現場の「迷い」を断ち切る!障害福祉サービス支給決定・実務の「急所」 第15回連載 総括~学び続けることが自分と利用者を守る武器になる~

2026/10/14

著者
小川 幹夫(おがわ みきお)


自治体職員。都内自治体にて、10年にわたり障害福祉サービスの支給決定・支給量算定実務に従事。現場での豊富な経験に基づき、制度の「建前」と運用の「実態」をひも解く視点を持つ。司法書士有資格者として、行政法および障害福祉制度の高度な法的思考(リーガルマインド)に基づいた実務解説を得意とする。東京都身体障害者福祉司会元会長。


 

 連載最終回となる今回、総括として「学び続けることが自分と利用者を守る武器になる」をテーマに、障害福祉サービスの支給決定事務担当者に求められる姿勢について考えていきます。

 

 私は、福祉の仕事に「これが完璧」という到達点はないと考えています。
 だからこそ、よりよい支援の形を追い求め、学び続けることが求められます。


 制度を学び、実践を振り返り、その積み重ねによって支援の質を高めていく――これこそが福祉に携わる者の使命ではないでしょうか。


学びの必要性を考える

【入所希望をめぐる対応の差】

 ある利用者が障害者支援施設への入所を希望している利用者がいました。
 本人は「現在住んでいる都道府県内での入所」を強く希望しています。

 

 ●担当者Aの対応

 インターネット等で空き施設情報を調べた結果、「近隣に受入れ可能な施設はない」と判断し、遠方の施設を案内した。

 ●担当者Bの対応

 過去に入所実績のある施設へ一軒ずつ電話をかけ、「近いうちに空床が出る予定はないか」「なんとか受け入れてもらえないか」と、個別に粘り強い調整を重ねた。

 

 その結果、本人の希望通り県内施設へ入所できる道が開けた。


 この例において、担当者Aも間違った対応をしているわけではありません。


 しかし、知識や経験、そして何より「支援のためにもう一歩踏み込もう」とする姿勢によって、利用者の生活は大きく変わり得るのです。

 

 現場では今なお、担当者によって支援の質に差が生じてしまう場面があると感じています。これは利用者の立場からすれば、不合理なことです。
 こうした差を小さくしていくためには、組織としての人材育成や知識の共有が不可欠です。


 しかし、同時に、一人ひとりの担当者が「もっとよい支援はできないか」と問い続け、学び続ける姿勢を持つことも欠かせません。

 

支給決定事務担当者が持つべき2つの武器とは

 支給決定事務担当者が学び続けなければならないのは、知識の蓄積のみならず、最終的には利用者支援の質につながるからです。

 

 支給決定実務では、「定型」と「非定型」という考え方があります。


 私はこの考え方を支援者自身にも当てはめることができるのではないかと考えています。
 つまり、支給決定事務担当者にも「定型的な支援」と「非定型的な支援」の両方の力が求められるということです。

 

① 定型的な支援力

 定型的な支援力とは、障害福祉サービス制度に基づく支援の力です。

 

 居宅介護や重度訪問介護などの自立支援給付はもちろん、地域生活支援事業や補装具など、障害者総合支援法に基づく各種制度について理解し、適切に案内・運用できる力であり、これは担当者としての基本的な役割です。

 

 さらに、障害福祉サービス以外にも、介護保険制度や生活保護制度、年金制度など、利用者の生活を支える制度は数多く存在します。
 これらについて詳細な実務知識まで求められるわけではありませんが、制度の概要を理解し、必要に応じて適切な窓口へつなぐことができる程度の知識は備えておきたいところです。

  

② 非定型的な支援力

 一方、非定型的な支援力とは、福祉制度の枠を超えた支援の力です。

 

 例えば、公営住宅への入居手続きや成年後見制度、民間団体による支援制度など、利用者の地域生活を支えるために必要となる幅広い社会資源の内容や特性を理解し、これらを活用する力です。

 

 支給決定事務担当者は、単に支給量を決定する行政職員ではなく、利用者を支える支援チームの一員でもあります。
 そのため、既定の福祉制度に精通しているだけではその職責を十分に果たしたとは言えません。
 利用者の生活全体を見据え、多様な社会資源へとつなぐ視点を持つことも必要なのではないでしょうか?

 

 多様な支援方法や社会資源等を知ることは、利用者の選択肢を増やすことにつながります。だとすれば、制度の枠を超えて学び続けることこそが、支給決定事務担当者にとっても最大の「武器」になるのではないでしょうか?

 


自分自身を振り返ってみて

 連載の締めくくりにあたり、少しだけ私自身のことを書かせていただきます。

 

 私は、もともと福祉の専門職ではなく、一般事務職として都内の自治体に採用されました。
 最初に福祉事務所でケースワーカーを経験したものの、その後は事務部門での勤務が長く続き、福祉の現場から離れていました。

 

 再び福祉分野に携わることになったのは、四十代後半に身体障害者への個別支援を担当する係長に着任したときです。
 当事者やその家族、相談支援専門員をはじめ、多くの支援者と関わる中で、障害のある方々が、自らの意思を表明する場面や、その意思を実現する過程で、さまざまな困難や不利益に直面している過酷な現実を目の当たりにしてきました。

 

 その経験を通じて、私は「障害のある方々の権利の実現に、自分の人生を少しでも役立てたい」と考えるようになりました。そして、そのための一つの手段として司法書士資格の取得を目指したのです。
 恥ずかしながら、結果として合格まで8年という長い年月を要してしまいましたが、その過程で法律を学んだことは、支給決定実務を遂行していく上でも大きな武器になりました。

 

 制度を運用するだけではなく、その根拠となる法令や行政法の考え方を理解することで、「どうすれば利用者の権利を実現できるのか」という視点を、これまで以上に強く持つことができるようになったと感じています。

 

 そう遠くない将来、私は司法書士として新たな一歩を踏み出す予定です。
 そして、行政で培った支給決定等の実務経験と、法律の知識の双方を生かしながら、意思決定支援や権利擁護といった場面で、自身の役割を果たしていきたいと考えております。


最後に

 福祉の現場では、正解は一つではありません。
 だからこそ、知識を積み、経験を重ね、「これが本当に正解なのか」と自らの判断を問い続けることが大切なのだと思います。

 

 そうした姿勢を維持するために学び続けることが、利用者の権利を守り、同時に支援に携わる自分自身を守る何よりの力になるのだと、私は信じています。

 

 この連載が、皆さまの日々の実務を振り返り、もう一歩深く考えるためのきっかけとなれば、これほど嬉しいことはありません。

 

 それではまた、どこかでお会いしましょう。