとつなぐ『荒野行動』(ゲームです)が何よりも支えだったなと思う反面、昼夜逆転の生活はますます自責のループを強める側面もありました。

 

「距離」と「自由」がもたらした発見

 一方で、物理的な距離をとったからこそ気づけたこともあります。

 

 家を出て初めて、自分の家庭を客観視できる瞬間が増えました。また、「自分の人生」を認識するタイミングが少しずつ増えた面もあり、苦しさのなかにも、物理的な距離をとったことによる視点の変化が生まれはじめていたのも事実でした。

 

「同じような人が、いた」

 完全オンラインの半期をなんとか乗り越え、少しずつ対面授業も増えてきた頃、Twitterをなんとなく眺めていたとき、あるプロフィールが目に飛び込んできました。

 

 「精神疾患を有する両親がいます」

 

 今思えば、当たり前に似た状況にいる人がいることは考えればわかりますが、当時は「自分1人だけ」だと思っていたので、とても衝撃的だったことを覚えています。

 

 そして、彼女のプロフィールや発信を見ると、僕がこれまで誰にも言えずに抱えてきた“家のこと”と似たことが書かれていました。

 

 投稿者は、愛知県に住む同い年の大学1年生。衝動的に、DMで「話してみたいです」と連絡しました。

 

 それからZoomで話をし、僕は初めて自分の家庭環境について、誰かにしっかりと話すことができました。

 

 それまで他人には“まったく話せなかった部分”を話すことができ、似た経験を有していることで生まれる安心感や心強さを感じ、そのとき、家族のことに関して初めて「心が軽くなる」という感覚を覚えました。

 

 この出会いは、僕の人生を大きく変える出会いとなったので、次回詳しく書いていけたらと思います。


改めて振り返って

 家を離れることで変わったことも多くありましたが、「罪悪感」は本当に苦しかったな、と思います。実際に日々CoCoTELIの活動をしていても、「家を離れたことに対する罪悪感」に出会うことは多く、離家の難しさを感じています。この文章を読んでくださった方ともお話したいテーマなので、もしよければお声かけください。

 

 次回は、CoCoTELIの立ち上げから書いていけたらと思います。


大学に入ってからは、気張らずにサッカーを楽しむようになりました